福島学カフェ in 駒場 「廃炉編」

 2016年3月7日(月)。
 朝からの雨は夕方には上がりましたが、気温は下がっています。
 京王井の頭線・駒場東大前駅近くのママ応援サロン&学び舎・番來舎(ばんらいしゃ)へ。
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 この日開催されたのは、これまで何度かシリーズで開催されている福島学カフェ in 駒場の「廃炉編」です。
 講師は、社会学者の開沼博先生(福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特認研究員)です。
160307_2_convert_20160314001354.jpg この日の参加者は30名ほど。
 19時過ぎ、主催者の番場さち子さんの挨拶と紹介に続き、開沼先生の話が始まりました(文責・中田)。
 「今日は新刊(『福島第一原発廃炉図鑑』)をお配りする予定だったが、少々遅れている。というのも、廃炉の進捗状況がめまぐるしく進んでおり、福島第一原発内にコンビニが開設されたり、飯舘村での放牧再開が検討されたり等と、毎日のようにニュースがある。
 廃炉については多くの情報が入ってくるし、東京電力のホームページを丹念に見れば必要な情報の多くも得られる。しかし、一般の方が全体像を把握するのは難しい面があり、それが漠然とした不安感につながっている」
 「3.11後、2つの空白地帯が明らかになった。
 その一つ、イチエフ (福島第一原発)から最も遠いところにあるのが放射能忌避。社会的な運動にもなり、自主避難の問題もある。
 もう一つがイチエフそのもの。竜田一人さんの漫画『いちえふ ~福島第一原子力発電所労働記~ 』は、1Fの実態をリアルに引き戻してくれる」
 「中期的な課題もだいぶ絞られてきた。
 一つは風評の問題。風評とは単なる rumor(噂)ではなく、harmful rumor(有害な噂)。経済的なダメージと差別をもたらす。例えば子ども達と道路清掃を実施したNPOに千件を超えるクレームが寄せられたりしている。
 もう一つは、復興バブル。どうやってソフトランディングさせるかが課題」
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 「長期的な課題としてだんだん見えてきたものは、社会的な合意をどのように作っていくかということ。汚染水や除染廃棄物をどうするかも合意は難しい。また、もし廃炉の完成形が「更地化」とすれば、建屋のがれきやデブリ(炉心溶融物)をどこに持っていくのか。全く議論されてもいない」
160307_4_convert_20160314001449.jpg 「廃炉の現場では、昭和的なものと平成的なものが併存している。
 昭和的なものとは、箱モノ行政に代表される土木国家や巨大公共事業。イチエフの入り口の看板には、名だたるメーカーやゼネコンの名前がずらりと並んでいる。彼らが日本の国家を作ってきたのは事実。
 震災翌日の2011年3月12日は一号機が水素爆発した日だが、奇しくもこの日、九州新幹線が開業して青森から鹿児島までつながったというのも、昭和的なものを象徴している」
 「平成的なものとは、例えば社会的起業、クラウドファンディングのような取組。地元としては昭和的なものには絡みづらい」
 以上のよう総論に続き、イチエフの廃炉作業の全体像をざっくりつかんでもらいたいと、いくつかの質問(クイズ)が提示されました。
 例えば、
 Q 一日に何人くらいが廃炉作業に従事しているか。
 Q 作業員の方の一日当たりの被ばく量は?
 Q イチエフの中に最も多くの人がいる時間帯は?
 Q 廃炉が完了するのは何年後? また、費用は?
 Q 原子炉に流入している地下水の量は?
 Q 港湾内で最も高いところのセシウム濃度は?
 Q デブリ周辺の温度は?
 Q 廃炉に携わっている事業者の数は?
 Q 原発周辺地域の居住者の数は?  等です。
160307_5_convert_20160314001525.jpg 個々の答え(数値)は開沼先生の近刊を見て頂くとして、作業員の数が足らないというのは少し前の状況であること(ただしベテランが中心で買い人は比較的少ないとのこと)、構内の除染等も進んでおり作業員の被ばく量は多くないこと、廃炉までは長期間がかかるが、これは安全性を重視しあえて時間をかけている面もあること、デブリ周辺の温度は現在は安定していること等について、詳細なデータに基づいて説明がありました。
 引き続いて質疑応答。いつも活発な質問が出て、時間が足らなくなります。
 「風評」に関しても、いくつかの質問が出されました。
 「福島から遠いところにいて、間違った情報を流布するような行為にはどう対処すればよいか」との問いに対しては、
 「答えありきの信仰のようなもの、謀略論のようなものもある。そのようなことを信じる人と、普通の人との間に分断が生じている。遠くに行くほど風評が強くなるのも仕方のない面がある。
 ある関西の震災担当の新聞記者は、日頃、自主避難者に取材する機会が多いことから、福島からは何割もの人が避難しているように錯覚していた」とのこと。
 そして、「問題を相対化し、このような場も通じて意見交換を積み重ねていくなど、議論を続けていくしかないのでは」との回答でした。
 『福島第一原発廃炉図鑑』は、4月には刊行の運びとなるようです。
 原発事故被災地の実情を知り、復興・再生を考えていく上で貴重な参考資料となりそうです。
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 (プロバイダ側の都合で1月12日以降更新できなくなったことから、現在、移行作業中です。)
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
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