【ほんのさわり】金子美登ほか『有機農業の技術と考え方』

-中島紀一、金子美登、西村和雄 (編集)『有機農業の技術と考え方』(2010.7、コモンズ)-
 http://www.commonsonline.co.jp/books2010/2010/07/08/%E6%9C%89%E6%A9%9F%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E3%81%AE%E6%8A%80%E8%A1%93%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B93%E5%88%B7/ 

本書は、有機農業推進法の制定(2006)後の有機農業の全体像を整理するとともに、将来の方向性について考察したものです。

 編著者の一人・中島紀一先生(茨城大農学部教授(当時))によると、農薬や化学肥料を使用しないというのは「有機農業の入り口についての部分的な認識」に過ぎないとのこと。
 有機農業とは、自然(田畑と作物の生命力)を基礎に位置づけ、それに人の労働と技術(手入れ)が寄り添い、自然との共生を求めるもの。すなわち、有機農業はJAS規格を取得するための特殊な農法ではなく、農業の本来のあり方にほかないとしています。
 そして、有機農業推進法の制定を経て、今後の有機農業は自然共生型の新しい暮らしや地域づくり等に大きな役割を果たす「第2世紀」に向かうと展望されています。

 また、編著者の一人である金子美登さん(埼玉・小川町)は、現場からの提言として「小利大安の世界を地域に広げる」という文章を寄せられています。
 金子さんは1975年4月、町内の10軒の消費者と会費制による提携を始めましたが、消費者の理解不足や権利意識により行き詰まり、2年ほどで解散されたとのこと。その経験を踏まえ、1977年7月、価格は消費者(東京都内を含む。)に決めてもらう「お礼制」による新たな提携を始められ、現在に至っています。
 「いいものを安くほしい人たちとの関係は切れたが、農業の大切さを理解する消費者とは長く続いている」とのこと。

 金子さんによると、有機農業とは「ふるさとの大地に根を張って生きることで、利益は少なくても大きな安心(小利大安)が得られる」農法だそうです。
 地場産業(日本酒、豆腐、レストラン等)との連携を通じ、「小利大安」を地域全体で実現されている様子も紹介されています。

 以上のように、有機農業とは、単に農薬や肥料を使わない農法ということに留まらず、長期的に自然と共生した社会(暮らし方、生き方、考え方)を実現していくものです。
 そして、その実現のためには、消費者を含む幅広い国民が参加していくことが不可欠です。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.175
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 (過去の記事はこちらにも掲載)
  http://food-mileage.jp/category/br/