2015年9月25日(金)。シルバーウィークが終わったとたんに、冷たい雨になりました。
終業後、京王井の頭線・駒場東大前駅近くにある番來舎(ばんらいしゃ)へ。
福島・南相馬市で学習塾を経営されてきた番場さち子さん(「ベテランママの会」代表)が運営する「ママ応援サロン&学び舎」です。
この日19時から開催されたのは、「開沼博先生はじめての福島学 in 駒場 3rd」。
今年3月に刊行された開沼先生の新著『はじめての福島学』をテキストに福島の現状について学ぶ連続セミナーの3回目です。
マンションの1室の会場には、20名ほどが集まりました。
開沼博先生は1984年福島・いわき市生まれの社会学者。
東京大学大学院在学中の2011年に発表した『「フクシマ」論-原子力ムラはなぜ生まれたのか』が一躍脚光を浴び、 「民間事故調」ワーキンググループメンバー、経済産業省資源エネルギー庁の原子力小委員会委員等を歴任、現在は福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員を務めておられる方です。
直接、お話を伺うのは、今回が初めてです。
番場さんからの挨拶と紹介に続き、開沼先生の話が始まりました(以下、文責・中田)。
「福島の問題を考えるための大枠、フレームを提示したいと考え、僧越ながら『福島学』と名付けた本を出版。枠組みを設定しておけば、最新のデータや事例を加味していく ことにより誰でも研究を継続していけると考えている」
「本書に対しては、オリジナルのデータがないとの批判がある。しかし、誰でもネット等でアクセスできるオープンデータを用いることで、市民主体の問題解決につなげていけると考えている」
「本の帯にあるように、福島の問題が『難しい、面倒くさい』ようになっている。
それは、『政治化』(原発の是非など対立構造に回収)、『ステレオタイプ&スティグマ化』(固定的な価値観に基づく単純化と、誤解に基づいて負の烙印を押すこと)、『科学化』(知識がないと語れない:ハイコンテクスト化)されているため。
この壁を打ち破るためには、データと理論を用いて語ることが不可欠」
「本でも紹介した『福島を知るための25の数字』は、このような問題意識から整理したもの。
例えば、福島の人口流出。震災によってどの位の人が県外で暮らしているかと問うと、3~4割という回答が多い。しかし現実は2.3%。『現実の福島』と『イメージ上の福島』との間には10倍以上の開きがある」
「震災前後の福島県の米の生産高(全国順位)については、震災前は10位くらい、震災後は20位くらいとの回答が多いが、現実は2010年が4位、2011年が7位。避難指示区域内でも試験栽培や実証栽培が行われている。
全袋検査を行っており、2014年産で基準値を超えたものはゼロだが、このことも十分に周知されているとはいい難い」
「また、現実を知ってもらうためにエクスカーション(スタディツアー)も実施しているが、これにも難しい面がある。
『語り部』(当事者)の言葉は参加者に強い印象を残すが、同時に専門家の解説により物事を相対的に捉えることが必要。このような手法の確立も目指していきたい」
「いわゆる風評被害を受けているのは、農林水産業と観光業だけ。
観光については、修学旅行と海外からの観光客は減少しているものの、宿泊旅行者数は工事関係者等でむしろ増加している。有効求人倍率は、建設・土木、医療等の職種を中心に日本一高い。一方で企業倒産件数は減少している。
これらは、復興予算による復興需要に支えられたもの。いかにソフトランディングさせるかが今後の課題」
「いずれにしても、人口減少や米価下落は福島だけで起こっているのではなく、日本全体の普遍的な問題であるという認識が必要」
以上のような説明(紹介したのは一部だけです。)が1時間半ほど。引き続き、会場の参加者との間で質疑応答。
相馬市出身で実家が津波被害に遭われたという女性、飯舘村から避難されている男性、広島出身で1年大学を休学し双葉地方でインターンをしていたという男子学生などから、それぞれの実体験等に基づいた真剣な質問と意見が出されました。
セミナーは21時過ぎに終了。
外に出ると、まだ雨が降っています。翌日は何としても晴れてほしい事情があったのですが。
ところで、この日は触れられませんでしたが、本には『福島へのありがた迷惑12箇条』というリストが整理されています。
「福島を応援したい」等の問いに対して、一つ、明確に出せる答えは「迷惑をかけない」ということ。
多くの迷惑は、善意がある故におこる「ありがた迷惑」とのことです。
具体的には、例えば
- 勝手に「福島は危険で人々は怯え苦しんでいる」ことにする
- 浅智恵で忠告・説教してくる
- 多少福島に行ったことがあるとか知り合いがいる程度の聞きかじりで、福島はこうだと語る 等々
最初にネット等でこのリストの話を聞いた時には、正直、どきりとしました。思い当たるフシが無くもありません。
しかし開沼先生は、本の中でちゃんと回答も準備して下さっていました。
それは、自分の日常の中で関わっていくこと。煎じつめれば、「買う」(ネット等で買って応援)、「行く」(旅行でも観光でも)、「働く」(ボランティアでも)の3つしかないとのこと。
そして、「日常の中での『共感を伴う行動』を多くの人が実践してこそ、『福島の問題』は解決していく」とまとめられています。
少し、ホッとしました。
自分自身も「迷惑」にならないよう常に心がけつつ、これからも福島と関わり続けていきたいと思った次第です。
【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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