【メルマガ】F.M.Letter No.197

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.197◇
 2020年7月21日(火)[和暦 水無月朔日発行]
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◆ F.M.豆知識  うなぎの供給量等の推移
◆ O.カレント  土用の丑の日
◆ ほんのさわり 日本ペンクラブ編『うなぎ』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 和暦では水無月に入りました。
 熊本など九州を中心に大雨による大きな被害が発生し、新型コロナウイルスの感染の再拡大も収まらない中、個人的に大きな出来事もありました。
 今号はうなぎを特集。今日は土用の丑の日(一の丑)です。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/mame/

−うなぎの供給量等の推移−

今日は土用の丑の日(次節参照)。日本の食文化ともかかわりの深いウナギですが、その供給量は近年大幅に減少しています。
 リンク先の図197は、ウナギの国内供給量(国産及び輸入)と価格の推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2020/07/197_unagi.pdf

 これによると、ウナギの国内供給量は1980年代半ば以降から増加し、2000年には史上最多の約16万トンとなりました。8割以上は輸入で、特に中国における日本向けのヨーロッパウナギの養殖に支えられたものでした。
 その後、供給量は急速かつ大幅な減少に転じ、最近は5万トン程度で推移しています。

 この背景には世界的な資源問題の顕在化があります。
 ヨーロッパウナギは2007年にワシントン条約附属書掲載が決定し、2019年以降EUは輸出を禁止しています。また、国内では2014年以降ウナギ養殖業は届出が義務化され、池入数量の上限も設定されています。
 ちなみに今漁期(2019年11月〜20202年4月)におけるシラスウナギの国内採捕量は、昨年の4.6倍に増加しています。

 このような供給状況を受け、国内の小売価格は2000年代に入ってから「うなぎ登り」に急騰しています。
 後述するように、ウナギは日本(及び世界)の食文化と密接に結びついている一方で、密輸、密漁など不適切な流通が横行しているとの指摘もあります。
 ウナギの適切な資源管理は、持続可能な社会を目指す中での試金石と位置付けられるかも知れません。

[資料]
 水産庁HP「ウナギに関する情報」
  https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/unagi.html
 総務省「消費者物価指数」
  https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html#zenkoku

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/pr/

−土用の丑の日−

土用とは、四立(しりゅう;立春・立夏・立秋・立冬)の直前の約18日間のことで、この間に12日周期で割り当てられる十二支の「丑」と重なるのが「土用の丑の日」です。2020年は春、夏、秋、冬合計で7日あり、このうち夏は7月21日(火)と8月2日(日)の2日あります(一の丑、二の丑と呼ばれます)。

 土用はいずれも季節の変わり目に当たりますが、特に夏の土用は夏バテを解消するため、ビタミンAなど栄養豊富なウナギを食べる習慣があります。

 夏の土用の丑の日にウナギを食べる習慣は、平賀源内が流行らせたという通説の真偽はともかくとして、江戸中期に始まりました。もっともウナギが夏バテに効くことは『万葉集』の時代から知られており、ウナギは歴史的に日本の季節や風土と密接に結びついた食文化の一つなのです。

 また、ウナギを食べるのは日本だけではありません。
 古代ギリシアのアリストテレスは「ウナギは泥の中から自然発生する」と書き遺し、15世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチは「最後の晩餐」の中央のテーブルにウナギ料理の皿を描いています。強靭な生命力と高い栄養、謎に満ちた生態等に、人類は魅せられてきたのです。

 一方、日本人のウナギ消費が(とりわけ土用の丑の日に集中していることが)、世界のウナギ資源に大きな負荷を与えているという指摘もあります。ウナギに関するマスコミの報道もこの時期に集中します(このメルマガまで!)。
 習慣や歳時記は大切にしつつも、地球資源の持続可能性にも心を配る必要がある時代になっています。

[参考]
 塚本勝巳編著『ウナギの科学』(2019.6/15、朝倉書店)
 http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-48502-8/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 http://food-mileage.jp/category/br/

−浅田次郎選、日本ペンクラブ編『うなぎ:人情小説集』 (2016/1、ちくま文庫)
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480433336/

内海隆一郎、岡本綺堂、井伏鱒二、林芙美子、吉村昭など9人による短編小説と、斎藤茂吉の短歌選が収められています。それにしても主題であれ脇役であれ、ウナギが登場すると、かくも濃厚に人間模様(家族のぬくもり、男女の愛憎、犯罪、戦争など)が描かれるのかと驚きます。

 亡き父の単身赴任先だった松江で常連だった料理店を訪ね、好物だった「ウナギのたたき」を頂く娘、新婚旅行の時に夫が失踪した川沿いの温泉宿に毎年逗留する女性、行きずりの男と一夜を過ごした安ホテルの路地の先にはウナギを割く人の姿が。
 兄妹が営む入り口が釘付けされたウナギ料理店の謎、不義を犯した妻と相手の男を刺した過去のある突き漁師と彼を待つ女性、戦時の南方での体験からウナギが食べられなくなった自衛隊の師団長など。
 数ある魚の中でも、ウナギは特別な地位を占めているようです。

 最後に、生涯で900回蒲焼を食べたという斎藤茂吉の一首。
「もろびとのふかき心にわが食みし鰻のかずをおもふことあり」

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 2020年7月[7/20]
 https://food-mileage.jp/2020/07/20/blog-271/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 環境・平和オンライン研究会
  研究報告と企画セッション「コロナ危機にどう向き合うか」
 日時:2020年7月26日(日)13:30〜16:00(予定)
  古沢広祐「アフタ/ウイズコロナ時代の世界動向」
  中野佳裕「いまこそ<健全な社会>へ」等
 場所:オンライン(ZOOM)
 主催:環境・平和研究会
 (申し込み、問合せ等↓)
 E-mail: ashigi2005(a)yahoo.co.jp
 *(a)を @ に変換してください。

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「感染拡大が収まらないね。どうなるんだろう」
「大丈夫、望み(のぞみ)も光(ひかり)もあるから。新感染(新幹線)症だけに」

 コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載してあります。
 http://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.198は8月4日(火)[和暦 水無月十五日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
  http://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也

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