F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信- No.100

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◇◆◇ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信 ◇◆◇

     No.100;2016.8/17(水)[和暦 文月十五日]発行

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 和暦では文月も半ば。

 西日本を中心に猛暑が続きますが、立秋も過ぎ、セミの声も心なしか

勢いを失ってきたように感じられます。昨夜から今朝にかけては、東日

本に台風が接近。

 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満

月の日)に配信している本メルマガ、今回は文月十五日の配信です。

 拙メルマガも区切りの100号となりました。これまで読んできて下さっ

てきた読者の皆さまにお礼申し上げます。


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  F.M.豆知識

  食や農について、(特に私たち消費者にとって)ちょっと役に立つ、

 あるいは考えるヒントになるような話題を、毎回こつこつと取り上げ

 ていきます。

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 「食生活パターンとがん」

 ここ数回にわたって、食の安全や安心にかかわる事項を取り上げてき

ました。

 

 例えば、自分でコントロール可能なリスクは実際よりも小さく感じら

れること、リスク認識の程度は一般消費者と専門家との間では大きく異

なっていること等を紹介しました。

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/54_risk.pdf

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/55_riskninsiki.pdf

 

 そして前号では、科学的評価により決定される客観的な「安全」と消

費者の主観的な心理的判断である「安心」とは異なること、さらに、私

たちが安心を得るためには、消費者自らが情報収集し学ぶ努力が不可欠

であることを述べました。

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/56_anzenansin.pdf

 

 今号は、その知っておくべき情報の一例として、食生活パターンとが

んとの関連性についての研究結果を紹介します。

 去る620日付けの日本経済新聞に「欧米型の食事、乳がんご用心」と

いった見出しの記事が掲載されました。

 これは、国立がん研究センター等による研究グループが公表した「多

目的コホート研究」の成果によるもので、1990年と93年に全国9保健所管

内に住んでいた人のうち、95年と98年のアンケートに回答した4574

の女性約5万人を2012年まで追跡したという大規模な調査の結果です

(「コホート」とは「群れ」や「世代」という意味です)。

 

 研究対象の49,552人を約15年追跡したところ、718人が乳がんと診断さ

れました。

 そして、アンケート結果に基づき食事パターンを大きく3つ(野菜やい

も類など健康型、肉類やパンなど欧米型、みそ汁や漬物など伝統型)に

分け、各対象者のスコアにより5つのグループに分類して乳がんリスクと

の関連を調べたところ、欧米型食事パターンのスコアが最も高いグルー

プでは、最も低いグループに比べて乳がんのリスクが32%上昇すること

が明らかとなったのです。

 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/57_nyugan.pdf

 

 健康型や伝統型の食生活では乳がんのリスクの上昇はみられませんで

した。しかし、過去の多目的コホート研究の結果によると、食生活パタ

ーンが「伝統型」の度合いが強まるにつれて(塩分濃度の高い食品をよ

く食べるグループほど)、胃がんのリスクが 2.42.9倍と、はっきりと

高くなることが判明しています。

 

 これらの結果からは、「健康的」なバランスの取れた食生活を実践す

ることの重要性が示唆されています。

 

[出典、参考資料等]

 国立がん研究センター「食事パターンと乳がんリスクとの関連について」

  http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/3809.html

 同「食生活パターンと胃がんとの関連について」

  http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/262.html

 FM豆知識のページ(ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」)

  http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/fm-data_mame.html

 

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  オーシャン・カレント 潮目を変える

  食や農の分野について、先進的かつユニークな活動に取り組んでお

 られる方達やトピックスを紹介しています。

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 世界農業遺産(Globally
Important Agricultural Heritage Systems, 

GIAHS) とは、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形づくられて

きた伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケ

ープ、生物多様性などが一体となった世界的に重要な農林水産業システ

ムとして、国連食糧農業機関(FAO)が認定するものです。

 2002年に本制度が設立された背景には、化学肥料の多投など農業の近

代化やグローバリゼーションが進むなか、小規模農業や家族経営を再評

価し守ろうとする意図があったようです。

 

 現在、世界では、チロエ農業(チリ、ジャガイモの原産地)、カシャ

ーンのカナート灌漑システム(イラン)、アグロフォレストリーシステ

ム(タンザニア)等15カ国36地域が認定されています。

 また、日本では、次の8地域が「世界農業遺産」として認定されていま

す(かっこ内は認定年)。

 1
トキと共生する佐渡の里山(2011

 2
能登の里山里海(2011 

 3
静岡の茶草場農法(2013

 4
阿蘇の草原の維持と持続的農業(2013

 5
クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環(2013 

 6
清流長良川の鮎(2015

 7
みなベ・田辺の梅システム(2015

 8
高千穂郷・椎葉山地域の山間地農林業複合システム(2015

 

 なお、有名なユネスコの「世界遺産」は有形の文化遺産及び自然遺産

の保護を目的としているのに対し、世界農業遺産は無形の「生きている」

農業システムの保全を目的としているところが異なります。

 

 この夏は、世界農業遺産に認定された九州の2地域を訪ねてきました

(宮崎・椎葉、熊本・阿蘇)。

 世界的にも価値があると認定された農林業のシステムは、現にそこに

暮らしている方たちの生業(なりわい)の上に生きていること、また、

多くの方々がさらに未来の世代に引き継いでいこうと取り組んでおられ

ることにより成り立っていることを実感することができました。

 椎葉の山林も阿蘇の草原も、人の手が加えられることによって保全・

継承されてきているのです。

 

[参考]

 FAO駐日連絡事務所「世界重要農業遺産(GIAHS)」

  http://www.fao.org/japan/portal-sites/giahs/en/ 

 農林水産省ホームページ「世界農業遺産・日本農業遺産」

  http://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_1.html

 

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  情報ひろば

  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベント

 の開催情報等をお届します。

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ブログ「新・伏臥慢録〜フード・マイレージ資料室から〜」更新情報

 (今回はたくさん書きました。)

 「世なおしは、食なおし」東北食べる通信車座座談会 @八王子 (08/01)

  http://food-mileage.jp/2016/08/01/

 大賀集落総出の草刈り&交流会 @新潟・上越 (08/07)

  http://food-mileage.jp/2016/08/07/

 世界農業遺産(椎葉、阿蘇)紀行 vol.1 (08/10)

  http://food-mileage.jp/2016/08/10/

 世界農業遺産紀行 vol.2 – 焼畑の火入れ(椎葉村) (08/11)

  http://food-mileage.jp/2016/08/11/

 世界農業遺産紀行 vol.3 – 椎葉から阿蘇へ (08/12)

  http://food-mileage.jp/2016/08/12/

 世界農業遺産紀行 vol.4 – 阿蘇 (08/15)

  http://food-mileage.jp/2016/08/15/

 

 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。

  なお、既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には

 必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

 

 奥沢ブッククラブ第11回(課題図書:坂口安吾『堕落論』)

 日時:818日(木)18:0021:00

 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢2丁目)

 主催:奥沢ブッククラブ

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/283229685376406/

 

 種まきからはじめる 秋そばづくり 第1弾「そばの種まき」

 日時:821日(日)9:3016:30

 場所:山梨・上野原市西原(さいはら)地区

 主催:しごと塾さいはら

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/292270814467493/

 

 共奏キッチン@シェア奥沢67

 日時:822日(月)18:0022:00

 場所:シェア奥沢(東京・世田谷区奥沢2丁目)

 主催:共奏キッチン

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/1780108242232069/

 

6
森の読書会〜夏休みスペシャル〜

 日時:822日(月)18:0022:00

 場所:森の食卓(東京・三鷹市井の頭5

 主催:森の読書会

 (詳細、お問合せ等

  https://www.facebook.com/events/905520006243245/

 

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* 今号のコツコツ小咄。

「ついに捕まえたぞ、畑を荒らす悪いキツネめ!

 今日は何を食べたんだ?」

「コーン」

 注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、

   絶賛(?)投稿中です。

  https://www.facebook.com/tetsuya.nakata.7

 

* 次号No.101は、91日(木)[葉月朔日]の配信予定です。

  節目の100号を過ぎ、より有用な情報の発信に努めていきたいという

 思いを新たにしています。

  読者の皆様のご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

 

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて

 頂いています。いつもありがとうございます。

  http://www.lunaworks.jp/

 

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方

 は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。

 

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F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信ID;0001579997】 

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  発行者:中田哲也