F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信- No.092

================================================================

◇◆◇ F. M.Letter −フード・マイレージ資料室通信 ◇◆◇

     No.92; 2016.4/21(木)[和暦 弥生十五日]発行

================================================================

 弥栄(いやさか)の月も半ば。昨日は、農作物の生育を助ける雨が降

る「穀雨」でした。

 先週来の一連の地震で、熊本を中心に九州で大きな被害が出ています。

未だ余震もおさまりません。熊本はかつて3年間、在住・在勤した地です。

心よりお見舞いを申し上げるとともに、一日も早く、安心できる元の生

活を取り戻されることをお祈りしています。

 

 時の流れを体感するため、和暦の毎月一日(朔日=新月の日)と十五

日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は弥生十五日の配

信です。

————————————————————-

  F.M.豆知識

  食や農について、(特に私たち消費者にとって)ちょっと役に立つ、

 あるいは考えるヒントになるような話題を、毎回こつこつと取り上げ

 ていきます。

—————————————————————-

 「熊本の農業」

 熊本県は、総面積では47都道府県中15位、人口では23位、県民所得

(総額)でも23 位という「中堅どころ」
の県です。

 

 しかし農業についてはトップクラスにあります。

 耕地面積は全国で13位(牧草地は4位)ながら、農業産出額は6位、生

産農業所得では4位。産出額を品目別にみると野菜は4位、乳用牛は3位、

肉用牛は4位。特にトマトは1位で、なす、くりは2位です(収穫量)。

 

 また、米、野菜、果樹、畜産など、非常に多彩な生産が行われている

のも熊本の農業の特色です。

 個人的な経験ですが、私は20084月に3年間暮らした熊本から石川県

の金沢に転勤になりましたが、熊本ではすでに初夏の気配、冬の間でも

農地には何かの作物が生産されているため緑色ですが、4月の加賀平野は、

雪を頂く白山の下、見渡す限り黒っぽい水田が拡がっていたのを寂しく

感じたことを思い出します。

 

 熊本の農業の特色の一つは、「しっかりとした担い手」によって支え

られていることです。

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/49_kumamoto.pdf

 

 例えば、農業経営体(農業を営む農家や会社等)の数は全国8位ですが、

販売金額が1000万円以上ある大規模経営体の数は全国第2位です。また、

主業農家(農業所得が主で1年間に60日以上農業に従事している65歳未満

の世帯員がいる農家)の数も2位。

 さらに、基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事し

ている者)の数は全国4位ですが、うち65歳未満の方の数でみると全国で

2位となります。

 グラフにあるように、いずれも全国1位は面積等が格段に大きい北海道

で、熊本は、これら「しっかりとした担い手の数」の指標でみると、都

府県ではトップということになります。

 

 また、熊本の豊かな食は、農業生産者のみならず、食育や地産地消に

取り組む様々な方々(栄養士、学校関係者、消費者団体、野菜ソムリエ

の方々等)によって実現しています。

 熊本県の農地や農業用施設も今回の地震で大きな被害を蒙りましたが、

これら多くの方達により、長い時間を置かずに復興することが期待され

ます。

 

 ちなみに、豊かな農業が身近にある効果か、熊本県の平均寿命は男女

ともに全国4位となっています。

 

[出典、参考資料等]

 矢野恒太郎記念会『データでみる県勢(2016)』

 http://www.yanotsuneta-kinenkai.jp/databook/004.html 

 

 農林水産省『2015年農林業センサス』

 http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noucen/index.html

 

 農林水産省『平成26年農業産出額及び生産農業所得(都道府県別)』

 http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/nougyou_sansyutu/index.html

 

 FM豆知識のページ(ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」)

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/fm-data_mame.html

 

—————————————————————-

  オーシャン・カレント 潮目を変える

  食や農の分野について、先進的かつユニークな活動に取り組んでお

 られる方達、トピックス等を紹介しています。

—————————————————————-

 熊本に赴任したのは20054月のことでした。

 人生初の単身赴任で、自由になる時間ばかりは持て余すほどにあり、

自転車で宿舎(健軍というところにありました。)の回りをめぐるのが

休日の楽しみとなりました。

 

 自転車で10分ほど走ったところに江津湖(えづこ)という湖があり、

いつも家族連れやカップルで賑わっています(それは私には寂しさを感

じさせる光景でしたが)。

 江津湖は広く、下・
上に分かれ、さらに上流は有名な水前寺成趣園

に繋がっています。

 

 最初にこの辺りを訪ねた時は、清澄な水がとうとうと流れる様に驚き、

目と心を奪われたものです。

 その豊かな水量の源は、実は湧水なのです。水前寺成趣園の園内には

「出水神社」もあります。

 熊本と言えば、阿蘇に代表される「火の国」のイメージが強いのです

が、実は豊かな「水の国」でもあるのです。そしてその豊かな水にも阿

蘇山が密接に関わっています。

 

 阿蘇山は約30万年前から4度にわたる大噴火を起こしました。

 熊本の大地は、この時に噴出した大量の軽石や火山灰が100m以上も堆

積してできています。その地層は隙間が多く水が浸み込みやすい特徴を

持っているため、降った雨は浸透し、地下に豊富で良質な水として蓄え

られるのです。

 

 さらに、約400年前に領主となった加藤清正は、熊本平野に用水路を掘

削し、広い面積の水田を開発しました。もともと水が浸透しやすい地域

を水田にしたため、さらに大量の地下水がかん養されるようになったの

です(これら白川中流域にある水田は、いくらでも水を吸い込むために

「ざる田」とも呼ばれています)。

 

 上の「豆知識」の欄では熊本の農業はしっかりした担い手により支え

られていることを紹介しましたが、熊本の農業は豊富な地下水によって

も支えられているのです。清澄な伏流水を活用し、水前寺セリや水前寺

ノリといった特徴的な作物も生産されています。

 

 また、大量の綺麗な水を必要とする精密機器やビールの工場も立地し

ています。

 さらには、2012年に政令指定都市に移行した熊本市(人口73万人)の

上水道は、全量、地下水(いわば天然のミネラルウォーター)で賄われ

ているのです。

 

 ところが近年、熊本地域の地下水位は低下傾向で推移しており、江津

湖等での湧水量も減少しています。

 その原因としては、地下水採取量の増加、都市化・宅地化に伴うかん

養域の減少という事情に加えて、転作(生産調整)等により、白川中流

域での水田の減少が影響しているとされています。

 そして水田が減少している背景には、私たちの食生活の変化がありま

す。ライフスタイルの変化等に伴って食生活が欧米化・簡便化したこと

により、畜産物や油脂の消費量が何倍にも増加する一方で、米の消費量

はこの半世紀でほぼ半減しているのです。

 

 このため、熊本では、白川中流域の転作田(畑作物の収穫後や植え付

け前)に水を張り、ここで生産されたにんじんや里芋はを「水の恵み」

というブランド名で販売する等の取組も行われています。

 

 大自然は、時に深刻な災厄をもたらすことがありますが、普段は多く

の恵みも与えてくれるのです。

 豊かな自然に恵まれた熊本の農業と人々の暮らしが、一日も早く元に

復することを祈念しています。

 

[参考]

 公益財団法人くまもと地下水財団

 http://kumamotogwf.or.jp/

 

 地下水かん養水田を通じた農産物のブランド化(九州農政局)

 http://www.maff.go.jp/kyusyu/keikaku/pdf/02siraka.pdf

 

—————————————————————-

  情報ひろば

  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベント

 の開催情報等をお届します。

—————————————————————-

ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」更新情報

 石井一也先生「身の丈の経済論」@シェア奥沢 (04/08)

  http://food-mileage.jp/2016/04/08/

 

 対話のための読書会(第2回)&桜の下での対話ラボ (04/09)

  http://food-mileage.jp/2016/04/09/

 

 しごと塾さいはら(2016年度第1回) (04/13)

  http://food-mileage.jp/2016/04/13/

 

 結イレブン
vol.28−
震災支援の軌跡を振り返る交流会 (04/16)

  http://food-mileage.jp/2016/04/16/

 

 熊本地震、すみだ川ものコト市、全快野菜ちゃん (04/19)

  http://food-mileage.jp/2016/04/19/

 

 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。

  なお、既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には

 必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

 

 晴雲のおがわの自然酒をのむ会

 日時:430日(土)17:3019:30

 場所:べりカフェ(埼玉・小川町、小川町駅徒歩2分)

 企画・主催:特定非営利活動法人 生活工房 つばさ・游

 協力: 晴雲酒造株式会社

 (詳細、お問合せ等

  http://blog.goo.ne.jp/seikatukoubou_1953/e/62d76fab06ed8b7a5d90105056d82920

 

 本木上堰・春の浚いボランティア参加者募集!

 日時:53日(火)〜5日(木)

 場所:本木上堰(福島・喜多方市山都町)

 主催:本木・早稲谷
堰と里山を守る会

 (詳細、お問合せ等 )

  https://www.facebook.com/notes/%E6%9C%AC%E6%9C%A8%E6%97%A9%E7%A8%B2%E8%B0%B7-%E5%A0%B0%E3%81%A8%E9%87%8C%E5%B1%B1%E3%82%92%E5%AE%88%E3%82%8B%E4%BC%9A/%E6%9C%AC%E6%9C%A8%E4%B8%8A%E5%A0%B0%E6%98%A5%E3%81%AE%E6%B5%9A%E3%81%84%E3%83%9C%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%A2%E5%8F%82%E5%8A%A0%E8%80%85%E5%8B%9F%E9%9B%86/555815451253764

 

 地域農業研究会&銀座農業政策塾 5期プレ講座「農的社会をひらく」

 講師:蔦谷栄一さん(農的社会デザイン研究所代表)

 日時:511日(水)19:0021:00

 場所:銀座会議室(東京・銀座三丁目)

 主催:農業ビジネス研究会

 (詳細、お問合せ等 )

  http://kansyokunouken.seesaa.net/article/436428627.html

 

—————————————————————-

* 今号のコツコツ小咄。

「南阿蘇村は、景色だけではなく、住んでいる人たちも素晴らしいのよ」

「そうなんですか」

「水面(皆も)、輝いているもの」

(注:水が張られた水田の光景を詠んだ(?)ものです。)

 

 注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)

  投稿中です。

   https://www.facebook.com/tetsuya.nakata.7

 

* 次号No.93は、57日(土)[卯月朔日]の配信予定です。

 

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて

 頂いています。いつもありがとうございます。

  http://www.lunaworks.jp/

 

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方

 は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。

 

================================================================ 

F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信ID;0001579997】 

================================================================

  発行者:中田哲也

 

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/