【メルマガ】F.M.Letter No.207

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.207◇
 2020年12月15日(火)[和暦 霜月朔日]
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◆ F.M.豆知識  野菜小売価格の推移
◆ O.カレント  改正種苗法
◆ ほんのさわり 斎藤幸平『人新世の資本論』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 気が付くと12月も半ば。異例続きだった2020年も残り少なくなってきました。楽しみにしていた忘年会も中止に(涙)。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さった読者の皆様に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介していきます。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−野菜小売価格の推移−

今年の野菜の小売価格については、例年にない高騰により家計が圧迫されたという記憶が強いのではないでしょうか。
 確かに今年は2月以降の全国的な日照不足、長梅雨、激しい気温の変動等により野菜の生育は大きな影響を受け、7〜8月頃にはレタスやキャベツは平年の倍以上という高い水準にまで値上がりしました(リンク先の図207参照)。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2020/12/207_yasai.pdf

マスコミでも連日のように報道されたこともあって、消費者には価格高騰の印象ばかり強く残っているのですが、実際の野菜価格は図にあるように秋口にはおおむね落ち着き、さらに現在は、白菜、レタス、大根等の価格下落が続き、平年を下回る水準で推移している現状にあります。
 これは、秋の好天により生育が順調だったことに加えて、新型コロナウイルス感染拡大による外食等の業務需要の落ち込みが要因となっています。
 米価格が下落する恐れがあることは前号で紹介しましたが、野菜についても今冬は価格下落が著しく、生産者は厳しい年の瀬を迎えています。

ちなみに農林水産省では、1日当たりの野菜摂取量が目標量(350グラム)を大きく下回っている状況もあり、野菜の消費拡大を推進するための「野菜を食べよう」プロジェクトを実施しています。

[資料]
 農林水産省「食品価格動向調査(野菜)」
 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/kouri/k_yasai/h22index.html
 同「野菜を食べよう」プロジェクト
 https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/2ibent.html

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野について先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックス等を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−改正種苗法−

去る2020年12月2日、種苗法の一部を改正する法律が成立しました。
 今回の改正は、国内で開発された優良品種の海外流出を防ぐことが目的でしたが、一部、誤った情報が広く拡散するという混乱がありました。
 例えば、伝統種や固定種等の自家増殖(農家自ら種を採り増やすこと)を一律に禁止するものではありません。現在、栽培されている多くの品種(一般品種)は、今後も自由に自家増殖ができます。県の試験場等が開発した登録品種については許諾料が必要となりますが、許諾が必要なことは現在と変わらず、法改正によって生産者のコストが大きく上昇する事態は想定されません。
 また、海外の多国籍企業を優遇したり、遺伝子組換え作物の利用を推進したりするものでもありません。

いずれにせよ、生産者のみならず消費者の中でも種についての関心が高まっていること自体は、日本の農業や食料供給のあり方を見直す機会となるという意味で貴重です。
 なお、海外の多国籍企業ばかり問題視されますが、かつて戦前の日本においては、官民が一体となって開発・普及した品種が植民地支配に活用されたという歴史的事実は、藤原辰史『稲の大東亜共栄圏』(2012.9、吉川弘文館)で明らかにされています。

[参考]
 農林水産省「種苗法の改正について」
 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/shubyoho.html
 藤原辰史『稲の大東亜共栄圏』(拙メルマガ記事より)
 https://food-mileage.jp/2018/04/10/hon-140/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなるような本の「さわり」を紹介します。
 (過去の記事はこちらにも掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書、2020/9)−
 https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1035-a/

改めて小稿で紹介する必要もないベストセラー。
 著者は1987年生まれの大阪市立大学大学院経済学研究科准教授で、ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程を修了された「マルキスト」です。

今さらマルクス主義? という驚きがベストセラーとなった一因でしょうが、内容も多くの刺激的な(過激な)言説で満ちています。
 例えば「SDGsは『大衆のアヘン』である」。エコバッグやマイボトル持参等の「善意」は、「良心の呵責から逃れ、現実の危機から目を背けることを許す『免罪符』」として無意味どころか有害でさえあると断じています。
 「人新世」(ひとしんせい)とは、人類の経済活動が地球的な気候危機をもたらし、超富裕層は放埓な生活を続けられても多くの庶民は生き延びるために必死となる時代のこと。その気候危機を回避し「ラディカルな潤沢さ」を実現するためには、資本主義システム自体を変革するしかないと、読者を挑発しています。

これまでの脱成長論には批判的な著者が注目するのは、最晩年のマルクスが到達したという「脱成長コミュニズム」という思想。よく知られる『資本論』等の生産力至上主義とは異なり、持続可能性と定常型経済の原理を取り入れたものだそうです。

非常に鋭利な現状(資本主義)批判と理論の紹介が行われています、将来の具体的処方箋となると、その斬れ味は鈍っていると感じざるを得ません。
 〈コモン〉の再建、市民による生産手段や資源の共同管理、ワーカーズコープ、あるいはデトロイトの都市農業やバルセロナの地域政党といった具体的な事例も、必ずしも目新しいものではありません。

これは本書の欠点ということではなく、未来の処方箋を描くことはそれだけ困難であることを示すもので、海外等の優良事例を安直に借りてくるのではなく、自ら頭で考え、勝ち取っていくことが不可欠であることを示しています。
 その思考のための多くの素材を提供してくれるという意味で、本書は多くの示唆に富んでいます。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 知ることの責任[12/1]
 https://food-mileage.jp/2020/12/01/blog-291/

〇 分からなくなったら現場に出て聞け(宇井純さん)[12/14]
 https://food-mileage.jp/2020/12/14/blog-292/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 埼玉県全63市町村キーマン展
 日時:2020年12月15日(火)〜20日(日)11:00-20:00  場所:スクエアゼロ(JR東京駅構内)
 主催:地域愛を育む推進協議会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.tokyoinfo.com/company/topics/items/4cb0f6ebbbdde3ddc7ac551bb4551937c9906175.pdf

○ お茶の水サンクレールマルシェ
 日時:2020年12月24日(木)、25日(金)、28日(月)、29日(火)、11:00-18:00  場所:新御茶ノ水駅前広場(東京・千代田区)
 主催:サンクレールマルシェ運営委員会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/saintclair.marche

○ 共生社会システム学会 オンライン公開研究会
 「ウイズ・コロナ時代と共生社会のゆくえ」
 日時:12月19日(土)13:00〜15:30
 場所:オンライン
 主催:共生社会システム学会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.kyosei-gakkai.jp/

○ 映画「たねと私の旅」上映会&トーク
 日時:12月19日(土)18:30〜20:45
 場所:カフェスロー(東京・国分寺)
 主催:カフェスロー
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/865638650876887

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「私たちの世代は石油や石炭を使い過ぎ。良心が痛むね」
「化石(呵責)燃料だけにね」

 コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.208は12月29日(火)[和暦 霜月十五日]、2020年最後の配信となります。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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