【ほんのさわり No.227】影山知明『続・ゆっくり、いそげ』

−影山知明『続・ゆっくり、いそげ』(2018.11、クルミド出版)
 https://www.kurumed-publishing.jp/books/10

著者は1973年東京・国分寺生まれ。外資系の大手コンサルティング会社を経てベンチャー投資ファンドを創業、独立。いわばグローバル資本主義のど真ん中で活躍されていた著者は、2008年、西国分寺駅に近い生家の地にシェアハウスとカフェ(クルミドコーヒー)をオープンし、地元をフィールドに様々な社会的な活動・実践に取り組むようになりました。

本書は、前著『ゆっくり、いそげ 〜カフェからはじめる人を手段化しない経済〜』(2015、大和書房)で提示した「仮説」について、その後の実践・経験を踏まえて自ら証明を試みようとしたものです。
 その仮説とは、「時間をかけ、手間ひまをかけ、贈る(ギブする)仕事を突き詰めていけば、世の中の価値の総和を大きくし、結果として経済も成長する」というもの。
 
 著者の実践は、カフェの営業(2017年には2店目もオープン)、カフェを会場とした演奏会、哲学カフェ、読書会等の開催、カフェ内に書店の併設(地域の方が持ち寄った本も)、出版事業、地域通貨「ふんじ」の発行、田んぼづくり(古代赤米の復活)などに拡がり、着実に地域に根付きつつあります。

その一方、自らの存在は「風前の灯火」かも知れないいう恐れもあるそうです。経済合理性のみを追求する現代社会では、極端に大きな大企業か、極端に小さな個人店しか生き残れなくなるだろうという危機感を有しているからです。
 それでも著者は、「経済合理性から最も遠い中途半端な存在」であるものの、「一人一人が大切にされる社会をつくる」「金銭換算できない価値を大事にできる社会をつくる」ための「先兵であり続けたい」「行けるところにまで僕らの道を行こうと思う」と語っておられます。

近年、資本主義や経済成長のあり方について様々な論調がありますが、本書では、単なる理論や思想に留まらず、地元・国分寺で実践し、実績を上げていることが詳らかに紹介されています。ローカルの実践から、日本、世界全体を覆うシステムへの挑戦を続けておられるのです。

[参考]
 トークイベント録画「『ゆっくり、いそげ』のこれまでとこれから」(2021.9/20、胡桃堂喫茶店)
 https://www.youtube.com/watch?v=GI-OT2EqO0g

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 No.227、2021年10月6日(水)[和暦 長月朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
 (購読(無料)登録もこちら↑から)

(バックナンバーはこちら↓に掲載)
  https://food-mileage.jp/category/br/