【ほんのさわり No.229】平賀 緑『食べものから学ぶ世界史』

−平賀 緑『食べものから学ぶ世界史−人も自然も壊さない経済とは?』(2021.7、岩波ジュニア新書)
 https://www.iwanami.co.jp/book/b584818.html

広島出身の著者は、国際基督教大学卒業後に香港の大学に留学し、新聞社、金融機関等に勤めながら食や環境に関わる市民活動を企画運営された後に、改めて大学院に進学し、ロンドン市立大学で修士(食料栄養政策)、京都大学で博士(経済学)を取得されました。
 現在は、京都橘大学経済学部准教授を務めるとともに、様々な市民活動にも参画されています。

 本書では、現在の「資本主義的食料システム」がもたらしている多くの問題が明らかにされています。
 著者によると、資本主義とは拡大と成長を延々と続ける政治経済システムであり、今や世界のオべレーティング・システムになっているとのこと。これに食料や農業も取り込まれてしまったため、生命の糧であるはずの食べものは「金儲けのための商品」へと変貌し、、経済的効率性を優先した工業的農業生産が行われ、地球環境と人の健康と地域社会を破壊しているとしているのです。
 また、戦後日本で輸入原料に依存した食料システムが構築されたことについては、消費者の嗜好(食生活)の変化だけでは説明がつかないともしています。

 その一方で、資本主義自体は、日本では明治以降150年にも満たないものであり、自然の法則でも不変のシステムでもないこと。さらには地球は有限で、モノも飽和状態にあるなど、資本主義自体が行き詰まっていることも明らかにしています。
 したがって、今後は私たち一人ひとりが、どのように人と環境に望ましい持続的な食と農のシステムを築いていくかについて考える必要があるとしているのです。

 とは言え、私たちの毎日の食事などは小さなことです。
 しかし著者は、食べものが世界経済や政治がつながっていることを自覚して「自分ごと」としつつ、小さな取組みを広げていけば「いつかきっと世界のシステムを変えることができる」としているのです。
 そのはじめの一歩として著者が具体的に提案しているのは、例えばペットボトルではなく自分でお茶を淹れてみる、料理に挑戦する、そして地域で頑張っている小さな農家とつながること等です。

 「まずは今日のご飯から、人も自然も壊さない世界を考えてみませんか」と著者は訴えています。

出所:
 F. M. Letter -フード・マイレージ資料室 通信-
 No.229、2021年11月5日(金)[和暦 神無月朔日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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