【メルマガ】F.M.Letter No.298-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.298◇
  2024年8月18日(日)[和暦 文月十五日]
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◆ F.M.豆知識  食料自給率の目標と米の消費量
◆ O.カレント  2023年度の食料自給率
◆ ほんのさわり 末松広行『日本の食料安全保障』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 「八月や、六日 九日 十五日」。鎮魂の8月も半ばを過ぎました。食は平和の前提条件です。
 食料自給率の目標を含む基本計画の策定作業が本格的に始まるのを前に、今号では食料自給率を特集しました。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−食料自給率の目標と米の消費量−

【ポイント】
 過去5回の基本計画における食料自給率の目標は、一度も達成されたことはありません。その主な原因は、想定していた以上に米の消費量が減少したことにあります。

本年6月の食料・農業・農村基本法の改正を受けて、年度内に新たな食料・農業・農村基本計画が策定されることとなっており、近く審議会における検討作業も開始されます。
 基本計画は過去5回、5年ごとに策定(閣議決定)されてきており、法の規定に基いて、毎回、10年後の食料自給率(カロリーベース及び生産額ベース)の目標が設定されています。しかしながら、特にカロリーベースの自給率については、これまで目標を下回る水準のままで推移してきています。

リンク先の図298の上半分の折れ線グラフは、1960年以降のカロリー(供給熱量)ベースの食料自給率の推移を示したものに、過去5回の自給率の目標値をプロットしたものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/08/298_mokuhyo.pdf

これによると、過去5回の基本計画では45%(4回)、50%(1回)という目標を設定したものの、現実の自給率はやや低下傾向ないし横ばいで推移してきており、目標を達成するどころか、目標に向かって反転・上昇する兆しさえ見られません。
 このことについては、農林水産省に対して、目標が達成されなかったことの要因分析や検証を(さらには反省も)行っていないとの批判があります。

下半分の棒グラフは、米の国民1人・1年当たり消費量(供給純食料)の推移を示しています。一見したとおり、低下する自給率のグラフと極めて似たかたちになっています。つまり、米の消費量の減少と軌を一にして食料自給率も低下してきたのです。
 濃い赤で示したのが、それぞれの基本計画策定時に想定した10年後の米の消費量です。自給率目標の設定のためには、消費量(分母)と国内生産量(分子)のそれぞれを見通す必要がありますが、米の消費量については、栄養バランス(現状は脂質の摂取過多)を配慮して健康面からも望ましい姿として、現状からあまり減少しないと想定していたのです。
 ところが現実の10年後の米消費量は、それぞれの時点の想定を大きく下回ってしまいました。このことが、自給率目標が達成できなかった(上昇にも転じていない)最大の要因なのです。
 むろん、見通しが甘かった、食生活改善など食育の取組みが不十分だった等の「反省」すべき点はありますが、いずれにしても、食料自給率は、私たち一人ひとりが米を食べる量次第というのが現実です。

 このような状況の中で、審議会における新たな基本計画の検討・策定作業が開始されます。審議会の資料(目標が達成されなかったことについての検証結果も含めて)や議事概要はHPで公開され、パブリックコメントや地方説明会も予想されます。

なお、一部に「農林水産省は食料自給率の目標設定を放棄した」といった言説がありますが、これは、法の条文さえ読んでいない、無責任で、悪意さえ感じられるものと言わざるを得ません。なお、今回は、食料自給率では評価できない課題(例えば肥料原料の輸入状況)についての目標の設定についても、あわせて議論されることとなっています。
 ぜひ多くの方には、正確な情報を基に、自給率など食べものことを「自分ゴト」として捉え、できるところから実践に移していって頂きたいと思います。
 
[データの出典]
農林水産省「食料需給表」、「食料・農業・農村基本計画」から作成。
 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/
 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−2023年度の食料自給率−

【ポイント】
 2023年度の食料自給率は、カロリーベースについては前年並みの38%、生産額ベースについては3ポイント上昇し61%となりました。

農林水産省「令和5年度食料自給率・食料自給力指標について」より。

去る8月8日、農林水産省は2023(平成5)年度の食料自給率を公表しました。
 カロリーベースについては、小麦の生産量増加や油脂類の消費量減少がプラス要因となる一方で、てん菜の糖度低下による国産原料の製糖量減少がマイナス要因となり、前年度並みの38%となりました。
 生産額ベースについては、国際的な穀物価格が落ち着いたことから輸入総額が減少したため、前年度から3ポイント上昇し61%となりました。

このように食料自給率については、分母(総供給カロリー)、分子(国産カロリー)ともに、その年度の気候条件や国際市況により変動するものであることから、毎年の数ポイントの差について一喜一憂する性格のものではありません。しかし、特にカロリーベース自給率については、閣議決定された基本計画で定められている目標に比べて相当低い水準で推移しており、反転・上昇する兆しさえ見えないことについては、深刻に受け止める必要があります。
 なお、今回も諸外国との比較がなされており、カロリーベース自給率(38%)はアメリカ(104%)、フランス(121%)、イギリス(58%)等と比べても低い水準にあることが明らかとなっています。また、東京都のカロリーベース自給率は、前年度と同じ0%(生産額ベースでは2%)となっています。

[参考]
 令和5年度食料自給率・食料自給力指標について(2024年8月8日農水省プレスリリース)
 https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/240808.html

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−末松広行『日本の食料安全保障−食料安保政策の中心にいた元事務次官が伝えたいこと』(2023/4、育鵬社)−
 https://ikuhosha.co.jp/book/ikh093143.html

【ポイント】
 食料安全保障施策の「現場」にいた元農水省行政官が、消費者を含む関係者に向けて忌憚のない意見(私見)を述べるとともに、傾聴すべき提言を行っています。

著者は1959年埼玉県生まれ。2008年に新設された農林水産省・食料安全保障課の初代課長、後には農林水産事務次官を歴任するなど、まさに日本の食料安全保障施策の立案と運用の「現場」の中心にいた元行政官です。
 本書では、その経験を踏まえて、日本の食料安全保障について忌憚のない意見(私見)が述べられています。

食料安全保障に関する議論については、著者はまず「危機をあおり過ぎること」も「そこにある危機を見ないふりをすること」も良くないという、バランスあるスタンスをとります。
 その上で、現在も多くの学者や評論家、マスコミ等によって行われている様々な議論や主張については、「極端な比喩や単純な一つの見方で極端な主張をする論者が相変わらず多い」とし、内容についても「財源をどうするのか」「ただお金を配って農業関係者は喜ぶのか」「独断的に政策を実施することがいいのか」等の疑問があるとのこと。ちなみに「農水省が予算を拡大するために食料自給率のことを言い出した」との主張については、省内では聞いたことも議論したこともないと証言しています。
 一方で、「行政から離れた目で大局的な観点から厳しい指摘ができない」という自らの弱点の可能性についても、正直に吐露しています。

基本法の制定時点(1998年)においては、食料自給率を政策目標とすることについて賛否両論があったことも紹介されています。
 反対意見の主なものは、行政が国民の食生活に積極的に介入・コントロールすることはできない(すべきでない)というものでした。それが最終的には「自給率とは関係者のそれぞれが問題意識を持って主体的に取り組んだことの成果」であるとし、「国民参加型の生産・消費の指針としては意義がある」と整理され、法に位置付けられたのです。
 つまり、もともと食料自給率の目標とは、「上から」政策的に達成できるものではなく、消費者を含む関係者の主体的な努力と実践が前提となっているのです。

また、食料自給率が下がってきた最大の要因は米の消費が減ってきたからであるとし、日本の水田を守ることが食料安全保障の「要になる」としています。さらに、確保しなければならないカロリーを分母として固定する「必要カロリーベース自給率」という指標の導入を提案しています。
 「しょせんは農水省の元役人が書いたもの」といった色眼鏡を通してみる人もいるかもしれませんが、食べものや食料自給率について関心のある多くの方に読んで頂きたい本です。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 霞ヶ関ばたけ(LURAの会)、東久留米市「エコキッズ」報告会など[8/5]
 https://food-mileage.jp/2024/08/05/blog-526/

○ 2024年夏の新潟のお米[8/15]
 https://food-mileage.jp/2024/08/15/blog-527/

○ 高い生産力と低い生産性[8/17]
 https://food-mileage.jp/2024/08/17/blog-528/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ おいしい未来をつくる読書会 #2
  課題本:アリス・ウォータース『スローフード宣言』
 日時:8月25日(日)20:00〜21:30
 場所:オンライン
 主催:おいしい未来をつくる読書会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://foodsystems4peace-2.peatix.com/

○ 地域自給を考える 里山暮らし体験ツアーin長野県伊那市
 日時:9月7日(土)〜8日(日)
 場所:長野・茅野市
 主催:LURAの会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://note.com/haru_agri/n/n68104a3c6a3d

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 パリ五輪が終了。ウクライナやパレスチナの選手団の健闘に胸が熱くなりました。
過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.299は9月3日(日)[和暦 葉月朔日]に配信予定です。いよいよ節目の300号が近づいてきました(パーティーでもやるかな)。
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F. M. Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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