◇フード・マイレージ資料室 通信 No.299◇
2024年9月3日(火)[和暦 葉月朔日]
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◆ F.M.豆知識 属性別にみた「共食」のメリット
◆ O.カレント 「同じ釜の飯を食う」とオキシトシン
◆ ほんのさわり 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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今日は八朔(はっさく)、豊作を祈願する祭りが各地で行われます。早稲の収穫が始まり米の需給は緩和されてくると思われますが、引き続き台風の進路等を注視していく必要があります。今号は「共食」に注目してみました。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
−属性別にみた「共食」のメリット−
【ポイント】
共食には様々なメリットがありますが、どれを重視するかは居住地、男女、年齢層によって様々です。
「共食」(きょうしょく)とは、自宅・外食を問わず、家族や友人、職場の人や地域の人など誰かと一緒に食事をすることです。ちなみに、一人で食事をすることは「孤食」(こしょく)と呼びます。
内閣府「食生活に関する世論調査」(2020年9月調査)によると、共食のどのような点をメリットとして感じているかを聞いたところ、全体で「会話やコミュニケーションが増えること」をあげた者の割合が84.2%と最も高く、「食事が美味しく、楽しく感じられること」(73.0%)、「知識・話題が増えること」(37.8%)、「ストレス解消に繋がること」(33.1%)等をあげる者の割合が多くなっています(複数回答、上位4項目)。
リンク先の図299は、この共食のメリットについて、全国平均を100とした場合の属性ごとの特化係数を図示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/09/299_kyoshoku.pdf
これによると、東京都区部では「一人当たりの食費が安くなること」「ストレス解消につながること」と回答した者が相対的に多い一方、「メリットを感じていない」者も多くなっています。
一方、小都市・町村では「メリットを感じていない」とする者は相対的に少なくなっています。
男女別にみると、女性では「栄養バランスの良い食事がとれること」「規則正しい生活のリズムが整うこと」「食事マナーや日本の食文化を学べること」について相対的に多くがメリットと感じている一方、男性は「メリットを感じていない」とする者が多くなっています。家庭での共食については女性が担っている場合が多いと思われ、様々なメリットも感じているのに対して、家庭での食事に対する男性の意識の低さが垣間見えるようです。
年齢階層別にみると、30〜39歳層では「栄養バランスの良い食事がとれること」「規則正しい生活のリズムが整うこと」をあげる者が多く、子育ての面からの共食の意義を見出しているものと考えられる一方、「一人当たりの食費が安くなること」も多くなっています。これらに対して70歳以上層では「友人・知人が増えること」と回答した者が相対的に多くなっています。
このように「共食」については多くのメリットがあると認識されていますが、そのどれを重視しているかは属性(居住地域、性、年齢層)によって大きく異なっていることが分かります。
[データの出典]
内閣府「食生活に関する世論調査」(2020年9月調査)から作成。
https://survey.gov-online.go.jp/r02/r02-shokuseikatsu/
◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
−「同じ釜の飯を食う」とオキシトシン−
【ポイント】
共食のメリットは「同じ釜の飯を食う」という慣用句でも示されています。共食するとオキシトシンというホルモンの分泌が促進されるという研究もあります。
「同じ釜の飯を食う」(あるいは「一つ窯の飯を食べる」等)という慣用句があります。これは文字通り「共食」のことですが、転じて、同じ職場やサークルで苦楽を共にして親しくなった仲間のことを表す言葉となっています。
先にみたように共食には様々なメリットがあるとされますが、そのメリットを生み出すメカニズムに関連して、共食は、孤食よりもオキシトシン(別名「幸せホルモン」「絆ホルモン」)の分泌が促進されるという研究があります。親子、夫婦、仲間がともに生活し、触れ合い、食事することによって、オキシトシンが分泌されて絆がより深まるというのです。
また、共食は、サルには見られないヒト独特の文化でもあるそうです。
共食の様々なメリットの背景には、このような生物学的なメカニズムがあると考えられます。
ちなみに余談ながら、自民党の派閥の団結力を示す言葉として「一致団結、箱弁当」という言葉があります。派閥の多くは解散されたことになっていますが、果たして永田町の「箱弁当」は存続するのでしょうか。
[参考]
山口 創教授(桜美林大学リベラルアーツ学群)インタビュー記事
https://future.hitachi-solutions.co.jp/series/fea_idomuhito/42/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
−高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(2022/3、講談社)−
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000363638
【ポイント】
職場という狭い空間の中での微妙で不穏な人間関係が、「食べること」を仲立ちにして描かれています。
著者は1988年愛媛県生まれ、本書で第167回(2022年上半期)芥川賞を受賞しました。
舞台は、埼玉県にあるデザイン広告会社の支店。
昼休みの10分前に支店長が突然、「おれが車を出すから、みんなで蕎麦を食いに行くぞ」と宣言。「飯はみんなで食った方がうまい」が支店長の口ぐせですが、しぶしぶ付き合わされる社員にとっては何ともストレスのたまる「共食」です。冷蔵庫の中には、誰かが買っておいたコンビニ弁当が2つ残されていました。
後半では「宴会で職場の人たちとみんなで食べるものって、だいたいまずく感じる」といったセリフも出てきます。
マイペースながら仕事はできる独身男性社員・二谷は、面倒だが食べないと死ぬから食べているだけ、というカップ麺の愛好家。「ちゃんとした飯を食えと言われるのは、おれにとっては攻撃」とさえ、内心、思っています。
かわいくて料理好きだが仕事はできない同僚の芦川さんとは、結婚してもいいと思いながら半同棲。同時に、芦川さんにムカついている仕事ができる押尾さんとも親密に付き合っています。
自宅マンションで芦川さんが作ってくれる手料理についても「仕事から帰ってきて1時間も時間をかけて、15分でなくなってしまう」「コンビニで弁当を買うよりゴミが出る」と冷ややかに思っています。しかも、芦川さんが会社でみんなに配ってくれる手作りケーキはこっそり捨てているという、とんでもない奴です。
ある日の朝、芦川さんの机の上に、二谷がゴミ箱に捨てたはずのケーキが置かれていたことから、職場には一気に不穏な空気が漂います。結局、二谷は転勤、押尾さんは退職することに。
最後に二人で行った居酒屋で、押尾さんは「おいしいことを人と共有するのはしんどい。力強く生きていくためには、みんなで食べるごはんがおいしいって感じる能力は必要じゃない気がして」と語ります。
職場という狭い空間の中での、上司と部下、正社員とパート、男女といった、微妙で不穏な人間関係。そのいずれにも「食べること」が密接に介在しています。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 2024年 お盆明けの靖国神社[8/27]
https://food-mileage.jp/2024/08/27/blog-529/
○ 菊池ゼミ主催「学生が生産者を応援する会」第2弾[8/31]
https://food-mileage.jp/2024/08/31/blog-530/
○ 都市農業/農地の重要な役割−東京都農業委員会 職員研究会[9/2]
https://food-mileage.jp/2024/09/02/blog-531/
▼ 筆者が主催するイベントです。
○ 人も環境も地球も救う菌ちゃん農法〜現地見学会及び吉田俊道さん講演会〜
【注:9/8に満席御礼】
日時:9月24日(火)13:00〜16:50
場所:せせらぎ農園及び落川交流センター(東京・日野市)
定員:30名
主催:NPO市民科学研究会、食と農の市民談話会
(詳細、問合せ等は、追って市民研HPに掲載される予定です。)
https://www.shiminkagaku.org/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
○ 第107回 奥沢ブッククラブ−上間陽子『海をあげる』
日時:9月9日(日)19:00〜21:00
場所:オンライン
主催:奥沢ブッククラブ
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/1703789250389846
○ 第9回 東京イナゴンピック
日時:9月15日(火)9:30〜12:30
場所:せせらぎ農園(東京・日野市)
主催:NPO昆虫食普及ネットワーク等
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/photo/?fbid=8445574842142091
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
パリパラリンピックの熱戦が続いています。その陰でウクライナとパレスチナは・・・。
過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.300は9月17日(火)[和暦 葉月十五日]に配信予定です。2012年10月30日の創刊以来約12年で、節目の300号を迎えます。
正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』(今年は北斎手帳)を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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