【メルマガ】F.M.Letter No.209

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.209◇
 2021年1月13日(水)[和暦 師走朔日]
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◆ F.M.豆知識  有機農業と生物多様性
◆ O.カレント  国産有機サポーターズ
◆ ほんのさわり 大江正章『有機農業のチカラ』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 2021年が明けました。緊急事態宣言は1都3県から拡大されるとのこと、しばしガマンの時期が続きそうです。今回はコロナ時代における有機農業のチカラについて考えてみました。
 本メルマガは時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さった皆様に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータを、毎回1つの図表によりコツコツと紹介します。

−有機農業と生物多様性−

多くの消費者にとっての有機農業のイメージとは、農薬を使用しない安全で安心できる食品を生産する農法と捉えられる場合が多いですが、有機農業にはそれ以外の多くの特徴や役割があります。
 その一つが、生物多様性の保全です。
 リンク先の図209は、水田の農法と生物多様性保全との関連を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2021/01/209_tayousei.pdf

この図は、有機栽培、冬季湛水、IPM(総合的病害虫・雑草管理)を実施した水田(実施区)と、していない水田(対照区)におけるトンボやカエルの個体数を調査し、その結果から「生物多様性が非常に高い」「高い」「低い」「非常に低い」の4段階に分け、その構成割合を示したものです。
 これによると、有機栽培を行った水田については生物多様性が「非常に高い」、あるいは「高い」水田が65%となっているのに対し、有機栽培を行ってない水田では「低い」「非常に低い」水田が58%となっています。
 このように、有機農業は、冬季湛水やIPMと同様、取り組むことによりトンボやカエル類の保全に有効であることがデータからも明らかとなっています。

[資料]片山直樹、馬場友季、大久保悟(農研機構)『水田の多様性に配慮した農法の保全効果』(日本生態学会誌70、2020)
  https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/70/3/70_201/_pdf/-char/ja

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。

−国産有機サポーターズ−

「有機農業の推進に関する基本的な方針」(2020年4月)においては、国内の有機食品市場における国産のシェアの目標(2017年の60%から2030年には84%まで拡大)が設定されています。この目標達成に向けて、国産の有機食品の需要喚起の取組を進めるためのプラットフォームとして農林水産省が立ち上げたのが「国産有機サポーターズ」です。

有機食品の普及のためには、生産者、消費者、行政のみならず、小売や飲食関係など様々な事業者を含めた幅広い連携が不可欠です。本プラットフォームは、国産有機食品の販売・提供や、有機農業・食品についての消費者に分かりやすい情報発信等に取り組む事業者の方が「国産有機サポーター」として登録されています。
 2020年12月16日現在で64社が参画しており、さらに登録希望者を募っています。
 諸外国に比べて低い水準に留まっている日本の有機農業・有機食品が普及する一助となることが期待されます。

(参考)
 農林水産省HP【国産有機サポーターズ】
 https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/supporters/suppoters_top.html

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。

−大江正章『有機農業のチカラ−コロナ時代を生きる知恵』(2020.10、コモンズ)−
 http://www.commonsonline.co.jp/new_books/2020/09/04/yukinogyopower/

著者は1957年神奈川県生まれ。学生時代から市民運動に積極的に関わり、いったん中堅出版社に就職したものの退職して自ら出版社「コモンズ」を立ち上げ、編集者として、あるいは自らライターとして、多くの良質かつ問題提起的な本を出版されてきました。
 その大江さんが、肺がんとの10か月に及ぶ闘病生活の末、昨年(2020)12月15日に逝去されたのです。享年63歳、早過ぎました。

本書はコロナ禍の中で、10年間の論調を改めてまとめられたもので、図らずも著者の思想と実践の集大成となり、ご遺稿ともなってしまいました。

著者は、コロナ禍に打ち勝つためには、持続可能な社会への転換(経済成長ばかり追い求めず、脆弱な都市型社会の過剰な便利さを見直す)と、第一次産業を重視し、(国、地域、個人など様々なレベルでの)食の自給を目指すことが必要としています。
 その軸となるのが「環境を破壊せず、いのちを大切にし、地域を元気にする」有機農業とのこと。有機農業には、食の安全の確保だけではない幅広い「チカラ」があるのです。

また、「カネはなくてもモノと人間関係があれば生きていける」とも喝破されています。有機農業は、提携運動など、人間関係をつくる(人と人とをつなぐ)面でも大きなチカラを発揮します。
 そして何より大江さんご自身が、人と人とをつなぐネット─ワークの中心におられた方でした。私自身も、様々なセミナーや福島へのスタディツアーの場において、直接多くの学びを頂きました。
 大江さんの志を、たとえその一部でも担っていきたいと決意しています。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 2021年は市民研とともにスタート[1/11]
 https://food-mileage.jp/2021/01/11/blog-296/

▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい。

○ 気温上昇が私たちの食べものを変える?
 日時:1月16日(土)14:00〜16:00
 場所:オンライン
 主催:NPO法人コミュニティスクール・まちデザイン
 (詳細、問合せ等↓)
 http://cs-machi.com/?cat=3

○ 市民科学入門講座 第8回
 「国際放射線防護委員会ICRPの正体を探る」
 日時:1月18日(月)19:00〜20:00
 場所:オンライン
 主催:NPO市民科学研究室
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.shiminkagaku.org/csijwebinar_introduction/

○ 宇沢弘文を読む−社会的共通資本から現代の課題を考える 第4回
  北川フラム「社会的共通資本としてのアート」
 日時:2020年1月19日(火)19:00〜20:30
 場所:クラブヒルサイドサロン(代官山、満席)、オンライン
 主催:クラブヒルサイド、宇沢国際学館
 (詳細、問合せ等↓)
 http://hillsideterrace.com/events/10642/

○ 富山大学公開授業「大震災から10年とこれからの10年」
 日時:2020年1月26日(火)16:30〜19:40
 場所:富山大学五福キャンパス及びオンライン
 主催:富山大学
 (詳細、問合せ等↓)
 http://www3.u-toyama.ac.jp/tulip/sinsai2020/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「私たちの社会のレジリエンスが、試されているのね」
「キーワードは持久、持続(自給自足)かも」

 コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.210は1月27日(水)[和暦 師走十五日]に配信予定です。
 より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。
 いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しているものであり、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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