【メルマガ】F.M.Letter No.119

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.119◇
 5月26日(金)[和暦 皐月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識 都市緑地の浸水被害防止効果
◆ O. カレント 「乃庭」(東京・檜原村)
◆ ほんのさわり 松瀬学『東京農場-坂本多旦 いのちの都づくり』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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 和暦は皐月に入りました。梅の実が熟し梅雨入りする季節です。ちなみに五月晴れとは、本来は梅雨の合間の晴天を指すとのこと。
 時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は皐月朔日の配信です。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。

-都市緑地の浸水被害防止効果-
 都市農業は、消費者に近いという利点を生かし、新鮮な農山物の供給、農業体験・交流活動を通じた都市住民の農業への理解の醸成、心安らぐ緑地空間の提供など多面的な役割を果たしています。
 特に東日本大震災等を契機として、都市農地(農業)がもつ防災機能に対する関心が高まっています。

本年4月、(株)日本政策投資銀行から興味深いレポートが公表されました。農地を含む都市緑地が有する防災機能(雨水流出防止・貯留機能)が定量的に計測されているです。

具体的には、東京の神田川上流地域(善福寺川との合流地点までの約23平方km)を対象地域として、緑地が減少または創出された場合のシナリオ毎に、10年に1回おこる可能性のある集中豪雨が発生した時の被害状況がどのように変化するかについて、シミュレーション分析を行っています。

その結果は次のようなものでした。
 緑地が減少するシナリオ(生産緑地や屋敷林の宅地化、建ぺい率の引き上げ等)では、地域全体の 2.0%の建築物が新たに浸水被害を受けるとともに、浸水被害額は現況を90億円上回りました(リンク先の図74)。
 http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/05/74_ryokuka2.pdf
 逆に緑地創出シナリオ(宅地や屋上の緑化、グラウンドの芝生化など)の場合は、浸水被害を受ける建築物は 2.3%減少するとともに、浸水被害額は現況より45億円減少するものと試算されたのです。
 レポートではこのような機能のある緑地を「グリーンインフラ」と呼び、緑地創出のための投資額も試算して、費用対効果が1を上回ることも明らかにしています。

このように、都市農業(農地)は農業生産面だけではなく、今後の災害に備えて都市空間の質を高めるという観点からも一定の役割を果たすことが期待されるのです。

[参考]
 (株)日本政策投資銀行「都市の骨格を創りかえるグリーンインフラ-緑地への投資効果を探る-」   
  http://www.dbj.jp/ja/topics/region/industry/files/0000027136_file2.pdf
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
  http://food-mileage.jp/category/mame/

◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方やトピックス等を紹介します。

-「乃庭」(東京・檜原村)-

東京・お台場(臨海副都心地区)の複合商業施設・ダイバーシティ東京のビル屋上に、「都会の農園」があります。
 ここは、都会で生活する人々が「作る」から「食べる」までを経験し、農業の楽しさや難しさを実感できる「農育」の場として、2014年4月に開設された首都圏最大規模の屋上貸し農園。畑だけではなく田んぼもあり、鶏やアイガモもいます。収穫された野菜等は、隣接するバーベキュー施設で食べることもできるそうです。
 その「都会の農園」は、現在、一部をポタジェにリニューアル工事中。ポタジェ(フランス語)とは、野菜やハーブ、草花を混植した実用と鑑賞を兼ねた庭のことです。

リニューアルの設計・施工を担当しているのが、「十人十色の暮らしに沿ったテーマある庭(○○の庭)づくりをお手伝い」する「乃庭」(のにわ、東京・檜原村)です。

代表の竹本亮太郎さんは、東京農業大学環境緑地学科卒業。
 在学中から福島・鮫川村の地域活性プロジェクト、東京・多摩市の小学校建替えプロジェクトに携わり、卒業後は東京、京都及びアメリカで造園・作庭現場で実践的な作庭技術を習得。
 また、農作物の生産・販売や自然を活用した企業研修プログラム提供等を行う会社では、環境負荷の少ない農業技術を学ばれました。さらには、表千家の講師として、茶の湯の面白さと奥深さを子ども達を含む多くの人々に伝える活動もされています。
 かねて檜原村でのゴマ栽培等では、私も色々とお世話になっている方です。

「都会の農園」は、6月にはリニューアル・オープンする予定とのこと。
 改修には檜原村から運んできた大量の木の枝や皮、おがくず等(林業の副産物)も活用されており、現代的な臨海副都心の高層ビル屋上に、農山村の風景が再現される予定です。

「自分で空間を創り上げる達成感も、農業の喜びも、茶の湯の面白さも、もっと身近に感じてほしい。理想とする庭への一人ひとりの想いが形作られるためのお手伝いができれば、嬉しく思います」と竹本さんは語っています。

[参考]
 「乃庭」
  https://niwa.life/
 「都会の農園」
  http://www.city-farm.jp/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
  http://food-mileage.jp/category/pr/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野について、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。

-松瀬学『東京農場-坂本多旦 いのちの都づくり』-
  http://ronso.co.jp/book/%e6%9d%b1%e4%ba%ac%e8%be%b2%e5%a0%b4/

東京湾の埋立地(ごみ処分場)を農場にしようという壮大な構想を立てた方がいます。坂本多旦(かずあき)さんです。
 坂本さんは1940年、山口市(旧 阿東町)生まれ。家業の農業を継ぎ、64年には仲間5人と農業法人・船方総合農場を立ち上げられました。日本における農業法人の先駆けであり、「6次産業化」「道の駅」「都市農村交流」等を発案し、最初に取り組んだのも坂本さんです。
 また、日本における農業経営体の中では少数派であった農業法人の組織化を図り、1996(平成8)年8月8日には全国農業法人を設立、さらに1999年には公益法人に衣替えした日本農業協会の初代会長に就任されました。
 朝日農業賞など受賞歴も多く、経済審議会や食料・農業・農村政策審議会委員等の公職も歴任されている日本農業のトップリーダーのお一人です。

その坂本さんが、ある日、東京湾の中央防波堤埋立地を視察されました。
 「1200万人のぜいたくや欲望の捨て場所となって土地が泣いている。農業によって生きた土に戻したい」と強く思い、その思いを「東京農場・花の海」構想(2012年)にまとめられたのです。
 約400haの埋立地に施設園芸農場のほか食品加工場、販売所、レストラン等を設置するというもので、詳細な事業計画(施設整備計画、収支計画等)も添えられています。子ども達が農業と触れあえる食農教育の場として、また、災害時における避難場所としても活用されることも想定されています。

この構想実現に向けて、坂本さんは関係省庁や東京都(地権者)に積極的に働きかけ、ついにはパーティー会場で小渕総理(当時)に「直訴」までされました。
 しかし本構想は現在まで実現せず、「熟成庫」(坂本さん)に保管されたままとなっています。
 本書の著者である松瀬さん(共同通信社の記者を経てフリーライター)は、その実現可能性は「地主さん(東京都)がうんというかだけ」にかかっているとします。

現在、埋立地の一部は「海の森」公園として植林され、2020東京オリンピック・パラリンピックのボート競技等の会場にも予定されており、緑化を含む整備が進められています。坂本さんの東京農場構想が「熟成庫」から出されて再び日の目をみるかどうかは、都民、あるいは国民全体の関心の度合いにかかっているのかも知れません。

[参考]
 「6次産業」実践と歴史の船方農場
  http://www.funakata.co.jp/
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
  http://food-mileage.jp/category/br/

◆ 情報ひろば
  拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 欧米オーガニックマーケット スタディツアー報告会(5/18)
  http://food-mileage.jp/2017/05/18/blog-18/

○ 「都会の農園」での交流会@お台場(5/19)
  http://food-mileage.jp/2017/05/19/blog-19/

○ 川口エンドウを知る講座&ランチ会 (5/19)
  http://food-mileage.jp/2017/05/19/blog-20/

○ 神田なみへい:5月の特産地域は広島・竹原市(5/23)
  http://food-mileage.jp/2017/05/23/blog-21/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
  既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 第8回ロータス寺市
 日時:5月27日(土)10:30~16:30
 場所:常圓寺(東京・新宿区西新宿7)
 主催:ロータス寺市
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.facebook.com/events/351554538577898

○ はじめての江戸東京野菜講座
 日時:5月27日(土)13:00~16:00
 場所:新宿御苑インフォメーションセンター(東京・新宿区)
 主催:NPO法人江戸東京野菜コンシェルジュ協会
 (詳細、お問合せ等↓)
  https://www.edo831.tokyo/kouza/1942

○ 有機米作り体験会「田植え in 横田農場」
 日時:6月4日(日)9:30 東武東上線小川町駅前集合
 場所:埼玉・小川町
 主催:USP研究所
 (詳細、お問合せ等↓)
  http://uspeace.jp/user_data/event.php#taikenkai

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*今号のコツコツ小咄。
「奴隷のように働かされている日常だけど、山に来ると解放されるような気がするわ」
「林間(リンカーン)だけにね」
 注:「コツコツ小咄」は、拙FBページにて土日祝を除く毎日、絶賛(?)投稿中です。
  拙ウェブサイトにも掲載しています。
  http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.120は、6月9日(金)[和暦 皐月十五日]の配信予定です。
  より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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  http://food-mileage.jp/
 ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
  http://food-mileage.jp/category/blog/
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