【ほんのさわり】鈴木善次(監修)『食農で教育再生』)

(監修)鈴木善次、(編著)朝岡幸彦、菊池陽子、野村卓
 『食農で教育再生-保育園・学校から社会教育まで』
 (農山漁村文化協会、2007.2)
 http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_4540063049/ 

本書は、食育基本法が成立(2005年)し「食育」という言葉が流行になっていた当時、それ以前から地道に「食農教育」に取り組んできた研究者や実践者により、将来の日本の「食」のあり方、教育のあり方について検討されたものです。
 ここでは食農教育を人間関係を形成する関係力の回復の場として、あるいは地域における活動に参画しながら社会と自然との共生を目指す教育実践として捉えなおそうとしています。

 本書には多くの事例が紹介されていますが、特に「野の文化学習会」が中心的に取り上げられており、主催者(都市部の市民団体)、受け入れ農家、学識経験者の立場から、多面的な論評がなされています。
 主催者である「生活文化・地域協同研究会(埼玉)」(「協同研」、菊池陽子代表)は、子どもの孤食等が広がる中、「地方で子どもがのびのび過ごせる」場作りのために、1992年から親子農業体験の活動を始めました。食育基本法から13年も前のことです。
 農作業の後でみんなで囲んだ食事では、不登校の子どもが「お代わり」の列に並ぶのを見て、一緒に参加した母親が涙を流したといったエピソードも紹介されています。

 一方、受け入れ側である農家・八木原章雄さん(秩父市横瀬)は、江戸時代から続いていた養蚕から観光農業への転換を模索されていたそうです。そのような時に協同研からの申し出があり、意気投合して活動を始められたとのこと。
 その後、15年以上継続されたこの学習会は「都市との交流というスパイスの効いた新しい農村開発」という分野を開拓したと評価されています。

 実は私も、この協同研の一会員として、野の文化学習会には何度も参加させて頂きました。残念ながら、主要メンバーの高齢化もあって現在は活動は中断されていますが、先駆的な食農体験の実績として高く評価されるものです。
 菊池さんの「食べることは生きること」という言葉(口癖)は、今も心の中に大切にとどめています。