浅見彰宏さん「『選べる豊かさ』から『責任をもつ生き方』へ」

 2015年2月7日(土)の午後は、東京・下北沢へ。
 繁華街を抜けて10数分、小さなせせらぎを渡った先にふくしまオルガン堂があります。
 
 NPO法人・福島県有機農業ネットワークが開設・運営する施設で、農産物や加工品の直売、福島の食を楽しめるカフェ、交流・体験の窓口等としての拠点となっいます。
150207_1_convert_20150208221916.png
 店頭の棚には、この日、福島から入荷したばかりの野菜が並べられています。いずれも検出限界値を下回っている旨の検査結果が添えられています。
 店内には様々な加工品も。壁には生産者の皆さんの写真が並んでいます。
150207_2_convert_20150208221947.png
 この日14時から開催されたのは、.「『選べる豊かさ』から『責任をもつ生き方』へ」と題する市民講座。
 主催はCS(コミュニティースクール)まちデザイン
 「食農共育」(しょくのうともいく。食の消費と生産に関わる全ての人が共に学び、育みあうことで問題を解決しようとする取組)を広げるための事業を中心に行っているNPO法人です。
 理事長の近藤惠津子さんの挨拶に続き、理事の大江正章さん(ジャーナリスト、出版社・コモンズ代表)の進行で開会。
150207_3_convert_20150208222009.png
 この日の講師は浅見彰宏さん(ひぐらし農園主宰、福島県有機農業ネットワーク事務局長)。
 パソコンの調整をされている間に、ランチを出して頂きました。この日のセミナーはランチ付きです。
 オルガン堂では、日替わりで福島の豊かな食材使った「ふくしま定食」を頂くことができます(注:数量限定)。
 この日のメニューは「冬カレー」。寒締めほうれん草やカボチャ、茹で卵が入り、ヤーコンも煮込まれているとのこと。美味タス(半結球レタス)とゴボウのサラダが添えられています。
150207_4_convert_20150208222033.png
 食事を頂きながら、浅見さんの話が始まりました。
 「今日は、福島で自分が実際に体験していることについて話したい。原発事故以降、福島は特殊な地域と思われているが、実は日本農業を10年ほど先取りしている面がある」とのことです。
 まずは自己紹介から。
 1969年千葉県生まれ。大学卒業後に大手鉄鋼メーカーに就職し、主にアルミ板の輸出を担当していたものの、次第に農業に関心を持つようになり、消費型ライフスタイルへの疑問も高まって退社。
 埼玉・小川町の有機農家・金子美登さん(霜里農場)の下で1年間研修した後、1996年、福島・喜多方市の山間部(旧・山都町)に移住、就農されたそうです。
150207_5_convert_20150208222050.png
 いま、山間地の農村は過疎化・高齢化が進み、米価格の低迷もあり、もはや地域や個人では農業は支えられなくなっている。
 昭和30年には50戸あった農家が今は10戸に減少、江戸時代に作られた用水路の維持管理が難しくなっていた。そこで、1999年から堰(せき)さらいボランティアの受け入れを開始。1年目は7名だったのが今は50名ほどが参加。交流人口が増加し、農地保全につながり産直も増加している。しかし、これは延命処置に過ぎない。道半ば。
 それでもボランティアが15年続けられたのは、地域の宝(景観や環境)があること、つなぎ役がいて、担い手、協働者(ボランティア)が連携してこられたから。このような目的を共有したコミュニティづくりが重要。
 米の産直だけではなく酒づくりも始めた。新規就農者の組織「あいづ耕人会たべらんしょ」では、会津伝統野菜の栽培や「会津留学」(体験施設の設置)に取り組んでいる。
 雪国の冬の暮らしを実感してもらうための「冬の会津体験ツアー」(2/21~22)を募集中。かんじき散歩、雪の下野菜の収穫、納豆作り等を予定。雪国は冬が厳しい分、春が来た時の喜びは大きい。
150207_6_convert_20150208222111.png
 3.11で福島の農家が問われたことについて。
 それは、あらためて安全とは何か。そして福島で耕し続けることの意味は何か。
 当時、小学校2年生と4年生だった子どもを、妻とともに一時避難させた。家族を避難させながら一人残って農業を続けることの矛盾も感じたが、検査結果を確認し、問題が無いことが分かったので出荷を再開した。8ヶ月後には家族も戻った。
 消費者にはデータを示して判断してもらっている。こちらから買って下さいとは言わない。国の定めた基準等は目安に過ぎず、最終的には一人ひとりが判断すること。
150207_7_convert_20150208222131.png
 なぜ耕すのか。
 農家は耕すことで、農地だけではなく、地域社会や周囲の環境を未来につないでいる。それが社会的役割。そのためには、環境に配慮した農法と持続的なコミュニティづくりが必要。
 原発事故から3年半が経過し、放射能汚染のメカニズムも明らかになってきた。丁寧に土づくりをした土壌では、放射性物質の作物への移行は極めて少ない。
 自然は、原発事故という大きな過ちを起こした私たちを、まだ見放してはいない。このことに感謝し、未来へつなぐための新しい仕組みを創っていきたい。そのために、「自給」「自立」「自治」を改めて目指したい。
 これまでは「選べる豊かさ」。好きな場所に住み、職業を選び、食べ物を選べることが豊かさの中身だった。
 これからの時代は「責任を持つ生き方」。その場所に責任を持ち、様々な問題に向き合っていく生き方が必要。自分は山都町で、有機農業を軸とした多様なコミュニティ作りに取り組んでいきたい。
150207_8_convert_20150208222152.png
 デザート(有機人参のシフォンケーキ)とお茶を頂きながら、質疑応答と意見交換。
 都市部の生協で活動されている女性も多く参加されていましたが、山間部で農業と地域づくりに取り組んでいる浅見さんの話に、深く感じ入られていたようです。
 茨城県での新規就農を予定しているという男子学生さんからは、いわゆる風評被害が解消されない中で、消費者にどのように働きかけていくのか、との質問。
 浅見さん「福島の農産物は買わないという消費者がいるのは現実。今日のように自分たち生産者の声を聞いてもらう、ツアー等で現地に来てもらうなど様々なきっかけ作りを続け、理想としては、新しく農業を始めたい、移住して根を下ろしたいと思ってもらえる人が出てくることに期待したい」との回答。
 最後に大江さんから、改めて価値観を共有する多くのコミュニティを作っていくことの重要性が強調され、講座は終了。 
150207_9_convert_20150208222212.png
 終了後は、浅見さんを囲んで懇親会。
 お話にも出てきた上堰米(うわぜきまい)を使ったお酒など、福島の地酒で盛り上がりました。
 そのうちに、ペコも真っ赤に。〆には焼きおむすび。
150207_10_convert_20150208222231.png
 帰り際に、浅見さんから納豆と干し柿を土産に頂きました。
 納豆は大粒で香り高く、干し柿は表面は真黒ですが、柔らかく甘いのに驚きました。
150207_11_convert_20150208222250.png 浅見さんが書かれた『ぼくが百姓になった理由(わけ)-山村で目指す自給知足』(2012、コモンズ)では、最後にひぐらし農園の信条が掲げられています。
 「ひぐらし農園のめざす農業は『未来を拓く農業』でありたい。そのためには、社会性があり、永続的であり、科学的であり、誠実であること。そして、排他的であってはならない」
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
(↓ランキング参加中)

人気ブログランキングへ