◇フード・マイレージ資料室 通信 No.125◇
2017年8月22日(火)[和暦 文月朔日]発行
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◆ F.M.豆知識 食料の海外依存率の推移
◆ O. カレント 2016年度の食料自給率
◆ ほんのさわり 岩手県農村文化懇談会 編『戦没農民兵士の手紙』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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今年も8月15日前後に、戦争を扱った特集番組等が放映されました。飢餓や餓死という言葉が日常的であった時代があったことを思い起こし、改めて食べもののことを真摯に考えてみたいと思います。
一方、東日本では連日の雨。農作物の生育にも悪影響が懸念されています。
時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今回は文月朔日の配信です。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるような話題を毎回コツコツと紹介していきます。
-食料の海外依存率の推移-
戦後から復興し経済の高度成長を遂げた現在の私たちは、時に「飽食」と呼ばれるほどの豊かな食生活を送っていますが、その大きな部分は海外からの輸入に依存しています。
そのような事情を表すのに一般的に用いられるのは食料自給率ですが、ここでは「食料の海外依存率」という指標を紹介します。
これは100からカロリーベースの食料自給率の数値を差し引いたもので、日本の場合は62%(2016年度、自給率は38%)となり、輸出国はマイナスとなります。
なお、食料自給率という言葉には、日本は100%自給を目指しているかのように感じられるとする外国人研究者もいます。
リンク先の図は、日本を含む主要国の食料の海外依存率の推移を示したものです。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2017/08/80_kaigaiison.pdf
1961年における日本の食料の海外依存率は22%(自給率78%)で、イギリスやドイツよりも低いものでした。
その後、急速に右上がりで上昇し、近年は約60%程度で横ばいとなっています。これは主要先進国のなかで突出して高く、また、この間、イギリス、ドイツ等が海外依存率を低下させているのとは対照的です。
日本の海外依存率の高さは、国土条件の制約等から宿命づけられている訳ではありません(人口は現在の75%程度とはいえ、1960年代は現に2割台にとどまっていたのですから)。その後、食料の海外依存率が大きく上昇した最大の理由は、私たち自身の食生活の変化(自主的な食の選択の結果)にあるのです。このことについては、稿を改めて取り上げたいと思います。
[参考]
農林水産省「食料需給表」
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyukyu/#r
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-F.M.豆知識」
http://food-mileage.jp/category/mame/
◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方やトピックス等を紹介します。
-2016年度の食料自給率-
農林水産省は去る8月9日、2016年度の食料自給率(概算値)を公表しました。
カロリーベースの総合食料自給率は、2010年度から5年連続で39%で横ばいでしたが、2016年度には1ポイント低下して38%となりました。これは、小麦及びてんさい等が、北海道の豪雨など天候不順により生産量が減少したためです。
一方、生産額ベースについては、近年、60%で推移しており、2016年度には前年度から2ポイント上昇し68%となりました。これは、野菜及び果実の輸入額が減少する中で国内生産額が増加したこと等によるものです。
また、昨年からは、日本の食料の潜在生産能力の動向を把握する「食料自給力指標」も公表されています。
これは、国内生産でどれだけの食料を最大限生産することが可能かを試算した指標で、2016年度は農地面積の減少や単収の伸び悩み等により、全体として昨年度から微減となっているものの、いも類中心型の食生活パターンとした場合は必要なエネルギー必要量の水準を上回っています。
食料自給率は天候等によって変動するものであり、1ポイント程度の低下は直ちに懸念する必要はないかも知れませんが、自給力指標からは、わが国の食料生産のポテンシャルが低下傾向を続けていることが読み取れます。
[参考]
農林水産省プレスリリース「平成28年度食料自給率等について」
http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/170809.html
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-オーシャン・カレント」
http://food-mileage.jp/category/pr/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」だけを紹介します。
-岩手県農村文化懇談会 編『戦没農民兵士の手紙』(1961/7、岩波新書)-
https://www.iwanami.co.jp/book/b267368.html
1950年代末、岩手県農村文化懇談会は、戦争で亡くなった農家出身兵の手紙を収集する運動に着手しました。それは、日本の歴史の上に、異郷で戦死した若い農民の「たましい」による戦争証言を加えたいという意図からでした。
集められた手紙は、岩手県内を中心に全国から2,873通(728人)。本書には、その一部が解説抜きで掲載されています。
手紙のあて先は、両親(主に父親)、兄弟、あるいは妻、幼い子ども。戦争の辛さや戦局の厳しさに触れているものはほとんどなく(軍による検閲もありました)、両親や親戚、家族を労わる内容のものがほとんどです。
また、季節ごとの留守宅での農耕への配慮や、農作業に携わる家族への思いやりなど、農民ならではの記述もあります。
「軍隊も忙しい時もあるけれど、家の忙しさよりはるかに楽です。朝の起床は6時、農村だったら恥ずかしい」「家の方でも田かき頃だ。山で鳴くカッコ鳥と競争して起床し、ずいぶん忙しい目に合わされた」(岩手・湯田村、小作三反の農家の長男、1945年4月ブーゲンビル島で戦死。24歳)
「家の方も晩秋蚕で忙しく非常時ですね。本当に申し訳ないです」(埼玉・吉岡村、自小作農家の次男、1945年千葉・茂原市で戦死、19歳)
「朝は暗い中から、夕は星をみるまでせっせと働くお前の姿が目に浮かぶ」(岩手・花泉町、自小作農家の長男、1945年2月フィリピンにて戦死。27歳)
本書は、「現代という時代が自由で、民主的であるというならば、そのことはこのような若者の血にぬれた生けにえのうえに咲いていることを噛みしめること」の大切さは、「黒い雲のようなものがおそいかかっている民族の今の時点で、いくら強調されても、すぎることはないであろう」と訴えています。
本書が刊行されたのは1961年7月。大学入学の翌年(1983年)に購入した私の蔵書も、だいぶ黄ばみ、傷んできました。
[参考]
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室-ほんのさわり」
http://food-mileage.jp/category/br/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 鎌倉古街道など(引きこもりの夏)(8/15)
http://food-mileage.jp/2017/08/15/blog-35/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
もっとも私は個人的な事情により、8月一杯はあまり顔は出せないと思います。
○ 第12回いとなみ大学~私たちの選択が未来を変える
~エシカルな暮らしのすすめ~
日時:8月31日(木)18:30~21:30
場所:From a & e フロマエ(東京・荒川区西日暮里4)
主催:From a & e フロマエ
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1499824426745951/
○ 上越市ふるさと暮らしセミナー
(移住を検討している子育て中の方々等に対する説明・相談会)
日時:9月2日(土)13:00~15:00
場所:ふるさと回帰支援センター(東京・千代田区有楽町 東京交通会館8F)
主催:新潟県上越市
(詳細、お問合せ等↓)
http://www.city.joetsu.niigata.jp/site/furusato/furusato-seminar.html
○ そばの土寄せ&酒まんじゅうづくり
日時:9月3日(日)9:30~15:30
場所:山梨・上野原市西原(さいはら)地区
主催:しごと塾さいはら
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/111197779556444/
○ あなたの情報は間違っている!?
~放射能問題を正確に知り、福島の農業を再生するために
日時:9月9日(土)13:30~15:30
場所:生活クラブ館(小田急線経堂駅徒歩3分)
講師:石井秀樹さん(福島大学うつくしまふくしま未来支援センター)
主催:CSまちデザイン
(詳細、お問合せ等↓)
http://cs-machi.com/?p=3323
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*コツコツ小咄は夏休みです。
「コツコツ小咄」は拙ウェブサイトにも掲載しています。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.126は、9月5日(火)[和暦 文月十五日]の配信予定です。
より有用な情報の発信に努めていきたいと改めて考えていますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
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ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
http://food-mileage.jp/category/blog/
発行システム:『まぐまぐ!』
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