2024年7月6日(土)。
12時30分まで世田谷区経堂でのCSまちデザイン市民講座(食料危機・渡辺研司先生)に参加した後は、急いで文京区弥生の東京大学に移動(それにしても暑いな~。はあはあ)。
13時30分から農学部弥生講堂一条ホールで開催されていたのは、NPO中山間地域フォーラム設立18周年記念シンポジウム「人口減少下の農村ビジョンを考える~市町村消滅論を越えて」。
5分ほど遅れて入場すると、野中和雄さん(中山間地域フォーラム副会長)の挨拶が始まっていました(以下、文責は全て中田にあります)。
「改正 食料・農業・農村基本法が成立したが、農業政策と車の両輪である農村政策については課題を残した。自然環境や景観の保全、文化の伝承などの農村の重要かつ多面的役割についても明記すべきだった。来年春に改定される予定の基本計画においては、農村の未来を切り開く国民的な議論を期待したい」
続いて、図司直也先生(法政大学)による「増田レポートから10年を振り返る-地方創生と現場の反応」と題する解題。
「2014年の日本創生会議による『増田レポート』から10年、今年は人口戦略会議が新しい分析レポートを公表した。トップダウンでのレポートには上滑り感も。
都市と農村の流動性を高め(イイトコロドリ)、農村らしい総合力(まち×ひと×しごと)を発揮する道筋を描くことが必要。縮退局面にある農村の資源管理のあり方、地域づくりの主体となる現場(関心のない女子高生などを含め)へのアプローチについても議論すべき」等と、この日のシンポジウムの論点について簡潔にまとめて下さいました。
続いて、高橋博之さん((株)雨風太陽)による「令和の大生奉還」と題する基調講演。高橋さんは能登半島地震復旧復興アドバイザリーボードの委員も務めておられます。
「地域創生が言われ始めてから10年たつが、成功したと言う人は一人もいない。私の地元である岩手・花巻でも都市住民(消費)と農家(生産)の分断が進んでいる。多数となっている都市住民の多くは農村には無関心。1954年から始まった集団就職は、経済成長を目指す当時としては合理的だったかもしれないが、誰も帰ってこなかった。こんな政策をとった国はほかにない」
「都市も行き詰まりつつある現在、これまでの文脈、価値観を転換させることが必要。生きるというリアリティを再生させなければならない。文化と経済は車の両輪。生産現場とつながった食卓の豊かさを訴えていきたい」
「能登半島の被災地は、半年たってもゴーストタウン。地方の復興に財源をつぎ込むべきでないといった、13年前の東日本大震災の時にはなかった議論が公然となされている。能登の復興は日本の未来と直結している」
「集約に対抗できる理論は、自治。二流の都会を目指すのか、それとも一流の田舎に踏みとどまるのか。二地域居住の推進など、都会と田舎の交流も重要。
『令和の大生奉還』とは、生きるリアリティを暮らしの中心に据え直すこと」等と、熱く語られました。
休憩に引き続いての「現場からのレポート」では、まず、尾原浩子さん(日本農業新聞)が登壇。
『キャンペーン「この地でずっと」の報告と新旧地方消滅論の波紋』と題して、今回のレポートに対する首長やマスコミからの「日本全体の問題を自治体の問題であるかのようにすり替えている」「扇動的な言葉に負けずにやるべきことにしっかり取り組みたい」「自分たちの役割は議論を起こすことだと言わんばかりの高みに立ったやり方には違和感」等のコメントを紹介しつつ、現場から農村の未来を探る紙面キャンペーンについて説明して下さいました。
続いて横山真由美さん(山形・小国町)からは「今、小国町で動き出したこと」と題して、マルチワーク事業協同組合を設立し、現在、7名のマルチワーカーが活躍していること、女子会から始まった移住者コミュニティ(グループLINE)の立ち上げ、首都圏からの留学制度など県立高校の魅力化の推進の状況等を紹介して下さいました。
3人目は沢畑 亨さん(熊本・水俣市久木野ふるさとセンター愛林館館長)からは、「森のめぐみはタダでよかですか?」と題して以下のような報告。
「田舎の暮らしを全く知らない(河川の)下流社会(都市)の住人が日本の多数派。政治家や官僚も。『棚田の灯り』など様々な交流活動の目的は、森や棚田が持つめぐみ(外部経済)に対してお金をはらってもいい(応援したい)という世論を形成すること」
「台風など自然災害も頻発しており、大規模皆伐や獣害も問題に。地域の課題は簡単には解決しない(簡単ならだれかやっとる)。覚悟を決めて、関係人口も増やしつつ、長期的に活動していくしかない」等と報告。
なお、今年も事務局の方が、各報告についての詳しい資料を配布して下さっています。
休憩を挟んで、「人口減少下の農村ビジョンを考える」をテーマとしたパネルディスカッション。図司先生のコーディネータの下、各パネリストが発言していきます。
まず、今回のレポートの評価については、
「『消滅』などと驚かせて、そのスキに何かやろうとしているのではと勘ぐる。合併により消滅した自治体はあるが、地域が消滅することはない」(沢畑さん)、「この10年で新しいことが地域で起きていることを目にしており、違和感がある」(横山さん)、「白黒に分けて発信しているようなレポートを、恐れすぎる必要はない」(尾原さん)等のコメント。
高橋さんは「消滅という言葉にショックを受けること自体、人口増加や経済成長が望ましいという前提が変わっていない現れ」としつつ、
「集落は伊勢神宮の遷宮と同じ。祭りなどで地域の伝統文化を次世代にリレーしていく。これだけ多くの地域特産物や地域独特の景観があるのは、日本だけではないか」等の発言。
さらに高橋さんから「日本のグリーンツーリズムは、もてなし過ぎて疲れてしまっている。農村の価値を言語化して、都市に向かって発信していくことが必要」と発言したのに対して、横山さんからは「移住者の多くは、何か新しい価値観に惹かれてきたと話している」とし、尾原さんからは「移住者はむしろ簡単、短絡的に言語化しがちとの意見もある」との発言。
これらについて高橋さんから、
「本当に大事なことは言語化するのは難しいというのは分かる。しかし都会の人にどこまでひびくか、その気にさせるかが重要。言語化が不十分ということは、まだまだ伸びしろがあるということ」等と回答。
沢畑さんからは「自分もなかなか言語化はできていない。棚田の作業を楽しんでいる自分姿を、SNSも含めて他人に見てもらっている」との発言。
また、尾原さんからの「地方自治体では、広域合併等により、現場に関わる職員が減っているのでは」との発言には、横山さんから「励まされる嬉しい発言。確かに行政の現場も厳しい状況にあり、地域住民との協働による取組みを重視している」等のコメント。
この頃から東京地方は激しい雷雨になりました。雷と雨の音がホール内に響いてきます。
最後に高橋さんから、
「東京都知事選の最終日はすごい天気になった。政見放送やポスターを見ると、東京は大丈夫かと心配になっている。
人間にとって食べることは基本であり、食べものを作る農村が必要であることは明らか。しかし今後は、人が減ることは悪いことという感覚を転換させることが必要。福島県小高区(原発事故による旧避難指示区域)に最初に戻ってきた若い人は、人が少ないから新しく起業して何でもやりたいことができると言って頑張っている。人が減ることを悲観する必要はない。
仮に、住民の選択により閉じる集落が出てきたとしても、その場合は尊厳ある決断を尊重し、きちんと看取ればいい」等と話されました。
ちなみに高橋さんも、午前中にあった講座の講師・渡辺先生と、同じ日の国会での参考人質疑で意見を述べられています。
最後に、中山間地域フォーラム会長の生源寺眞一さんから、
「再び経済成長の議論が活発化している中、改めてこの国や社会のあり方を考え直すべき時期が来ている。今日の講演や報告が、いかに内容があり有意義だったかは、会場からの拍手の大きさが表していた」等の閉会挨拶。
フォーラムの新しい役員体制の紹介があり、この日のシンポジウムは終了です。
終了後は、会場前のロビーで立食の懇親会。コロナの影響で5年ぶりとのことです。
多くの方と名刺交換し、懇談させて頂きました。特に、若い方たちの地域に対する真剣かつ柔軟な思いに触れ、実践されている内容を伺うことができたことは、大きな糧となりました。
事務局の皆様(国からの助成等もなく、全くのボランティアとのこと)には、改めてお礼申し上げます。
19時過ぎに会場を出る頃には、雷雨はおさまっていました。
(ご参考)
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」(月2回、登録無料)
https://www.mag2.com/m/0001579997