2017年5月22日(月)のタ刻、東京・神田の専修大学で「イラク緊急報告と対談-高遠菜穂子氏×雨宮処漂氏-私たちは今どこに立っているのか」と題するイベントが開催されました。
主催は国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)です。
2月に同じ会場で開催された高遠さんの報告会に参加した時は、冷たくて強い雨が落ちていましたが、この日は穏やかな暮れなずむ光景です。
15分ほど遅刻して会場に入ると、高遠菜穂子さん(エイドワーカー、イラク支援ボランティア)の報告の最中でした。
奪還作戦が継続中のイラク北部の都市・モスルの映像や動画が映写されています。戦闘で徹底的に破壊された市街地の様子。負傷した子どもなど避難民の姿も。
教室の外の平和な光景とのあまりにも大きなギャップに、しばし声を失いました。
最近、モスルに食料配給に入られたという高遠さんの話の内容は、以下のようなものでした(以下、文責中田)。
「ISによる恐怖支配が続いたモスルの人たちは疲れ切っている。逃げ出そうとして見つかった多くの人が公開処刑された。残っているISの戦闘員は12~16歳の子ども達が中心」
「ある家族は逃げる途中で仕掛け爆弾の爆発に巻き込まれ、17歳の長男は即死、15歳の長女と3歳の次女は重傷を負った。母親が号泣する映像はニュースでも流れたが、最近は3ケタ (100人)以上の死者が出ないとニュースにならないことが多い」
「密集した住宅地が戦場となり、米軍等の空爆でも多くの民間人が犠牲になっている。米国防省の特設ページで爆撃回数等がアップされているので、ぜひみてほしい」
「病院も爆撃を受けて酷い状態。戦争のモラルや交戦規定は一体どうなっているのかと本当に腹が立つ」
「UNHCRの避難民キャンプには9時間歩いてたどり着いた人たちも。テントから雨漏りし地表は泥の状態。夏には50°Cにもなる過酷な環境」
「モスル奪還作戦はもう半年続いているが、まだしばらく支援が必要。まずは緊急支援として水とドライフード、医療機器等。多くの日本人にも関心を持ってもらいたい」
その後は伊藤和子さん(HRN)の進行により、高遠さんと雨宮処漂さん(作家・活動家、「反貧困ネットワーク」世話人)の対談形式で進められました。
雨宮さん
「高遠さんとは10位前から結構お会いし、『全身当事者義』(2008)では対談もさせてもらった。私も2003年にイラクに行った経験があり、その翌年に高遠さんが拘束されたというニュースを聞いた時には他人ごととは思えなかった。同じ北海道出身でもある」
高遠さん
「私は千歳出身で、普通に戦車が走っているのを見ながら育ったので自衛隊さんは身近な存在。米国でも帰還して何年もたってからフラッシュバックのようにPTSDになる例もある。海外に派遣される自衛隊さんのことを放っておけないと思い、2017年2月、海外派遣自衛官と家族の健康を考える会を立ち上げた」
現在の活動について問われた雨宮さんは
「憲法25条の生存権集会等で障がいのある方と一緒になることが多く、昨年7月の相模原事件は大きな衝撃だった。1月の小田原市ジャンパー事件には申し入れを行い、改善方策が検討されている」
「2015年12月、東京・立川市で生活保護を受けていた40代の男性が、保護の打切りを通知されて自殺するという事件があった。この方はバブル期には期間工として自動車メーカーで働いた後、派遣を転々とし、リーマンショックで派遣切りされて路上生活者となった。まさに日本の雇用が破壊されてきた経緯そのもの」
「問題の背景には、生活保護世帯が過去最多の水準を更新し続けているなかで職員がオーバーワークを強いられているという事情もある。予算は削減され非常勤が増えるなど、自らが貧困ギリギリという職員も多い」
「エキタスという団体が最低賃金1500円を主張するなど、20代など若い当事者の声が上がりはじめているのは大きな希望。 ところが時給が上がったらどうするかと聞くと、まず病院に行く、処方義通りの薬が買える、モヤシ以外の食事ができるなど。
一方で『給料を上げたら会社がもたないのでは』など『企業者マインド』を持つ若者も多い」
衆議院を通過したいわゆる「共謀罪」法案についても話し合われました。
雨宮さん
「私は2002年、北朝鮮に渡航した関係で家宅捜索を受けた経験がある。朝7時ちょうどにチャイムがなり、すっびんでパジャマのまま出て行くとドアの外に出されて大声で礼状を読み上げられた。共謀罪自体は私は恐くなく、捕まったら『女囚・雨宮処漂』という本を書こうと思っている位(笑)。
しかし自分ー人の問題ではなく周りの人を巻き込む恐れがあると思うとゾッとする」
高遠さん
「危なそうな人とは付き合わないという人が増えてくるのではないか。
私は現地では背中に英語とアラビア語で JAPANと大きく書いたジャンパーを着て活動している。日本に貢献しているつもりなのだが」
雨宫さん
「韓国では非正規が6割と日本(4割)より厳しいが、社会全体があきらめていない。対して日本の若者は、不条理な現状にあきらめ切っている。そして社会に対して声を上げようとする者に対しては『お前も早くあきらめろよ』とバッシングする。
これは根深い問題。時間をかけ、頑張ったら報われるという社会を取り戻していかなければならない」
高遠さん
「日本人はまだ自分たちを平和国家だと思っているが、海外からは今は軍事国家と見られている。バグダッドの武器展示会には日本の大企業も出展していた。ギャップがどうしようもない位広がっている」
「中村哲さんのような人がおられるなど、日本は人道支援先進国のはず。しかし日本国民は、特定の人をあがめて任せてしまう傾向があるのでは。1万人の中村哲さんが必要。小中学生のあこがれの職業の20位以内にNGO職員が入ってくるようでなければ」
伊藤さん
「外交も政府に一任するのではなく、オルタナティブな平和を作っていくという発想が必要。市民社会がNGOを育てていくことも大事」
高速さん
「私もよく『今もイラクに行ってるの。自衛隊に任せておけばいいじゃない』と言われる。
しかし自衛隊の海外派兵に反対するなら、代わりに顔を見せに行く人は誰かを考える必要がある。ある高校の先生から『生徒に危険なところに行けとは言えない』と相談された時には、『行けというのではなく、調べてごらんと言えばいい』とアドバイスしたことがある。まずは知ることから」
最後に、会場の参加者との質疑応答・意見交換。
最初に伊藤さんが指名されたのは山本太郎参院議員。会場後方に座っておられました。
「テロ防止のためには、まず英国にならってイラク戦争の総括が必要。
今の政権は無敵モードだが、みんなで政権交代を起こして『共謀罪』法もひっくり返していくことが必要」等の発言。
会場の女性からの「ネットには多くの情報があるのに、なぜ日本での報道が少ないのか」との問いに対しては、高遠さんから「日本人の中東に対する関心が低いということに尽きる。しかしネットの情報に依存しすぎるのは危険」等の回答。
建築関係におられた男性の「かつて中東では日本のゼネコンが多くのインフラを建設してきた」との発言には、高遠さんから「過去の日本企業のお陰で私たちの安全が確保されている面がある。現地で日本語で挨拶してくれる年配の男性もいる。感謝している」との発言。
「阪神淡路大震災の時はボランティア元年といわれ期待も感じたが、声を上げようとする人に冷たい現在の風潮をどうすれば良いか」との男性からの問いかけ。
雨宮さん
「現代の資本主義社会は他人を出し抜く競争社会で、助け合おうという気持ちは出てこない。『役に立つ人間以外は生きてはいけない』かのようなスローガンに対抗し、無条件に生存できる権利を確保していくことが必要」
高遠さんからは「人間は、本当に生きているだけで宝。イラクで活動していて、本当に生きていて良かったと実感することが多い」等のコメント。
イラク情勢、国内の貧困問題とテーマは深刻なものながら、それぞれの分野でたくましく活動されている3人の女性による本音トークは大いに盛り上がり、しばしば会場は笑いに包まれました。
帰る準備をしていると、しごと塾さいはら (山梨・上野原市西原地区での交流活動)でお世話になっているMさんが声を掛けて下さいました。
近くの居酒屋に移動してほてった頭をクールダウン。
Mさんと別れて一人、帰りの電車の中。
この日の話を反劉しながら、窓に映った自分の顔に「さて、お前はどうするんだ」と内心、問いかけてみたのですが・・・。