◇フード・マイレージ資料室 通信 No.293◇
2024年6月6日(木)[和暦 皐月朔日]
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◆ F.M.豆知識 消費者の「食の志向」、有機食品のイメージ
◆ O.カレント 改正基本法と消費者の役割
◆ ほんのさわり アリス・ウォータース『スローフード宣言』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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和暦では皐月(さつき)に入りました。稲の生長に欠かせない雨が降る五月雨(さみだれ)月です。一方で気候変動が激しくなるなか、豪雨被害も懸念されます。
今号のテーマは「消費者の役割」としました。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−消費者の「食の志向」、有機食品のイメージ−
【ポイント】
近年における日本の消費者はますます節約志向を強めており、有機食品については健康、安全といった「利己的な」動機で購入している状況が伺えます。
(株)日本政策金融公庫は、2010年以降、年2回(1月、7月)、消費者の「食の志向」についてアンケート調査を実施しています(リンク先の左側の図293-1)。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/06/293_shouhi.pdf
直近(2024年1月)においては、健康に配慮したいとする「健康志向」が45.7%と最も高く、次いで「経済性志向」(食費を節約したい、40.8%)、「簡便化志向」(料理や後片付けの手間・時間を省きたい、38.2%)となっています(複数回答、上位2つ)。
過去10年間の推移をみると、健康志向は一貫して高い水準で推移している一方、経済性志向、簡便化志向は右肩上がりとなっています。特に近年は経済性志向が大きく上昇しており、食料品価格の高騰を受けて、食費を節約したいとする消費者が増加している状況が伺えます。
なお、国産志向は逆に低下傾向で推移しており、特に最近は経済性志向が高まるなかで大きく低下しています(直近では11%)。
リンク先の右側の図293-2は、週に1回以上有機食品を利用する消費者を対象に、有機食品のイメージについて調査した結果です。
これによると、「健康にいい」が86%(「そう思う」と「まあそう思う」の合計)、「安全である」が84%と高いのに対して、「環境に負荷をかけていない」は68%とやや低くなっています。また、85%は「価格が高い」というイメージを有しており、逆に「手に入れやすい」は27%にとどまっています。
このように、近年における日本の消費者はますます節約志向を強めている一方、有機食品の購入は健康、安全といった(環境など社会的な動機ではない)「利己的な」動機に基づいていることが伺えます。
[データの出典]
日本政策金融公庫「消費者動向調査」、農林水産省農業環境対策課「有機食品の市場規模および有機農業取組面積の推計手法検討プロジェクト」(2024.3 修正)から作成。
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_240229a.pdf
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/chosa-12.pdf
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−改正基本法と消費者の役割−
【ポイント】
新基本法では、食料の持続的な供給のために消費者がより積極的な役割を果たすことが期待されていますが、その実態とは大きなギャップがあります。
農政の基本理念や政策の方向性を示す食料・農業・農村基本法の改正案が、去る5月29日(水)、参院本会議で与党などの賛成多数で可決・成立しました。
1999年の施行以来の初の改正で、近年のパンデミックやロシアによるウクライナ侵略などの世界的な食料需給の変動、地球温暖化の進行など新たな課題に対応するため、基本理念として、平時を含む食料安全保障の確保、環境と調和のとれた食料システムの確立等を新たに位置付けています。
また、旧法に引き続き「消費者の役割」についても規定されています(第14条)。ただし旧法では「食料、農業及び農村に関する理解を深める」等に留まっていたのに対して、改正法では「環境への負荷の低減等に資する食品の選択に努める」等の字句が追加されており、食料の持続的な供給のために、消費者がより積極的な役割を果たす(コスト負担を含む。)ことが期待されています。
これは、先の「豆知識」欄でみたような消費者の実態とは大きなギャップがあります。このギャップを埋めていくためには、消費者自らの意識と行動の変容が必要と考えます(私も消費者の一人です)。
[参考]
食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案 (新旧対照条文)
https://www.maff.go.jp/j/law/bill/213/attach/pdf/index-43.pdf
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−アリス・ウォータース『スローフード宣言−食べることは生きること』(2022/11、海士の風)−
https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=05_90993402/
【ポイント】
著者はファストフードとスローフードを対峙させつつ、「食べることは生きること」「何を食べるかが世界に大きな影響を与える」と主張しています。
1971年、著者はアメリカ・カリフォルニア州バークレーに「シェ・パニーズ」をオープンしました。オーガニックとローカルをコンセプトに「顔のみえる食材」を提供するレストランは、現在、最も予約が取りにくい店と言われているそうです。
著者は、イタリアのスローフード運動の提唱者であるカルロ・ペトリーニ等との交流、ファーマーズマーケット(産直市)やエディブル・スクールヤード(学校菜園)の取組みを進めるなかで、「食べることは生きること」という確信を得ていきます。
本書では、現代の世界を席巻しているファストフード的価値観(便利、いつで同じ、安さ等)と、それに対峙するスローフード的価値観(美しさ、生物多様性、旬、繋がり等)の決定的な違いを整理し、「スローフードは、私たちが畏怖すべき自然と繋がっていることを意識させてくれる共有財産。何を食べるかが世界に大きな影響を与える」としています。
アメリカでスローフード的な取組みが広がっている背景には、アメリカの消費者のなかに、オーガニックやローカルには(健康や安心等の「利己的」だけではない、環境等の)社会的な価値があるという認識が、広く共有されていることがあると思われます。
著者は、本書の日本での出版を記念して来日し、日本各地の生産者や事業者と交流しました。その様子はドキュメンタリ映画として記録されています。
しかし、この映画で紹介されているのは、例えば高級な京都の日本料理店や島根の武家屋敷をリノベーションした宿屋。これでは、日本においてはオーガニック(有機)やローカル(地産地消)の取組みは、経済的に余裕がないと実現できないかのような誤解を与えかねず、この点は残念でした。
[参考]
ドキュメンタリ『食べることは生きること〜アリス・ウォータースのおいしい革命〜』公式サイト
https://www.cinemo.info/128m
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 山田 優さんが見る有機農業(霞ヶ関ばたけ)[5/23]
https://food-mileage.jp/2024/05/23/blog-508/
○ 生産消費者から農的社会へ(蔦谷栄一先生・小農学会セミナー)[5/25]
https://food-mileage.jp/2024/05/25/blog-509/
○ 2024年5月末の石川県訪問記[6/3]
https://food-mileage.jp/2024/06/03/blog-510/
○ 『未来につなぐおいしい解決策』(ご近所ラボ新橋)[6/4]
https://food-mileage.jp/2024/06/04/blog-511/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 東日本大震災の風化を防ぐプログラム「福島第一原子力発電所の今と福島の人びとの思い」
日時:6月8日(土)13:30〜16:00
場所:東京YWCA会館カフマンホール(東京・神田駿河台)
主催:(公財)法人東京YWCA
(詳細、問合せ等↓)
https://www.tokyo.ywca.or.jp/peace/disasters/news/2024/04/001496.html
○【第203回霞ヶ関ばたけ】「人間と地球を健康で幸せにするフードシステムの構築〜 プラネタリーヘルスダイエットとは?」
日時:6月9日(日)9:30〜11:15
場所:官民共創HUB(東京・港区虎ノ門)
主催:霞ヶ関ばたけ
(詳細、問合せ等↓)
https://peatix.com/event/3960344
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
いつまでも再開の目途はつかず。過去のアーカイブは以下に掲載してあります。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.294は6月20日(木)[和暦 皐月十五日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今年は北斎手帳)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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