【ブログ】家族と食生活(「平和の棚の会」主催トークイベント)

2018年10月4日(木)の終業後は、東京・神田神保町店の東京堂書店へ。ぽつりぽつりと細かな雨が落ちています。

この日19時から6階の東京堂ホールで開催されたのは、斎藤美奈子さん×早川タダノリさんトークイベント「積極的平和と出版メディア~平和のために出版はなにができるのか」。
 「平和の棚の会」10周年企画とのこと。

19時を回り、開会の挨拶をされたのはコモンズの大江正章さん(前々日に続いてお世話になりました)。「平和の棚の会」の事務局長もされているそうです。

今年10年目を迎えた『平和の棚の会』は積極的平和(衣食住、人権、福祉、ジェンダーなどで差別されず、命がおびやかされない状態)を目指し、時代に即したテーマのフェアやイベントを実施しているとのこと。

進行は出版社「金曜日」の方に交代。
 最初は15分ずつ、最近のトピックスにも言及しつつ、それぞれのご著書の紹介から。

まず、マイクを取られたのは早川タダノリさん。
 「日本の伝統的家族」モデルのイデオロギー性を明らかにした『まぼろしの「日本的家族」』(青弓社)の編著者の方です。

冒頭「15分しかないので真面目な話をします」との発言に、まず、会場爆笑(以下、文責・中田)。

「『新潮45』の休刊には驚いた。一連の杉田発言等について評論家の江川紹子氏は『保守を装ったマイノリティー叩き』と批判しているが、それだけではなく、岡野八代氏が指摘しているように政治的な文脈の中にある思想の問題」

「保守系の論壇では『LGBTによる家族の破壊』『家族は社会の基盤』等の言葉が使われ、『わが国の伝統的な家族の永続性』を強調する論調もある。文部科学省の学習指導要領や教科書も家族の重要性を強調するものに変更されている」

「しかし『日本の伝統的な家族』というのは幻に過ぎず、極めてイデオロギー的な表現であることを明らかにしたのが新著」

続いてマイクを取られた斎藤美奈子さんは文芸評論家。
 ご著書『戦下のレシピ』(岩波現代文庫)は戦争前夜から敗戦直後までの婦人雑誌の記事を丹念に追った力作で、私も大きな示唆を受けた本です(拙メルマガでも紹介させて頂きました)。

「まずは戦争の前の楽しい話から」と始められ、「そもそも和食のルーツは江戸中後期にあるが、その成立の背景には、工業化・商品化の進展、北前船など交通・流通の発達、藩が特産品を奨励したこと等がある。
 明治の洋食は日本人の発明品。クロケットをコロッケと呼びご飯と味噌汁をつけて定食にするなど、日本人はアレンジ上手」

「都市と農村の間には大きな格差があり、都市の中でも貧富の格差が大きかった。そもそも普通の農家には台所は無く、囲炉裏で鍋を煮るだけでは料理とは言えない。
 都市の主婦もあまり料理はしなかったが、女学校が栄養と料理の知識を普及させた」

「日中戦争が始まった頃は、国民はW杯で自国を応援するのと同じような気分。鉄兜マッシュなど戦意高揚のためのレシピも。やがて食料不足が深刻化し、婦人雑誌にも食べられる雑草の解説や米の節約方法などが掲載されるように。執筆中は、私も草を見ると食べられるかどうかばかり考えていた」

15分という短時間ながら中身の濃いプレゼンでした。
 その後は司会の方の進行に沿って自由闊達なトークに。後半は会場からの質問も受けながらです。

早川さん
 「『戦下のレシピ』を読んで自分も婦人雑誌を集め始めたが、最も印象的だったのが終戦の1945年8月号の記事。この頃は調味料も不足していて、ナスを海岸の砂浜に埋めておき、翌朝掘り出せば漬物になることが紹介されている」

斎藤さん
 「もともと婦人雑誌は掃除や裁縫の記事が主体だったが、関東大震災以降、料理の記事が増えてきた。女学校の良妻賢母教育が背景にある」

早川さん
 「和食がユネスコに登録されたこともあり伝統的な日本食が評価されているが、例えば玄米を食べられるようになったのは大正以降。それ以前は石臼で脱穀・精米していた。
 昔の食生活についても誤解が多い。理想的どころか、実際は酷いのを喰っていた」

斎藤さん
 「家族みんなで食卓を囲むのが大事などと言っているが、昔は1人で食べている子どもなんか普通だった」

早川さん
 「自民党の憲法24条(家族関係形成の自由等の理念を規定)の改正案や、家庭教育支援法案などには大きな問題がある。『生命尊重の日』条例を制定する等の動きも」

斎藤さん
 「長子相続は武士階級の制度を真似たものだが、そもそも武士なんて全人口の3%位だった。 家族とは、もっとフレキシブルなものだった。今、イメージしている家族の姿は近代になってからのもの」
等々のやりとり。

最後に、平和のために出版は何ができるのかと問われたのに対し、

早川さん
 「あれだけ悲惨な戦争体験をしたのだから、もう少し歴史の教訓が働いていいのではないか。1980年代は戦争を検証する優れた多くの著作が出版されたが、それらをアーカイブで見られるようにすべき。
 紙つぶてでもできることはあるはず。もっと怒って、本を出して儲けよう」

斎藤さん
 「1年1冊、売れる本を出しましょう。ディストピアを描き警鐘を鳴らすだけではなく、オルタナティブを提示し、明日は今よりも良くできるという希望が感じられる本を」

この日はサイン会はなかったのですが、厚かましくも斎藤さんにサインを頂きました。また、宝物が増えました。

書店1階の「平和の棚の会」特設コーナでは、多くの人が並べられた書籍を手に取り、見入っていました。

それにしても、この連続3日間のセミナー参加で、また読まなければならない本が増えました。
 いずれも著者の方の話を実際に聞いたばかりでもあり、興味深いものばかりです。

「積ん読」では仕方ないのですが、まあ、ボチボチと怠けながら、興味の赴くままに(水木しげるの言葉)読んでいき、機会があれば拙メルマガ等でも紹介させて頂ければと思っています。