◇フード・マイレージ資料室 通信 No.296◇
2024年7月20日(土)[和暦 水無月十五日]
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◆ F.M.豆知識 「高騰」する米価格
◆ O.カレント ご飯一杯の値段
◆ ほんのさわり 山下一仁『日本が飢える!』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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関東地方は梅雨も明け、二十四節気では間もなく大暑を迎えます。今年はどんな夏になるのでしょうか。米の作柄が気がかりです。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−「高騰」する米価格−
【ポイント】
米価格「高騰」等の報道が目立っていますが、過去の推移をみると現在の水準が安定的に継続するとは思えず、何より、生産コストを賄えていない状況が続いています。
7月16日に農林水産省が発表した6月の米の相対取引価格(2023年産米、全銘柄平均、速報)は、玄米60kg当たり1万5,865円となり、約11年ぶりの高値となりました。22年産米の通年平均価格と比べると約2000円(15%)上昇しています。某全国経済紙には「令和の米騒動か」などという不穏な見出しまで現れました。
価格「高騰」の背景には、高温被害により23年産米の供給量が少ないことに加え、インバウンド(訪日外国人)による外食需要の拡大があるとされています。
それでは、現在の米の価格水準はどの程度高いのでしょうか。
リンク先の図296は、米の相対取引価格と、需要量(供給純食料)、在庫量の推移を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/07/296_kome.pdf
赤い折れ線グラフをみると、米の価格は年により大きく変動していることが分かります。2012年(東日本大震災の翌年)産米は高かったものの、2014年にかけて、さらに2022年にかけても下落傾向で推移しました。
確かに現在は高い水準で推移していますが、ようやく2012年産並みに戻したというのが現実で、現在の水準が持続するかは不透明な状況にあることが分かります。もっとも、今年は新潟県等においては水不足が懸念されており、天候次第では不作となり、さらに高騰する恐れもあります。
一方、下の折れ線グラフは、在庫量(緑色)と需要量(青色)です。
米の価格は在庫水準とは負の相関がみて取れますが、需要は、価格水準とはほぼ無関係に減少傾向で推移しています。少なくともこれまでは、米の価格が下がったからといって(米が安くなったからといって)消費が増えることはなかったのです。
さらに重要なことは、現在の「高騰」している米価水準であっても、農家の生産コストを賄えていないことです。米の全算入生産費は全国平均で1万5,273円と、運賃や包装代が含まれている相対取引価格(1万5,865円)とほぼ同水準に過ぎません。
[データの出典]
農林水産省「米に関するマンスリーレポート」(資料編・価格編)、「食料需給表」から作成。
https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/mr.html
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/
(参考)
令和4年産 米生産費(個別経営体)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/noukei/nou_seisanhi/r4/kome/index.html
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−ご飯一杯の値段−
【ポイント】
ご飯一杯分の米の値段は約30円。缶コーヒー、お菓子、カップ麺等と比べても非常に安いものとなっています。
先日、小農学会事務局の佐藤弘さんが興味深いポスターを送って下さいました。以前に元九州大学助教の佐藤剛史先生と一緒に作られたものだそうです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/07/gohan_ippai-scaled.jpg
A4版の黒を基調としたポスターの中央には、湯気の出ている一杯のご飯の写真。右側には「ご飯一杯の値段」というロゴがあり、「5kg=2000円として1kg=400円、茶碗一杯約30円」との説明。上下には、缶コーヒー1/3本、チョコボール4個、カップ麺5分の1杯、コンビニおにぎり1/4かけら等の写真が並んでいます。これらはいずれもご飯一杯分の値段に相当する量です。
そして左側には、「あなたは何を食べますか」とのメッセージ。
いかにご飯(お米)の値段が安いかを、消費者に分かりやすく直感的に訴えるスグレモノのポスターです。なお、この計算によると、現在の「高騰」も一杯当たり2〜3円の値上がりに過ぎなくなります。
ちなみに食品以外と比較しても、例えば家計における米に対する支出額はインターネット接続料の1/7程度というデータもあります。
米の消費量が減少を続ける一方、インフレ下で消費者の食品に対する価格志向が高まるなか、このポスターをみて米の消費を増やそうと思う消費者が出てくることを期待したいところです。
しかし問題は、「豆知識」欄でみたように、消費者の「米離れ」は基本的に価格とは無関係であるということです。その一方で、生産者にとってはコスト割れとなっており、国内で自給可能な米の生産に深刻な影響が出てくる恐れがあります。
消費者には選択してもらえやすい価格で供給しつつ、米生産農家には経営を継続できる所得を確保していくという相反する困難な課題に、取り組んでいかなければなりません。
[参考]小農学会
https://shounou-gakkai.com/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−山下一仁『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(2022/7、幻冬舎新書)−
https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344986626/
【ポイント】
減反廃止により規模拡大とコスト削減を進め、輸出を促進し、米価下落の影響を受ける生産者には直接支払いを行うべきと主張しています。
著者は1955年岡山県生まれ。東京大学法学部卒業後、農林省入省。ガット室長、地域振興課長、農村振興局次長、経済産業研究所上席研究員等を経てキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
刺激的なタイトルの論拠は、餓死者が出た終戦時に比べて人口は1.7倍に増えているにもかかわらず、米の生産量は4分の3に減少していることにあるようです。仮に軍事紛争により輸送ルートが途絶した場合、現在の米の供給可能量からみて約6000万人が餓死することになるとしているのです。カロリー供給源は米しかないという極端な前提での試算ですが、消費者に警鐘を鳴らすという意味では有意義です。
また、食料供給は国家安全保障の要であるにもかかわらず、主食の生産を減少させること(減反)に財政資金を投入している国は日本だけと、強く批判しています。
減反によって高米価が維持されているため規模拡大が進まず、日本農業の保護水準も諸外国に比べて非常に高くなっているとのこと。なお、この論拠としているPSE(生産者支持推定量)という指標は内外価格差から計算されますが、品質格差や消費者の国産志向が反映されていないとの指摘もあります。
著者は、減反を廃止することで規模拡大と生産コストの削減が進み、米の本格的な輸出も可能になるとしています。輸出は農地など農業資源の確保につながり、食料危機対策にもなるとのこと。
そして、米価下落の影響を受ける農家には、「担い手」に限定して直接支払いをすべきと主張しています。現在の減反補助金よりも少ない財政負担で実現できるそうです。
これが、低米価と所得補償を両立させる著者の処方箋です。「担い手」の範囲等については議論があるところですが、注目されるアイディアです。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 絵空事ではない日本の食料危機(CS市民講座・渡辺研司先生)[7/8]
https://food-mileage.jp/2024/07/08/blog-519/
○ 人口減少下の農村ビジョンを考える(中山間地域フォーラム シンポジウム)[7/9]
https://food-mileage.jp/2024/07/09/blog-520/
○ 堀内ゼミ(3)シェア奥沢開設11周年スペシャル[7/14]
https://food-mileage.jp/2024/07/14/blog-521/
○ 2024年の同窓会(駿府ぶらり散歩)[7/18、20]
https://food-mileage.jp/2024/07/18/blog-522/
https://food-mileage.jp/2024/07/20/blog-523/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ おいしい未来をつくる読書会 #1
課題本:ジェシカ・ファンゾ『食卓から地球を変える』
日時:7月21日(日)20:00〜21:30
場所:オンライン
主催:おいしい未来をつくる読書会
(詳細、問合せ等↓)
https://foodsystems4peace-1.peatix.com/
○ 青木美希さんを囲んで−なぜ日本は原発を止められないのか?
日時:7月27日(日)13:30〜16:30
場所:東京・小平市げんき村おがわ東
主催:さよなら原発オール小平をめざす会
(詳細、問合せ等↓)
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/07/240727_aoki.jpg
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
アメリカ大統領選もあり、ウクライナとパレスチナの情勢はますます不透明に。一日も早い停戦を。五輪どころではないのでは。
過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.297は8月4日(日)[和暦 文月朔日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信等に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今年は北斎手帳)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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