【ブログ】「IPRC勧告草案にパブコメを書いてみる」(市民研学習会)

2019年9月9日(月)午前5時頃、強い台風が東京湾を縦断し千葉市付近に上陸。週明けの首都圏の交通は大混乱。

 昼休みに職場近くの日比谷公園を訪ねてみると、松本楼脇の大きなアオギリの木が倒れていました。地面には、たくさんのまだ青い銀杏。気温も急上昇。
 なお、千葉県では広域に停電や断水の被害、1週間を過ぎても復旧していません。

ちなみにこの週は、農林水産省・消費者の部屋(東京・霞ヶ関)では福島の森やキノコに関する特別展示が開催されていました。
 福島県産の栽培キノコは安全性を確認した上で出荷されていますが、天然のキノコは今も出荷制限中。放射能汚染の影響は、事故から8年半たった現在も継続しています。

 翌10日(火)の終業後は、東京・湯島の市民科学研究室(市民研)へ。
 リビングサイエンスという概念を手がかりに、生活者にとってよりよい科学技術を考えるための勉強会や調査研究を行っているNPO法人です。

この日19時から開催されたのは、「ICRP勧告にパブコメを書いてみる~原子力事故対応に関する草案を読み解いて~」と題する勉強会。

 代表の上田昌文さんの挨拶に続き、講師の瀬川 嘉之さん(市民科学研究室・低線量被曝研究会、高木学校・医療被ばく問題研究グループ) の説明が始まりました(文責・中田)。

 「ICRP(国際放射線防護委員会)とは放射線防護の専門家による一種の国際NGOで、これまで150近く出されている勧告等は国連機関の指針等に反映されるとともに、各国の放射線防護に関する法制度等に取り入れられている」

 「そのICRPが、現在、福島原発事故を踏まえた新しい勧告を作成中。草案がホームページ上に公開されており、9月20日(注:その後、10月25日まで延長)を期限としてパブリックコメントを実施中。
 誰でもホームページから書き込むことができる。日本語でも可」


 「草案本体は英語だが、概要についてはICRPによる日本語訳がホームページに掲載されている。
 また、本文についても、NPO市民科学研究室(市民研)など8市民団体有志による翻訳を市民研のホームページ等で閲覧することができる」

 「東電福島原発事故の経験を踏まえると、ICRPの勧告自体の妥当性が疑われている。ICRP委員を招いての学習会から見えたことも踏まえて、どこが問題か、何が書かれていないかを説明する。
 今回のパブコメを通して、福島の現実を世界に伝え、放射線防護等のあり方を検討する契機としたい」

 「日本の放射線審議会、原子力規制委員会、原子力規制庁など、日本の放射線防護に関する数値等はICRP勧告から引用しているが、必ずしも、その内容を十分に検討しているとは言えない」

「過去の勧告では、現存被ばく状況(緊急時以後の、被ばくが長期継続する状況)における参考レベルとして、『年間1~20mSv(ミリシーベルト)の範囲の下方部分で選択すべき』としており、これを参照して現行の日本における避難指示解除等の要件として『確実に20mSvを下回る』こと等とされている。
 これに対して今回の草案では、『下方部分』を明確にするという理由で10mSv以下という数値が新たに設けられている」

 「20mSvより低いことは評価できるとの見方もあるが、長期的な目標(1mSv程度)にもかかわらず10mSvでいいという誤解を与える懸念がある」

 この点については、参加者の中からも「せめて(チェルノブイリ法を参考に)5mSvとすべき」等の意見が出されました。

「草案では、『最適化』の原則として、放射線以外の社会、経済、環境への影響をより重視している。相対的に高い被ばくを『合理的に押し付ける』ことが正当化されかねない」

「『当局、専門家及びステークホルダーの共同』が重視されている。ステークホルダーは幅広い内容を含むようだが、『被災の当事者』という言葉が出てこないのは問題ではないか。
 賠償や支援が打ち切られ、事実上、帰還が強制されているという実態把握が不十分」

「福島事故の際は、モニタリング(測定)が全く不十分だったことの検証がなされていない。
 また、市民レベルで行われている土壌や食品の放射能測定、さらには甲状腺検査や健康相談への言及がないことは問題」

「ICRP委員はボランティアによる専門家で構成されているというが、実際には人件費や旅費は所属機関から出されている。現に、日本の原子力規制委員会の委員もいる。勧告される『当局』の職員は委員にはふさわしくないのでは」

 参加者との意見交換を含めて内容が専門的で、とても私には十分に理解できませんでした。瀬川さんの説明内容として紹介させて頂いた部分にも、誤解があるかも知れません。
 パブコメの提出も、正直、私には荷が重いと感じました。

 しかし、原子力をめぐる議論はあまりに専門的過ぎるという理由で、これまで私(たち)は無批判的に「専門家」の判断に委ねてきました。
 このような態度が、福島原発事故の遠因にあります。

 これからも長く続く事故対応や、今後の原子力政策について、ステークホルダーのひとりとして判断できるよう、勉強を続けていくことの必要性を痛感した学習会でした。