◇フード・マイレージ資料室 通信 No.148◇
2018年7月26日(木)[和暦 水無月十五日]発行
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◆ F.M.豆知識 福島県の農業生産額の推移(作目別)
◆ O.カレント 天山祭り(福島・川内村)
◆ ほんのさわり 西 芳照『サムライブルーの料理人 3・11後の福島から』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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大きく被災した西日本を含め、記録的な猛暑が続きます。さらに週末には台風が接近するとの予報も。どうかこれ以上の被害が出ないことを祈るばかりです。
時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月の日)と十五日(ほぼ満月の日)に配信している本メルマガ、今号は久しぶりに福島の特集です。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
-福島県の農業産出額の推移(作目別)-
東日本大震災の前年(2010年)における福島県の農業産出(生産)額は 2,330億円で、全国の 2.82%を占めていました。これが震災・原発事故が発生した翌年には 1,851億円へと大幅に(21%)減少し、シェアも 2.22%へと低下しました。
その後は回復しつつありますが、2018年の農業生産額は 2,077億円と依然として2010年の水準を11%下回っており、全国の生産が額も増加したため、シェアは 2.23%にとどまっています。
リンク先の図102は、福島県における農業産出額の動向を作目別に示したものです。
縦軸が生産額(2010年を100とした指数)、横軸が全国の生産額に占めるシェアの推移を表しています。
http://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2018/07/102_sanshutu.pdf
これによると、いずれの作目も生産額、シェアとも2011年に落ち込み、2016年は2010年の水準までは回復していないという傾向がみられます。
例えば米の生産額は、2010年から2016年にかけて17%減少し、全国に占めるシェアも5.03%から4.17%へと低下しています。
ところが、唯一、花きだけは、生産額は61億円から74億円へと 20.7%増加し、シェアも1.74%から2.10%へと上昇しています。
このように、福島県における農業生産は、震災と原発事故から復興する過程で、作目毎に差があることが伺えます。
[資料]農林水産省「生産農業所得統計」
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/nougyou_sansyutu/index.html#r
◆ オーシャン・カレント -潮目を変える-
食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
-天山祭り(福島・川内村)-
川内村(かわうちむら)は、浜通り地方のなかでも阿武隈山地に入った内陸部にあり、全村域の7割を森林が占めています。
その自然豊かな村は、2011年3月の原発事故により、一時、全村避難を強いられました。
幸い線量が比較的低かったこともあり、翌年にはいち早く「帰村宣言」が出され、現在は 7割以上の村民が帰還を果たしています。
これは避難指示が出された浜通りの市町村のなかでも高い割合です。
その川内村で、毎年7月の第2土曜日に開催されているのが「天山祭り」です(震災の年も途切れず開催されました)。
天山祭りは、名誉村民である「カエルの詩人」草野心平(いわき市出身)の発案により始められたものです。心平はモリアオガエルが生息する川内村をしばしば訪ね、村民との交流を重ねました。
寄贈された3000冊の蔵書は、村民たちにより建てられた天山文庫に収められています。
第54回天山祭りは、本年(2018年)7月14日(土)、天山文庫の前庭で開催されました。
中学生や有志の方による心平の詩の朗読、高校生による獅子舞、東京から来られた鈴木葉子さん(ソプラノ歌手、いわき市出身)によるミニコンサート、参加者全員による踊り等で盛り上がり ました。
婦人会の皆さんが準備して下さったお弁当(名物のイワナ付き)や地酒も振る舞われました。
なお「天山」とは、ここが交流の拠点になるようにと、東西の交流・シルクロードにそびえる山脈になぞらえて心平自身が命名したそうです。
[参考]
草野心平を偲ぶ「天山祭り」(川内村ホームページ)
http://www.kawauchimura.jp/page/page000187.html
第53回 天山祭りの様子(拙ブログ)
http://food-mileage.jp/2018/07/21/blog-119/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
-西 芳照『サムライブルーの料理人 3・11後の福島から』(白水社、2014/5)-
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b206063.html
Jヴィレッジ(サッカーのナショナルトレーニングセンター、福島・楢葉町)の総料理長であり、サッカー日本代表チームの 専属シェフも務められる著者(南相馬市小高区出身)の、東日本大震災から3年間の「失われた日常を取り戻すための戦い」の日々が綴られた書です。
2011年3月11日午後2時46分、Jヴィレッジも激しい揺れに見舞われました。
吹雪と停電のなか、津波の被害を蒙って避難してきた多くの方たちを受け入れて温かい食事を提供するため、西さんやスタッフの皆さんは献身的に奮闘されます。自分たちの家族との連絡も取れない混乱のなかでのことです。
さらに翌朝には、原発事故により避難するようにとの緊急連絡が届きました。Jヴィレッジは福島第一原発から20kmしか離れていません。西さんご自身も、一時は東京での避難生活を余儀なくされることになりました。
しかし次第に故郷への思いが募る西さんは、放射能に不安を抱きつつも、原発事故対応の拠点となっていたJヴィレッジに戻る決心をし、過酷な労働条件下にあった作業員の方たちに暖かい食事の提供を始められたのです。
さらに、隣接する広野町にオープンしたレストランの総料理長を務められるなど、復興の最前線で活躍します。
そのようななか、西さんはサッカー日本代表チームの専属シェフとして、2012年W杯ブラジル大会予選など海外遠征への帯同を続けました。
遠征先での食材調達や地元スタッフとの意思疎通に苦心しながらも、日本代表チームの選手やスタッフに、日本食を含むバランスの取れた食事を提供されたのです。なお、巻末には「最強レシピ・福島郷土料理編」も掲載されています。
今回のW杯モスクワ大会にも西さんは帯同(W杯としては2006年ドイツ大会以来4度目)し、持参した福島県産の味噌やうどんが選手の活躍を支えたそうです。
そしてJヴィレッジは、明日(7月28日)「再始動」の式典の日を迎えます。西さんも総料理長として復帰されるそうです。
福島の復興と、日本のサッカー文化の広がりと4年後のW杯カタール大会に向けて、西さんのますますの活躍に期待したいと思います。
[参考] ナショナルトレーニングセンター Jヴィレッジ
https://j-village.jp/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 浜通り・ふたばの『知りたい』と『伝えたい』(結イレブン vol.55)[7/17]
http://food-mileage.jp/2018/07/17/blog-118/
○ 2018年7月の福島・浜通り(1)天山祭り[7/21]
http://food-mileage.jp/2018/07/21/blog-119/
○ 2018年7月の福島・浜通り(2)川内村から富岡町へ[7/23]
http://food-mileage.jp/2018/07/23/blog-120/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。
○ 第16回 脱成長ミーティング公開研究会
日時:7月28日(土)18:00~
場所:ピープルズ・プラン研究所(東京・江戸川橋)
主催:脱成長ミーティング
(詳細、お問合せ等↓)
http://umininaru.raindrop.jp/datsuseichou/tuo_cheng_zhangmitingu/di16hui_kai_cui_jiang_zuo.html
○ 干物作り & BBQ in 千葉県いすみ市
日時:8月1日(水)10:00 JR外房線 茂原駅集合
場所:千葉県いすみ市
主催:全国うまいもの交流サロン なみへい
(詳細、お問合せ等↓)
http://www.namihei5963.com/namihei-board/detail.cgi?sheet=hp3&no=2266
○ 復興と五輪と若者と(福島の集い・結イレブン)
日時:8月11日(土)14:00~16:00
場所:A SEED JAPAN(東京・台東区上野5)
主催:国際青年環境NGO A SEED JAPAN
(詳細、お問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1863434943715530/
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*今号のコツコツ小咄
「ああ~、大きな字で書いて張り出したい気分!」
「なんて書くの?」
「大暑(大書)」
なお、コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも掲載してあります。
http://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.149は8月11日(土)、[和暦 文月朔日]の配信予定です。
より役立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
いつもありがとうございます。
http://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
http://food-mileage.jp/
ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
http://food-mileage.jp/category/blog/
発行システム:『まぐまぐ!』
http://www.mag2.com/
【出典:F.M.Letter No.148(2018.7/26)】