【ほんのさわり】山下一仁『日本が飢える』

−山下一仁『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(2022/7、幻冬舎新書)−
 https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344986626/

【ポイント】
 減反廃止により規模拡大とコスト削減を進め、輸出を促進し、米価下落の影響を受ける生産者には直接支払いを行うべきと主張しています。

著者は1955年岡山県生まれ。東京大学法学部卒業後、農林省入省。ガット室長、地域振興課長、農村振興局次長、経済産業研究所上席研究員等を経てキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。

刺激的なタイトルの論拠は、餓死者が出た終戦時に比べて人口は1.7倍に増えているにもかかわらず、米の生産量は4分の3に減少していることにあるようです。仮に軍事紛争により輸送ルートが途絶した場合、現在の米の供給可能量からみて約6000万人が餓死することになるとしているのです。カロリー供給源は米しかないという極端な前提での試算ですが、消費者に警鐘を鳴らすという意味では有意義です。

また、食料供給は国家安全保障の要であるにもかかわらず、主食の生産を減少させること(減反)に財政資金を投入している国は日本だけと、強く批判しています。
 減反によって高米価が維持されているため規模拡大が進まず、日本農業の保護水準も諸外国に比べて非常に高くなっているとのこと。なお、この論拠としているPSE(生産者支持推定量)という指標は内外価格差から計算されますが、品質格差や消費者の国産志向が反映されていないとの指摘もあります。

著者は、減反を廃止することで規模拡大と生産コストの削減が進み、米の本格的な輸出も可能になるとしています。輸出は農地など農業資源の確保につながり、食料危機対策にもなるとのこと。
 そして、米価下落の影響を受ける農家には、「担い手」に限定して直接支払いをすべきと主張しています。現在の減反補助金よりも少ない財政負担で実現できるそうです。
 これが、低米価と所得補償を両立させる著者の処方箋です。「担い手」の範囲等については議論があるところですが、注目されるアイディアです。

出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
  No.296、2024年7月20日(土)[和暦 水無月十五日]
  https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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