【ほんのさわり】田中淳夫『森と日本人の1500年』

-田中淳夫『森と日本人の1500年』(2014.10、平凡社新書)-
 https://www.heibonsha.co.jp/book/b183467.html

 先日、皇居に大嘗宮(だいじょうきゅう)を見学してきました。悠紀殿(ゆきでん)・主基殿(すきでん)はじめ全ての殿舎は見事な木造。
 このことに触発されて、森や木と暮らしてきた日本人の伝統を知りたいと思って手に取った本書ですが、期待は(いい意味で)裏切られました。

 著者は大阪・生駒山麓に生まれ、静岡大・林学科を卒業し出版社、新聞社を経て、現在は森林ジャーナリストとして活躍中の方。

 著者によると、森の風景は時代とともに、あるいは人間との関わりの中で激変しているとのこと。
 例えば、一斉に散る桜や鎮守の森を「日本の原風景」とするのは「嘘」。ソメイヨシノが全国に広がったのは明治から大正にかけてであり、京都の八坂神社や鴨川神社の境内林の植生も過去とは大きく変わっているそうです。
 明治時代には、幕府や藩による規制が取り払われたこともあって野放図な伐採が進み、禿(はげ)山が広がっていったとのこと。
 さらに第二次大戦後には復興等のために急拡大する木材需要に対応するため、森林の大増伐と外材輸入の完全自由化政策に踏み切り、結果として日本の林業は衰退し現代に至っているというのです。

 著者は述べます。
 「自然と共生する日本人といった論説には強い違和感が湧き上がる。かつての生態系を活かした農林業(焼畑や林間放牧など)は廃れてしまった。一方、現代のヨーロッパでは、自然と対立せず多様性を重んじる思想が広がっている。
 果たして日本人とヨーロッパ人のどちらが、本気で自然と共生しようとしているだろうか」

 そこで著者が提唱するのは、「美しい森づくり」。
 「必要なのは誇りの持てる森を維持すること。そして都市の住民も森に関心を持ち続けること。川下と川上の人々の思いが十分に連携した時、初めて美しい森はもっとも収益を上げるだろう」

 森づくりの方向に留まらず、今後の日本社会の指針をも示唆する好著です。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.182
  2019年12月11日(水)[和暦 霜月十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 (過去の記事はこちらに掲載)
  http://food-mileage.jp/category/br/