月1回、ここ数年は基本的にオンラインで開催されている奥沢ブッククラブ。
2024年9月9日(月、重陽の日)19時から開催された第107回の課題本は、上間陽子さんの『海をあげる』です。
どなたでも自由に参加できる読書会ですが、この日は6名の常連メンバーのみ。
ちなみに以前に進行に混乱があったことから、前回から持ち回りで進行役を決めて行うことになっており、今回はこの日の課題本を提案した私が進行役を務めることとなりました。
前半は恒例どおり、おススメ本の紹介。
URさんからは浅田次郎『母の待つ里』。今後、ありうるサービスかなと。
あまり本を読まないからと謙虚なHさんからはストーカー『吸血鬼』。本を読まない人がおススメする本とは思えません。
UGさんからは塩田武士『存在の全てを』。今年一番感激した本と強いおススメです。
SKさんからは、しんめいP『教養としての東洋哲学』。さらに向田邦子『だいこんの花』は昭和時代のファミリーの様子が描かれている好著とのこと。
STさんのおススメは金井真紀『テヘランのすてきな女』。
前回、STさんがおススメしたガザ関係の本を読んだURさんは「自分は何も知らないことが分かった。平和な日本でこうしていていいのかと疑問に思った」との感想。別の中東関係の別の本を読んだSKさんも「日本では報道されていない事実がたくさんあることを知った」とのコメント。
さらに、前回Hさんがおススメした江國香織『神様のボート』は何人かが(私も)読んだようで、これについての感想も交換。読者に解釈を求める結論部分については、賛否両論がありました。
後半は課題本の『海をあげる』について。
まず(ブッククラブではあまり行ったことはないのですが)、中田から推薦した理由や思いについて、短いプレゼンをさせて頂きました。
本書を手に取った時は、変なタイトルだと思ったこと。いったい著者は、どこの海を誰にあげようと言っているのか。
上間さんのプロフィールについて、教育学者として調査研究に携わっているだけではなく、若年ママの出産・子育ての応援シェルター「おにわ」を運営されるなど、社会的な実践家でもあると紹介させて頂きました。
課題本については、各章のなかで特に印象に残ったフレーズを紹介。
そして最終章、タイトルと同じ『海をあげる』。
「青い珊瑚礁の海を、私は静かな部屋でこれを読んでいるあなたにあげる。この海をひとりで抱えることはもうできない。だからあなたに、海をあげる」
痛切な言葉が、ストレートに読者の心を打ちます。
2020年に沖縄に個人旅行した際に訪ねた普天間、嘉手納、辺野古の写真も紹介。
そしてつい先日、辺野古で本格的な工事が着工されたという報道があったことについて、上間さんが『海をあげる』を執筆した2020年時点よりも現状はさらに深刻化しているのではないかと説明しました。
最後に、上間さんからブッククラブに頂いたメッセージを読み上げさせて頂きました。
実は最初にこの本を読んだ後、何の面識もない上間さんに感想とともに何かサポートできることはないかとメッセージをお送りしたところ、当時は準備中だった「おにわ」への寄付金の振込先とともに丁寧な返信を頂いたという経緯がありました。
それに味を占めて、今回も全く不躾なことに、読書会で取り上げさせて頂くことを報告しつつ、可能であればメッセージを寄せて頂けないかとお願いしたのに応えて下さったのです。
お忙しいなか、本当にありがとうございました。
これらを受けて、参加者の間で意見交換、感想等のシェア。
課題本に取り上げることが決まって、一晩で読み上げたというSKさん。
「先日、いじめ・虐待防止がテーマのフォーラムに参加した。本書でも、貧しさから人生楽しむことができない子どもたちがたくさんいるという現実を知り、つらくなった」との感想。
かなり以前に読んでいたというHさんは、「何も響かない」「ひとりで生きる」の章が特に印象的だったとのこと。
URさんは
「先に『裸足で逃げる』を読んでショックを受けた。悲痛な話を本人から聞き取り、文字にして私たちに伝えてくれる著者は、本当にタフな方だとも思う。
『海をあげる』は1回読んだだけでは十分に消化できなかったが、2回読んで実感が持てた。沖縄のニュースもテレビで1分ほど流され、単純に「ああそうなんだ」としか受け止めていなかったが、その裏側にある問題の大きさに愕然とした。
私たちが関わらず、何も知らないところで色んなことが決められ、進められている。日本は民主主義のはずなのに」との発言。
休館になった地元の図書館を再開させる運動に携わっておられるURさんの、実体験に基づいた感想のようです。
UGさんからは
「沖縄の貧困や基地の現状をみるにつけて、いったい沖縄の政治家は何をやっているんだと怒りを感じる。一方で、地政的にみても沖縄から基地を一切なくすことは困難と思われ、現実を受け入れた上で貧困を無くすために何ができるかを考えるべきではないか」との意見。
一方、50年来の沖縄出身の友人がおられるそうで、「この本を読んで友人と話し合う話題が一つ増えた」と喜んでおられました。
STさんからは
「NHKの朝ドラで原爆裁判が取り上げられている。被爆者、水俣病、沖縄、さらにはパレスチナなどについては共通する点が多いのではないか。私たちは知らないことが多い。知ることしかできないが」との発言。
また、ネットで対談番組を視聴した時、上間さんの可愛い声に驚いたとのコメントも。
中田からは、
「知ることしかできないということは、逆に言えば知ることは自らできると言うこと。沖縄の問題についても私自身は十分な知識はないし、何ができるか皆目分からず、無力感にさいなまれることも多い。それでも、この本(『海をあげる』)はぜひ、多くの人に読んでもらえるように、これからも推薦していきたいと思っている。
今日はこの本を取り上げ、皆さんと意見交換する機会を頂いたことに感謝している」とお礼を申し上げました。
次回(10月)の課題本は、これまであまり推薦されていなかったSTさんからの、宮本常一『忘れられた日本人』に決定。
最後は、これも恒例のURさんよる絵本の朗読。
この日取り上げて下さったのは、上間さんが「あとがき」で紹介されている『海をあげるよ』(作:山下明生、絵:村上勉)。
お気に入りの青いバスタオルが飛ばされて森に探しに行った男の子、カエルたちが「うみだ」と喜んでいる様子をみて「きみたちにあげるよ」と去ります。
上間さんは、あとがきで「私たちは自分の大事にしているよきものを、自分より小さなものに渡します」と記されています。「私もまた、いつか娘に海を渡すのでしょう。そこに絶望が織り込まれていないことを願っています」とも。
(ご参考)
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」(月2回、無料)
https://www.mag2.com/m/0001579997