◇フード・マイレージ資料室 通信 No.230◇
2021年11月19日(金)[和暦 神無月十五日]
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◆ F.M.豆知識 世界の経済部門別の温室効果ガス排出量
◆ O.カレント COP26と石炭火力発電
◆ ほんのさわり ナオミ・クライン『地球が燃えている』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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2021年も11月後半。さすがに朝夜は冷えるようになってきましたが、昼間は暖かい日が続いています。これも地球温暖化の一現象でしょうか。今号は「気候危機」を取り上げました。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に、登録下さった皆様に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、特に私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータをコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−世界の経済部門別の温室効果ガス排出量−
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2021年8月に発行した第6次評価報告書(AR6 WG1)では、「人為的な温室効果ガス排出量の増加が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」とされています。
リンク先の図230は、世界の経済部門別の温室効果ガス(GHG)排出量の構成比を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2021/11/230_GHG.pdf
これによると、世界のGHG排出量は全体で520億トン(二酸化炭素換算)となっており、うち一次産業(「農業」及び「林業その他の土地利用」)のシェアは23%と、全体の約4分の1を占めています。
農業に関しては、水田からの、あるいは牛の反芻(げっぷ)によるメタンの排出が主なもので、「林業その他の土地利用」については、木材生産に伴う森林劣化、森林の農地への転換等が内容となっています。
つまり、農林業自体から排出されるGHGだけではなく、吸収源である森林が減少することによる効果も含まれています。
なお、森林ほどは注目されていませんが、適切に管理された農地も同様に炭素を固定する吸収源としての機能も有しています。
ちなみに日本国内におけるGHG排出量(12億トン)に占める農林水産分野のシェアは約4%と、相対的に小さなものとなっていますが、これは、国内では森林を大規模に伐採して農地開発することが行われていないこと、食料の多く(カロリーベースで63%)を輸入に依存していること等の事情が背景にあるものと思われます。
[資料]
1) IPCC土地関連特別報告書(2019)
https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2019/08/Edited-SPM_Approved_Microsite_FINAL.pdf
2) IPCC第5次報告書第3作業部会報告書(2015)
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th_pdf/ipcc_5th_report_wg3.pdf
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−COP26と石炭火力発電−
COPとは国連気候変動枠組み条約(1992年採択)の締約国会議(Conference of the Parties)のことで、1995年以降ほぼ毎年開催されてきました。26回目に当たる今年の会議は10月31日からイギリスのグラスゴーで開催され、会期を1日延長した11月13日に合意文書(「グラスゴー気候合意」)が採択されました。
同合意には、2100年の世界平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える努力を追求することが盛り込まれる一方、最大の争点となった石炭火力発電については「段階的廃止(phase-out)」との当初案にインドや中国が反対し、「段階的に削減(phasedown)」と表現を弱めるかたちで合意されました。
現地でのデモに参加したスウェーデンの活動家 グレタ・トゥンベリさん(18)がツイッターで「簡単に要約すると何とかかんとかというつまらないおしゃべり(blah, blah, blah)」と酷評したことも話題となりました。
ところで、すっかり悪役とされている石炭火力発電ですが、温室効果ガス排出量に偏重した対策には違和感を覚えます(肉食と似た面があります)。エネルギーの安定供給という観点も重要であり、石炭火力発電自体の技術も進歩しています。また、原子力発電に比べれば「倫理的」には優れていると思うのですが、いかがでしょうか。
[参考]
外務省HP「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)等」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page24_001540.html
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−ナオミ・クライン『地球が燃えている−気候崩壊から人類を救うグリーン・ニューディールの提言』(2020.11、大月書店)
http://www.otsukishoten.co.jp/book/b532892.html
『ショック・ドクトリン』で戦争や天災など大惨事に便乗する多国籍企業等の実態を暴いたジャーナリストが、本書では、略奪型資本主義から脱炭素社会へ転換するビジョン(グリーン・ニューディール)を示しています。
気候危機が深刻化するなか、著者はよく「気候変動を止めるために個人として何ができるか」という質問を受けるそうです。それに対して著者は「何もないというのが事実。あなたひとりでは何もできないのです」と答えるとのこと。
気候変動問題は、個人がライフスタイルを変えるだけでは解決できないと断言しているのです。
一方、危機の中心には地球上でもっとも裕福な20%の人々の「過剰消費」があるとも指摘しています。
そもそも貪欲な無制限の消費で成り立つ近代資本主義は、アフリカから盗み出された人々(奴隷)と先住民から盗み取った土地(植民地)に対する残忍な収奪から始まったもので。現在の私たちにも、火災時に避難することも困難なバングラデシュの工場で衣類を作っている女性や、コンゴでコバルトを採掘している子ども達の姿は見えなくなっています。
気候危機は、貧困や人種差別とも結びついているのです。
著者は、現に各地で取り組まれているコミュニティレベルの活動(再生可能エネルギー、コミュニティ支援農業やファーマーズマーケット、協同組合セクター等)を高く評価する一方で、気候危機に対応するには地域での活動だけでは不十分であるとし、路面電車や配電網に対する計画的な投資とともに、組織化されたグローバルな集団的な行動が必要であるとしています(子ども達による気候マーチも高く評価しています)。
著者は、ある若い環境活動家に語りかけます。
「世界への責任は一人の肩に懸かっているのではない。あなたはひとりではない。何百万人もの人がすでにかかわっている運動の一部。あなたはあなたが思う活動を行えばいい。そうすれば運動を長く持続することができる。それこそが必要なもの」
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届します。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 2021年秋の福島訪問(1日目、大熊町)[11/7]
https://food-mileage.jp/2021/11/07/blog-343/
○ 2021年秋の福島訪問(2日目、浪江〜二本松・東和)[11/8]
https://food-mileage.jp/2021/11/08/blog-344/
○ 2021年秋の福島訪問(3日目、広野町・いわき市)[11/9]
https://food-mileage.jp/2021/11/09/blog-345/
○ 2021年秋の福島訪問(最終日、いわき市など)[11/13]
https://food-mileage.jp/2021/11/13/blog-346/
▼ 筆者が参加予定または関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
既に満席の場合等がありますので、参加を希望される際には必ず事前に主催者等にお問い合せ下さい(リアルのイベントが増えてきました)。
○ 教育シンポジウム2021「大人って何?」
日時:11月20日(日) 12:30〜16:00
場所:毎日ホール(東京・千代田区一ツ橋)
主催:毎日メディアカフェ
(詳細、問合せ等↓)
https://mainichimediacafe.jp/eventcal/#l7435
○ 朝のもちよりブックス#33
日時:11月21日(日) 9:00〜10:45
場所:胡桃堂喫茶店(東京・国分寺市本町)
主催:胡桃堂喫茶店
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/4555159184568219
○ アフガニスタン 山の学校支援の会 現地報告会
日時:11月27日(土) 12:30〜16:00
場所:武蔵野公会堂(武蔵野市吉祥寺南町)
主催:山の学校支援の会
(詳細、問合せ等↓)
http://www.h-nagakura.net/yamanogakko/info_210808.html
○ ふくわた・オンラインツアー初冬編
日時:11月27日(土) 13:00〜15:30
場所:オンライン
主催:(一社)ふくしまオーガニックコットンプロジェクト
(詳細、問合せ等↓)
https://www.fukushima.organic/information/event/76/
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
「アインシュタイン君、時間通りに来たことがないね」
「いいから始めてよう。いつも忘れたころに来るから」
福島・二本松市木幡の隠津島(おきつしま)神社には、天明大飢饉の教訓を後世に伝える「天明為民の碑」があります。果たして現代の私たちは、天災に対して十分な備えができているでしょうか。
コツコツ小咄は拙ウェブサイトにも写真入りで掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.231は12月(!)4日(土)[和暦 霜月朔日]に配信予定です。
より役立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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