【ほんのさわり No.228】石渡博明『いのちの思想家 安藤昌益』

−石渡博明『いのちの思想家 安藤昌益』(2012.11、自然食通信社)
 http://www.amarans.net/3022

かつて「忘れられた思想家」と称されていた安藤昌益については、現在は農山漁村文化協会による労作『安藤昌益全集』(全21巻)等により、その思想の全貌を知ることが可能となっていますが、昌益の著作はもともと難解で、入門書的なものがないかと探していたところ、農文協・農業所センターで出会ったのが本書です。
 著者は1947年神奈川・横須賀市生まれの「在野」の昌益研究家で、「安藤昌益の会」の事務局長も務められています。

本書は、昌益の没後250年と「発見者」狩野亨吉の没後70年を記念して、2012年2月から8月にわたって『北鹿新聞』(昌益と亨吉の郷里である北秋田の地域紙)に連載された記事をベースに、昌益の思想や人物像が分かりやすくまとめられています。

昌益の思想は、絶対平等主義と徹底的な平和主義(軍備の全廃)に象徴されます。
 そのキーワードである「直耕」(ちょっこう、てずからたがやす)とは、農民による農業労働をはじめ、生産のための直接労働全般を指す言葉で、自然界の生命循環にもつながるものです。
 そして、自ら生産しない聖人や為政者を「不耕貪食の徒」(搾取者、寄生生活者)と強烈に批判し、農耕を軸に自然と一体となった平等な世の中(自然の世)を理想としています。そのためにも、搾取・支配・抑圧の手段としての武力・暴力を否定しているのです。

封建制の江戸時代中期に昌益のような思想家がいたこと自体驚きですが、現代の「科学万能主義」「経済合理至上主義」にも対抗しうる先駆的な思想として、大いに注目されます。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 No.228、2021年10月20日(水)[和暦 長月十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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