【メルマガ】F.M.Letter No.300-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.300◇
  2024年9月17日(火)[和暦 葉月十五日]
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◆ F.M.豆知識  農林水産業総生産の国際比較
◆ O.カレント  審議会でも開始された次期基本計画についての議論
◆ ほんのさわり 小倉武一『誰がための食料生産か』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 中秋の名月の本日、2012年10月の創刊以来、節目の300号を配信させて頂きます。読者の皆様に心より感謝申し上げます。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)に配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

−農林水産業総生産の国際比較−

【ポイント】
 日本の農林水産業の総生産は、先進国の中ではアメリカに次いで2位ですが、為替レートの影響もあり、他国と異なり一貫して減少しています。一人ひとりが将来の農業や食料供給のあり方について考えていく必要があります。

日本における農林水産業の地位について、国際的な比較を試みました。
 リンク先の図300は、国際連合の統計を用いて、主な先進国(G7各国及びオーストラリア、韓国、オランダ)の農林水産業の総生産(付加価値ベース)と、GDP(国内総生産)に占めるシェアの推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/09/300_GDP.pdf

これによると、日本の農林水産業の総生産は約391億ドルとアメリカに次ぐ2位となっており、金額ベースでは日本は依然として先進国のなかでは「農業大国」であると言えます。
 しかしながら、為替レートの影響があるとはいえ(2020年107.8円/ドル→22年:131.5円/ドル)、日本のみ減少傾向で推移していることが分かります。
 ちなみに途上国を含むすべての国のなかでの日本の順位をみると、2000年の時点では5位(上位は中国、インド、アメリカ、インドネシア)だったのが、22年には16位に落ちています。
 なお、日本の農業の総生産は、円ベースでみても、最近の資材価格(コスト)の高騰もあり減少しています。
 一方、GDPに占める農林水産業の割合は日本では1%程度ですが、これはアメリカ、ドイツ、イギリス等とほぼ同水準です。ちなみにアメリカ等において一次産業は1%に過ぎないから重要ではないといった議論がなされているとは、寡聞にして聞いたことがありません。

農業のあり方や食料の供給力については、経済面だけではなく、その国の人口や国土、気象条件にも規定されます。日本は、欧米に比べて高い植物生産力を有していることも知られています。
 次の「オーシャン・カレント」欄でも紹介しているとおり、審議会では次期の基本計画の議論が始まっています。将来の農業や食料供給のあり方については、私たち消費者を含めて広く全員で議論し、決定していく必要があります。自分たちのための食料生産なのですから。

[データの出典]
 国際連合“National Accounts – Analysis of Main Aggregates (AMA)”を用いて作成。
 https://unstats.un.org/unsd/snaama/Index

◆ オーシャン・カレント−潮目を変える−
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

−審議会でも開始された次期基本計画についての議論−

【ポイント】
 国の食料・農業・農村政策審議会で、次期の食料・農業・農村基本計画についての議論が始まっています。

農林水産省HPより

食料・農業・農村政策審議会とは、食料・農業・農村に関する重要事項について調査審議する機関として、食料・農業・農村基本法(改正後の法では第52条)に基づいて設置されている審議会です(「農政審」と略して呼ばれることもあります)。学識経験者、各種団体(生産、流通、消費等)、マスコミ等の代表22名の委員から構成され、現在の会長は大橋 弘 東京大学副学長です。
 去る8月29日(木)、企画部会と合同で開催された第46回審議会では、次期基本計画の策定(法文上は現行計画の変更)についての諮問が行われました。事務局(農林水産省)からは食料安全保障をめぐる情勢について包括的な説明が行われ、委員から意見の開陳がありました。また、9月後半以降月2回程度の頻度で企画部会を開催し、地方意見交換会等を経て、明年3月には答申・閣議決定されるというスケジュールについても了承されています。

当日の審議の中では、中嶋康博会長代理(企画部会長)から「改正基本法では消費者の役割は大幅に拡大したと認識。消費者に自分事として取り組んでもらえるような内容にしたい」との発言がありました。
 審議会における資料や議事概要は、随時、農林水産省HPに掲載されますので、一般消費者の方を含め、広く多くの方に、関心のある項目だけでも目を通して頂きたいと思います。

[参考]
 農林水産省HP「食料・農業・農村政策審議会」のページ
 https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

−小倉武一『誰がための食料生産か』(1987年10月、家の光協会)−
 https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN01427367

【ポイント】
 戦後日本の農政、経済政策の中枢を担った著者が40年近く前に提起している問題の多くが、そのまま現在にも通じる(解決されていない)ことに驚かされます。

300号の節目にふさわしい本がないか探していたところ、本棚の奥から出てきたのが本書です。農林水産省に入省してから間もない頃に読んだ本の一冊で、何重にも多くの線が乱雑に引かれています。

著者の小倉武一(おぐら・たけかず)氏は1910年福井県生まれ。東京帝国大学を卒業後農林省に入省し、農政課長(農地改革を担当)、食糧庁長官、農林事務次官等を歴任。退官後は農政審議会会長、政府税制調査会長、日本銀行政策委員等を務め、2002年に91歳で死去されました。正に戦後の農政、経済政策の中枢を担った方です。

冒頭の序文(「無名の食料素材産業関係者のある声明」)に、著者の問題意識が端的に記されています。
 すなわち「われわれの任務は国民を養う(食料を供給する)ことであるにもかかわらず、十分にその任務を果たしているとは言えない。なぜなら必要な食料の約半分しか供給できていない。供給力の維持と増強が肝要」としています。
 また、農業、食料産業の基本的特質はその国の歴史的・自然的条件に左右され、特に人口と国土の大きさが与件となっていることであるとし、世界の人口の1%を超える国のなかで日本ほど食料供給力が極端に低い国は他にはないと危機感を露わにしています。
 この危機は「貿易立国とか平和国家という念仏でもって克服できるものではな」く、議論自体されていないことについては「国民全体が間が抜けているとしかいいようがない」と苦言を呈しています。
 また、食料の確保は国民が自らやらなければならないというのが基本で、「誰だれかがやってくれると思ったら大間違い」ともしています。

一方、米の生産調整は早急にやめるべきとしつつ、需要と供給を均衡させるためには米価は大幅引き下げ、輸出ができるくらいまでは生産性を上げていく必要があるとし、そのうえで中山間地域等には特別の所得補償政策を講ずべきとしています。
 協同化や、有事は農地に転用可能な都市緑地の重要性への言及もあります。

さらには、農業にとって必要なのは「土地の改良」ではなく、役人や農業関係者の「頭の改良」である、農家数が減少すれば自然に規模拡大するというのは政策とは言えず小学生の算数でしかない、といった辛らつな言葉もあります。

 改めて再読し、40年近く前に提起されている論点の多くが、そのまま現在にも通じる(解決されていない)ことに驚かされました。
 あいにく本書は絶版となっているようですが、図書館等で手に取って頂くことをお勧めします。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ キビの収穫とソバの土寄せ(さいはら)[9/10]
 https://food-mileage.jp/2024/09/10/blog-532/

○ 第107回 奥沢ブッククラブ『海をあげる』[9/16]
 https://food-mileage.jp/2024/09/16/blog-533/

▼ 筆者が主催するイベントです。
○ 【満員御礼】
 人も環境も地球も救う菌ちゃん農法〜現地見学会及び吉田俊道さん講演会〜
 日時:9/24(火)9月24日(火)13:00〜16:50
 場所:せせらぎ農園及び落川交流センター(東京・日野市)
 定員:30名
 主催:NPO市民科学研究会、食と農の市民談話会
 (詳細↓)
 https://www.shiminkagaku.org/csijfoodevent_20240924/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ おいしい未来をつくる読書会 #3『フード・マイレージ』
 日時:9月28日(土)20:00〜21:30
 場所:オンライン
 主催:おいしい未来をつくる読書会
 (詳細、問合せ等↓)
 https://peatix.com/event/4086775/

○ ふくしまオーガニックコットンボランティアツアー2024「収穫」編
  〜さよなら天ぷらバス〜
 日時:10月5日(土)7:15 東京駅集合〜19:00東京駅解散予定
 場所:福島・いわき市内のコットン畑
 主催:リボーン
 (詳細、問合せ等↓)
 https://reborn-japan.com/domestic/14747

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。
 アメリカ大統領選も近づき、ウクライナもパレスチナもますます混迷の度合いが・・・。
過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.301は10月3日(木)[和暦 長月朔日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter −フード・マイレージ資料室 通信−【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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