【ほんのさわり】松瀬学『東京農場-坂本多旦 いのちの都づくり』


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東京湾の埋立地(ごみ処分場)を農場にしようという壮大な構想を立てた方がいます。坂本多旦(かずあき)さんです。
 坂本さんは1940年、山口市(旧 阿東町)生まれ。家業の農業を継ぎ、64年には仲間5人と農業法人・船方総合農場を立ち上げられました。日本における農業法人の先駆けであり、「6次産業化」「道の駅」「都市農村交流」等を発案し、最初に取り組んだのも坂本さんです。
 また、日本における農業経営体の中では少数派であった農業法人の組織化を図り、1996(平成8)年8月8日には全国農業法人を設立、さらに1999年には公益法人に衣替えした日本農業協会の初代会長に就任されました。
 朝日農業賞など受賞歴も多く、経済審議会や食料・農業・農村政策審議会委員等の公職も歴任されている日本農業のトップリーダーのお一人です。

その坂本さんが、ある日、東京湾の中央防波堤埋立地を視察されました。
 「1200万人のぜいたくや欲望の捨て場所となって土地が泣いている。農業によって生きた土に戻したい」と強く思い、その思いを「東京農場・花の海」構想(2012年)にまとめられたのです。
 約400haの埋立地に施設園芸農場のほか食品加工場、販売所、レストラン等を設置するというもので、詳細な事業計画(施設整備計画、収支計画等)も添えられています。子ども達が農業と触れあえる食農教育の場として、また、災害時における避難場所としても活用されることも想定されています。

この構想実現に向けて、坂本さんは関係省庁や東京都(地権者)に積極的に働きかけ、ついにはパーティー会場で小渕総理(当時)に「直訴」までされました。
 しかし本構想は現在まで実現せず、「熟成庫」(坂本さん)に保管されたままとなっています。
 本書の著者である松瀬さん(共同通信社の記者を経てフリーライター)は、その実現可能性は「地主さん(東京都)がうんというかだけ」にかかっているとします。

現在、埋立地の一部は「海の森」公園として植林され、2020東京オリンピック・パラリンピックのボート競技等の会場にも予定されており、緑化を含む整備が進められています。坂本さんの東京農場構想が「熟成庫」から出されて再び日の目をみるかどうかは、都民、あるいは国民全体の関心の度合いにかかっているのかも知れません。

[参考]
 「6次産業」実践と歴史の船方農場
  http://www.funakata.co.jp/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
  http://food-mileage.jp/category/br/

F.M.Letter No.119, 2017.5/26】掲載