【ほんのさわり】斎藤幸平(編著)『未来への大分岐』

斎藤幸平(編著)『未来への大分岐-資本主義の終わりか、人間の終焉か?』(2019.8、集英社新書)-
 https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0988-a/ 

1987年生まれの編著者(ベルリン・フンボルト大学哲学科修了、大阪市立大学大学院・経済学研究科准教授)によると、人類は今、胸元に拳銃をつきつけられているような危機(政治・経済の悪化、社会の閉塞感、気候変動等)にあり、その根本原因は資本主義そのものにあるとのこと。
 この「大分岐の時代」にオルタナティブな未来を探るため、現在、世界で最も注目されている3人の知識人との対話を行ったのが本書です。

 マイケル・ハート(政治哲学者、デューク大教授)との対話では、「コモン」に焦点が当てられます。  これは資本による支配(私的所有)の対極にある概念で、地球というエコシステムをコモンとして把握し、民主的に管理するための新しい仕組み(パラダイム)作りの可能性について語り合っています。
 そして、そのオルタナティブの胎動は、既に世界各地で始まっているとのこと。

 マルクス・ガブリエル(哲学者、ボン大学教授)との対話においては、ポストモダンの「相対主義」や「社会構築主義」は普遍性を拒絶し分断を生み出すものとして危険であるとし、事実を真摯に受け止めることを基本とする「新実在論」の重要性が強調されています。

  ポール・メイソン(経済ジャーナリスト)との対話では、情報技術の発展は利潤率を低下させることを通じて産業資本主義を終焉させ、その後は水平的なネットワーク等に基づく持続可能な協働型経済(ポストキャピタリズム)に移行すると予測されています。  
 一方、「サイバー独裁」や「デジタル封建主義」の脅威を克服するためには、ヒューマニズムに基づく技術の管理が必要であることも強調されます。

 3人との対話を踏まえた編著者の結論は、かなりラディカル (根源的)なものです。  
 すなわち、既存の市場や国家のシステム、あるいはエコな製品を選ぶといった個人の消費活動のレベルでは危機を克服することは不可能であるとし、気候正義を実現するための「エコロジカル社会主義」を処方箋として提示しているのです。

 そして「大分岐の時代だからこそ、ニヒリズムを捨てて、民主的な決定を行う集団的能力を育む必要がある」と、社会運動の重要性を強調しています。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-No.182
  2020年1月9日(木)[和暦 師走十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 (過去の記事はこちらに掲載)
  http://food-mileage.jp/category/br/