2024年6月27日(木)は久しぶりの主催イベント。しかも初の現地見学会です。
梅雨時ながら、幸い雨は落ちていません(「雨男」返上!)。気温も前日ほど高くはなく、時折、吹いてくる風が涼しく感じられます。
この日、開催したのは「古民家付き農園 corot 見学とイタリア料理『ナチュール』で所沢野菜を味わう会」。昨年11月から本年3月にかけて開催した「農あるまちづくり講座 in 所沢市」のフォローアップ企画です。
「食と農」をめぐっては、食料自給率の向上、農業の担い手の確保、食品ロスの削減等の多くの課題があり、これらを受けて「食料・農業・農村基本法」も改正されました。しかしこれら課題の解決のためには、法律や制度の見直しと同時に、それぞれの地域において、生産者、事業者、消費者など多くの関係者が一体となって具体的な取組みを進めていくことが不可欠です。
この地域における取組みをさらに広げていくため、先進的な実践の現場を訪ね、共に学ぼうというのがこの日の企画の趣旨です。
午前10時に西武狭山線・下山口駅に集合。この日の参加者は9名。
「農あるまちづくり講座」受講者のほか、個人的に関心を持たれた方も参加して下さいました。
スタート時には時折り日差しも出て、日傘をさして歩き始めます。
道順は前々日に下見していたのですが、地元の方のアドバイスで交通量の少ない「裏道」を歩くことに。
10分ほどで山口城址に到着。
平安から室町時代にかけてこの一帯を本拠とした山口氏(武蔵七党の村山氏の一族)の居館跡で、山内上杉氏、後北条氏と何度か主君を変えつつ存続していたものの、秀吉の関東征伐時に廃城となったと伝えられています。遺構のほとんどは道路や商業施設の敷地となり、わずかに土塁の一部などを残すのみです。
と説明していると、地元の方が小さな祠があると案内して下さいました。商業施設の駐車場を下っていくと、確かに土塁の上に小さな石造の祠がありました。この城址には何度か来たことがあるのですが、この祠のことは知りませんでした。
再び一級河川・柳瀬川(近世まで水運の要でした)を渡り、右折してcorot に向かいます。
ちなみにこの辺り、往古には鎌倉街道上道が通っていたとされ、北には小手指原古戦場址、南には久米川古戦場址があります。
古民家付き農園「corot」に到着したのは10時40分頃。のんびりと歩いていて、予定より10分ほど遅れました。
貸農園ではいくつかの区画で夏野菜が栽培されていました。スペースは広く、まだ区画は増やせそうです。
入口の脇には、シンボルである見事な欅の巨木。
築100年の古民家で、オーナーの峯岸祐高(みねぎし・ゆたか)さんが出迎え、招じ入れて下さいました。
車座になるように座らせて頂き、冷たいお茶を出して下さいました。
エアコンを入れて下さっていましたが、広い日本家屋の座敷は寒いくらいで、すぐにスイッチを切ることに。
最初に参加者一人ひとりから自己紹介。市民農園等で農作業を体験しておられる方も多く、シニア向けの市民大学に携わっておられる名誉教授の方や市民科学の専門家の方など。
蔦谷栄一先生(農的社会デザイン研究所)からは、7月14日(日)に予定している「川崎平右衛門フェスタ」についても紹介して頂きました。峯岸さんもパネリストの一人として登壇される予定です。
続いて、峯岸さんからの説明(文責は中田にあります)。多くの資料を準備して下さっていました。
「株式会社corotは、『自然に寄り添う事業を通じて時代の流れを作り関わる全てにいい影響を与える』ことを理念に、昔ながらの生活を体験できる『古民家付き農園corot』、契約農家の野菜を取引先(どちらも200軒以上)に届ける『ころいち』、ころいちで仕入れた野菜がメインのイタリア料理レストラン『ナチュール』を運営。
さらに、コーディネート事業(『食べるTokyo』など)も行っている」
「もともとコーディネートやコンサルタントにはあまり興味はなかったが、現在42歳、これまでの事業をあと20年続けても天井があるのではと思うようになった。これまで培ってきたノウハウを伝え、生産者と販売者をつなぎ、川上から川下までにわたって様々な方と伴走していくことも重要と考えるようになった」
資料には「10年続く地域農業に貢献するのがコンセプト」とありますが「100年続く」が「10年続く」に赤字で訂正されています 。
このことについて峯岸さんは、
「農業の現場では高齢化が進み農地が荒廃しており、近い将来に地元の野菜が食べられなくなるのではという危機感がある。とても100年先のことなど言っていられる状況ではない」との説明。
峯岸さんの実践内容の幅広さ、さらに地域農業に対する思いの深さに、参加者一同、感じ入った様子です。
質疑応答、意見交換。
生協の役員をされている女性からの「売り先がないと困っている生産者の姿をいつも見てきた」との発言には、峯岸さんからは、「例えば個人で宅配しつつ、10軒くらいでグループ化して大手と契約するといった二段構えの対応が有効ではないか」等のアドバイス。
JA等との関係については、
「既存組織のハードルは地方ほど高く、スピード感も乏しい。いかにして人の意識を変えるかが重要で、世代交代しかないと思うこともある。しかし、コロナ禍もあったここ3~5年でだいぶ変わってきている。東京では新規就農者(Neo Farmers)もJAの組合員となり、JAのハード(集荷場や直売所)を利用させてもらっている。このような東京での実績を地方にも広げていきたい」
さらには、
「これまで農業者、農業団体、レストラン、ホテルなど、思いのある生産者や担当者(キーマン)との出会いがあって事業は拡大してきた。情報収集にはネットを活用することもあるが、直接話をすること、現場を見に行くことが基本」
「地域によって事情は全然違う。柔軟なビジネスの仕組みとすることが重要」等との発言もありました。。
参加者のお一人からは、「気軽に農業体験ができるコミュニティガーデンづくりに取り組んでいるので、今後、色々とアドバイスを頂きたい」との言葉も。
参加者からの質問なども相次ぎ、たちまち予定していた2時間を過ぎていました。
終了後、corotのなかを見学させて頂きました。
高い天井に暖かい照明。囲炉裏、かまどもあるキッチン、五右衛門ぶろ、薪の焚き口など、昔ながらの生活体験ができます。
1日1組限定で宿泊もできるそうで、数家族等のグループでの利用に適しているようです。
峯岸さんに案内して頂き、徒歩15分ほどでイタリア料理「ナチュール」へ。
以前、来ようとしたときは満席で入れず私も初めてです(地元の方は何度か利用したことがあるそうです)。
入ってすぐ右側には、野菜直売の棚。
この日の午後も打合せが入っているというご多忙な峯岸さんも、ランチをご一緒して下さり、料理や食材について説明して下さいました。
埼玉県、東京都の食材が中心で、その日の食材に合わせてメニューを決めているそうです。
冷たい狭山茶などを頂いた後、最初に出して頂いたのはズッキーニの冷製スープ。たっぷりの野菜サラダには国分寺産のエディブルフラーが添えられ、見た目も鮮やかです。
朝穫れとうもろこしとサラミなど、ピッツァが2種類。ルッコラなど野菜がふんだんに使われています。所沢産とうもろこしとリコッタクリームなど、パスタも2種。
最後にコーヒーなどを頂きました。美味、満腹、満足。
峯岸さんのお話を伺った直後だけに、食材一つひとつから産地や生産者のことが思い起こされます。さらに何と手土産にと、所沢産の白いとうもろこしを一人2本ずつ準備して下さっていました。
峯岸さんが危機感を抱いておられるように、これらの野菜が食べられなくなるとは想像したくもありません。しかし産地が存続していくかどうかは、私たち消費者の選択にかかっているのも事実です。
お店の前で解散。
帰途、5人ほどで山口民俗資料館に立ち寄ってみました。開館日は第3土曜、第1日曜と第2・第4木曜日だけとのことで、ラッキー。
多数の民具など充実した展示品を、館長さん、学芸員の方が詳しく説明して下さいました。第1日曜日には復元した所沢絣の実演や体験会も行われているそうです。
山口貯水池(狭山湖)に沈んだ勝楽寺や集落の写真等も展示されていました。
帰宅後、さっそく頂いた白いとうもろこしを、まずは生で頂いてみました。しゃきしゃきとした食感、ジューシーで爽やかな甘さです。
レンジで加熱すると、華やかな香りと甘さがさらに引き立ちます。超美味!
梅雨時にもかかわらず天候にも恵まれ、充実したものとなりました。参加して下さった皆様、有難うございました。
峯岸さんのお話は「農あるまちづくり講座」でも伺っていましたが、実際に現場を訪問してお話を伺うことができ、その実践内容の幅広さ、地域農業に対する思いの深さに、参加者一同、改めて感じ入った次第です。お陰様で胸もお腹もいっぱいになりました。
ご多忙なところ「もてなして」下さった峯岸さんに、心より感謝申し上げます。
(ご参考)
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」(月2回、登録無料)
https://www.mag2.com/m/0001579997