SJF主催アドボカシーカフェ「民主主義をつくるお金」

 2015年11月4日(水)の終業後は、東京・文京区のシビックセンターへ。メトロ後楽園駅に直結する立派な施設です。
151104_1_convert_20151107024417.jpg この日18時30分から開催されたのは、アドボカシーカフェ「民主主義をつくるお金-ソーシャル・ジャスティス基金の挑戦」。
 主催者のソーシャル・ジャスティス基金(SJF)とは、見逃されがちな社会的課題の解決に取り組む団体を「社会的公正」の視点から助成する市民ファンドで、問題意識を広く共有するための「アドボカシーカフェ」という場も継続的に開催しています。
 会場に到着したのは19時前。
 参加者は60名ほどを前に、コーディネータの西川正さん(NPO法人ハンズオン!埼玉代表)による開催趣旨等の説明が行われていました。
 「SJFの活動を評価していくことが必要。そのため『社会を変えるには』等の著作のある小熊英二先生にお話を頂くためのカフェを開催することとした」
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 続いて小熊先生から、配布されたレジュメに沿ってお話がありました。
 小熊先生は1962年東京生まれ。慶應義塾大教授 (学術博士)で、「参加型・対話型の民主主義」を提唱されています(なお、本稿の文責はすべて筆者にあります)。
 「まず、『社会を変える』とはどういうことか、ややこしいが社会学者の立場から説明したい。
 『法』や『権力』や『経済』は、『力』として認知されて初めて影響を及ぼすことができる。例えば、この一万円札は(取り出して掲げつつ)ただの紙だが、みんなが価値があると合意しているから力の源となる。
 そもそも社会とは、認識の枠組み(フレームワーク)や特定の組み立て(コンストラクション)が共有されているということ。タダの約束ごとを共有しているに過ぎない」
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151104_10_convert_20151109011953.jpg 「社会が変わるとは、そのフレームワークが変わるということ。会計基準のルールが変更されて企業の行動は様変わりした。法律や制度だけはなく、暗黙の了解もフレームワークの一つ。フレームワークが変わればリアリティ、人々の行動も変わる。
 フレームワークを変えるには、これが問題だ、という認知が広がることが出発点」
 「アドボカシーとは言挙げ、唱道すること。
 声を上げるにも洗練さが必要。現在のアドボカシーは政策提言といった狭い意味に特化しているのでは」
 「SJFは300万円の基金から助成しているとのことだが、1件当たりにすると極めて少額。金を出すのにこだわらず、例えば表彰するだけでもいいのではないか。助成事業とカフェとの関係もよく分からない」
 これに対し、SJF運営委員長の上村英明さん(恵泉女学園大教授)からコメント。
151104_5_convert_20151107024601.jpg 「社会運動家としての観点からコメントしたい。
 社会的公正の実現のために声を上げている人たちを支援するためには、政策提案、世論づくりが必要。例えば、多様な学びを保障するためフリースクールに対する予算付け等を実現してきた」
 「死刑廃止の活動にも助成した。たったー人の死刑囚のために、という議論があるかも 知れないが、数は問題ではない。1人であっても普遍的な問題。日本は公共性の意識が貧弱」
 「現在の日本は総じて自由で多様な社会が実現している。ユニクロで安く服も買える。無いのは社会正義。上からの強制ではなく、市民のものとして下から政策・制度を作っていくことが必要」
 この発言に対して小熊先生からは、
 「自由とは、他には従属・服属しておらず、自分が主人であり自己決定権があるとい うこと。現在は『商品化』が進行し、あらゆるものが取り替え可能になっている。商品を選択できることは自由とは違う。
 また、SJFはそれほど金を重視するのかが理解できない。私も金がかけずに研究をしている」等のコメント。
151104_6_convert_20151107024622.jpg 続いて、コーディネータでもある西川さんから、
 「主に障がい者の権利擁護の面で活動してきたが、 障がいはその人だけの問題だけではなく社会全体の問題。
 『どうせ』から『どうか』へという考え方が重要。『どうせできない』ではなく『どう かしよう』と他の人に呼びかけていけるような社会にしていきたい」
 上村さんから小熊先生のコメントに対して、
 「自分も運動をしていれば金は後からついてくるものと思っていた。しかし、例えば冤罪などには行政も企業も関心がなく金を出さない。日本には欧米のような寄付文化もない。しかし現実に交通費等は必要となる。市民による市民のためのお金の流れを作っていくことが必要と痛感」
 これに対してさらに小熊先生からは、
 「日本社会は寄付が多すぎると指摘する外国人研究者もいる。ただ、その対象は地域の祭りなど。日本人は身近で信頼できる相手にしか寄付しないということではないか」等の発言。
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 後半は、壇上での討論を踏まえてテーブル毎で話し合い。
151104_8_convert_20151107024815.jpg 私の同席者は、葛飾区で若者の社会参加等を支援しているNPOの男性、会社員の男性、生協関係のお二人の女性。
 生協関係の方からは「被災地の産品を買ってもらうことで顔の見える支援を行っている。 寄付や支援がどのように活かされているかが見えることが必要、等の意見」
 グループ討論の結果報告や質問を踏まえ、最後に小熊先生からは、
 「:金の流れを変えれば社会が変わるのか。社会の枠組みに沿ってお金は流れているのであり、社会の枠組みが変わればお金の流れも変わる。逆ではない。金の流れが変わったことを見せることで、さらに社会が変わるという面もある」等の指摘。
 21時過ぎに終了。
151104_9_convert_20151107024748.jpg 時間の関係もありましたが、残念ながら最後まで壇上の議論はかみ合わないままでした。もっとも、事務局の方によると「もともと予定調和的な会にはしたくない」との思いがあるそうです。
 ところで最近、SJFはこの日のイベントのタイトルと同じ「民主主義をつくるお金-ソーシャル・ジャスティス基金の挑戦」と題する書籍を出版しました。
 見過ごされがちな声を社会的課題として取り上げ、解決策を提案する市民の活動 (アドボカシー活動)を支えることの重要性について、豊富な具体的な事例とともにまとめられています。色々と参考になりそうです。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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