脱成長ミーティング公開研究会(第11回)

 いよいよ6月も最終週へ。2016年も半分が終わりです。
 2016年6月26日(日)は崩れるとの予報に反して終日、晴天。
 青空にノウゼンカツラの橙色が映えます。先日、熊本の知人が送って下さっていたメロンとスイカを頂きました。
160626_1_convert_20160626224106.jpg
 自宅近くに一画を借りている市民農園では、播きなおした福島・広野町由来の綿は無事に発芽、順調に生育しています。
 東京・檜原村由来のゴマの葉にはカマキリが。ナスやトマトはどんどんできて、収穫が追いつきません。
160626_2_convert_20160626224400.jpg
 その前日の25日(土)は、陽射しはなく気温も低いのですが、蒸し蒸しとする一日でした。
 18時からピープルズ・プラン研究所(PP研、メトロ江戸川橋駅近く)で開催されたのは、「脱成長ミーティング公開研究会 第11回-アベノミクスよりもっと経済成長を目指すって政策、どうなの?」
160625_1_convert_20160626224138.jpg
 冒頭、PP研の白川真澄さんから、今日の研究会の趣旨説明がありました。
160625_2_convert_20160626224157.jpg 「公示された参議院選挙の争点はアベノミクスとされているが、破綻しかかっているのではないか。ところが、新聞報道等によると若い層の安部政権への支持率は高いのは、オルタナティブとなる政策をきちんと出せていないためではないか」
 「松尾匡さんの『この経済政策が民主主義を救う』という本は、その意味で多くの示唆に富んでいるが、その内容は、アベノミクス以上に経済成長を目指すべきというもの。今日はこの本をテキストにオルタナティブな経済政策について検討したい」
 お一人目の報告者は大河慧さん。
 金融機関勤務を経て現在は大学で経済学を教えておられる方で、この日も豊富なデータを含むレジュメを準備してきて下さいました。
 話の内容は、概要、以下のようなものでした(文責・中田)。
 「松尾さんの主張のエッセンスは、さらに日銀にファイナンスさせて政府支出を増加させようというもの」
160625_3_convert_20160702101351.jpg これは、有権者の歓心を買うためのポピュリスト的政策であること、欧州左翼政党の政策に範をとっているが、その問題点や日本との相違を無視していること(もともと拡張的財政政策が原因)等の問題がある」
 「また、現実的に日本の経済政策として考えた場合、中央銀行の独立性の否定につながる危険がある。さらには、赤字国債発行に伴う政府支出増加は、将来の増税につながるため、必要以上に消費を抑制するリスクもある。
 『ヘリコプターマネー論』ならこれらリスクは回避できる一方、巨額の財政負担がさらに生じることになる。これ以上の緩和は本格的バブルにつながる恐れもある」
 「結局、安倍内閣の経済政策との差別化は困難ではないか。かといって、これに代わる求心力のある施策を提示できるかと言われると、正直、難しい」とまとめられました。
160625_5_convert_20160702101517.jpg
 2人目の報告者は、高坂勝(こうさか・まさる)さん
 池袋にある Organic Bar「たまにはTSUKIでも眺めましょ」オーナーで、『減速して自由に生きる ダウンシフターズ』等の著作もあります。
 「これまでのような経済成長は困難。日銀の世論調査でも景気が良くなる、所得が増えると見ている人は少ないことからも明らか。成長神話からそろそろ卒業しなければならない。
 「ここ3年ほどで企業の内部留保が100兆円も増えている一方、従業員給与は減少している。違法という訳ではないが多くの大企業はあまり税金も払っていない。トリクルダウンどころか、一部の富裕層が庶民から吸い上げているのが現実」
 昨年1月の研究会で郭陽春先生から報告頂いたように、2014年の 0ECD(経済協力開発機構)報告書でも、グローバル化により0ECD各国では富裕層と貧困層の格差が過去30年間で最大になっていると分析されている」
 「規模拡大はメリットばかりではなく、デメリットもある。
 飲食店でも売上を増やそうとすると、設備投資や人件費に金が掛かる、大量生産のために価格競争を強いられる、生産に直接関わらない人が増え、結果、現場ほど過度のスト レスがかかるようになる」
 「今は脱消費、田園回帰の時代。地方へのUターン者が増加しているのはその一つの証左。
 話を聞くと、多くは収入は減っているものの生活満足度は向上している。 成長しないことを前提に、お金をかけずに安心して幸福度を上げられるような社会づくりが求められている時代」
160625_4_convert_20160626224238.jpg
 「白川さんが、ご著書『脱成長を豊かに生きる』でも分かりやすく整理されているように、農業や介護など、非効率的な分野への投資が重要。空き家など遊休資産も活用すべし。お金がなくても生活できる」
 「旧ソ連のダーチャ、 キューバの有機農業、ドイツのクラインガルテン、デトロイトの都市農業など、食料自給の取組も世界各国で広がっている。
 半自給、互助、交換、ギフトエコノミーが世界で拡がりつつある。ミニマリストというライフスタイルも注目されている。
 米国では『ミレニアルズ』と呼ばれるお金に頼らなくてすむ暮らしを目指す世代が増えている」
 「成長を前提とせず(脱成長)、できる限り自分や地域でできるもの、循環できるものを増やしていき、低収入でも安心して暮らせる社会(適量消費社会)を選択できるようにしていくことが重要ではないか」
 休憩を挟み、時間を頂き、私から近年の栄養摂取状況について簡単な問題提起をさせて頂きました。
160625_8_convert_20160702101420.jpg 松尾さんの本に触発されて長期的なデータを拾ってみたのですが、最近、完全失業率の上昇に伴いたんぱく質摂取量が減少している状況が伺えます。少し驚きました。
 引き続き、質疑応答と意見交換。
 「国の財政状況をみる時には、債務だけではなく資産にも着目する必要があるのでは」 との質問には、大河さんから
 「純資産ベースでみても諸外国と比べると厳しい状況にある」 との財務省のQ&Aを引用しつつ回答。
 白川さんからは「政府と日銀で内部で持ち合っていると主張する経済学者もいるが、日銀は政府の子会社ではない」との補足。
 「本でも紹介されているとおり、ヨーロッパ左派が脱緊縮で人気を集めているのは事実。 結局は平和よりパンということではないか」との意見も。
 また、「金融緩和による資金の一部を納税者に還付してはどうか」との意見には、大河さん、 白川さんから、
 「納税、税の使い方は公平が原則。また、財政については財源の議論だ けではなく歳出構造の見直しも必要」等の回答。
160625_6_convert_20160626224318.jpg
 この日は、日本一小さな農家・西田栄喜さん(石川・能美市)も見えられていました。
  「日本ではボーナスが出なくても会社にしがみつく。自ら稼ぐ力をつけることが必要。
 自分も就農して土を触るようになって価値観が変わった。豪州に行ってあまりの規模の違いに驚き、規模拡大ではとても戦えないと悟り、小規模経営で地域自給を目指している。売上が計画を上回ると反省するようにしている」等と発言頂きました。
 他にも、「共同体的なつながりを再構築することを政治に組み込めないか」
 「世界的に直接民主主義的な動きが議会を動かしつつある。理屈だけではなく情念が必要」
 「個々の選挙結果に一喜一憂すべきではない」
 「新自由主義による行き過ぎた規制緩和により、バス会社など安全性が損なわれている面がある」など、活発な意見が出されました。
 さらに、「Uターンして農業等で自立できるのは優秀な人だけではないか」との質問には、高坂さんから
 「自分は社会運動のつもりでNP0を設立し移住者を地方に受け入れ、仕事も作っている。これまで150組のお米作りで全員が収穫できている。誰でもできるということを広めていきたいし、そのためには出会いが大切」と回答されました。
160625_7_convert_20160702102919.jpg
 この日は具体的なデータに基づく2つの報告と、活発な質疑応答と意見交換が行われましたが、オルタナティブな経済政策の姿については、必ずしも明らかにはなりませんでした。
 後日、高坂さんはこの日の会合を振り返って、メーリングリストに以下のような趣旨の投稿をされています。
 「脱成長路線は今は大衆受けしないのは事実かも知れません。
 しかし、消費に踊らされない人、田畑を耕す人、生業を起こす人、コミュニティーを作る人、問題を解決してゆく人達が身近に『見える化』してくると、選択肢の広がりとともに、人々の意識と地域や政治が徐々に変わってゆく!
 そう信じて、今の政治に憤りや焦りを感じつつも、楽しく自然体で日々の実践を続けることだと思っています」
 【ご参考】
◆ ウェブサイト:フード・マイレージ資料室
 (プロバイダ側の都合で1月12日以降更新できなくなっていることから、現在、移行作業を検討中です。)
◆ メルマガ :【F. M. Letter】フード・マイレージ資料室 通信
(↓ランキング参加中)

人気ブログランキングへ