−小倉武一『誰がための食料生産か』(1987年10月、家の光協会)−
https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN01427367
【ポイント】
戦後日本の農政、経済政策の中枢を担った著者が40年近く前に提起している問題の多くが、そのまま現在にも通じる(解決されていない)ことに驚かされます。
300号の節目にふさわしい本がないか探していたところ、本棚の奥から出てきたのが本書です。農林水産省に入省してから間もない頃に読んだ本の一冊で、何重にも多くの線が乱雑に引かれています。
著者の小倉武一(おぐら・たけかず)氏は1910年福井県生まれ。東京帝国大学を卒業後農林省に入省し、農政課長(農地改革を担当)、食糧庁長官、農林事務次官等を歴任。退官後は農政審議会会長、政府税制調査会長、日本銀行政策委員等を務め、2002年に91歳で死去されました。正に戦後の農政、経済政策の中枢を担った方です。
冒頭の序文(「無名の食料素材産業関係者のある声明」)に、著者の問題意識が端的に記されています。
すなわち「われわれの任務は国民を養う(食料を供給する)ことであるにもかかわらず、十分にその任務を果たしているとは言えない。なぜなら必要な食料の約半分しか供給できていない。供給力の維持と増強が肝要」としています。
また、農業、食料産業の基本的特質はその国の歴史的・自然的条件に左右され、特に人口と国土の大きさが与件となっていることであるとし、世界の人口の1%を超える国のなかで日本ほど食料供給力が極端に低い国は他にはないと危機感を露わにしています。
この危機は「貿易立国とか平和国家という念仏でもって克服できるものではな」く、議論自体されていないことについては「国民全体が間が抜けているとしかいいようがない」と苦言を呈しています。
また、食料の確保は国民が自らやらなければならないというのが基本で、「誰だれかがやってくれると思ったら大間違い」ともしています。
一方、米の生産調整は早急にやめるべきとしつつ、需要と供給を均衡させるためには米価は大幅引き下げ、輸出ができるくらいまでは生産性を上げていく必要があるとし、そのうえで中山間地域等には特別の所得補償政策を講ずべきとしています。
協同化や、有事は農地に転用可能な都市緑地の重要性への言及もあります。
さらには、農業にとって必要なのは「土地の改良」ではなく、役人や農業関係者の「頭の改良」である、農家数が減少すれば自然に規模拡大するというのは政策とは言えず小学生の算数でしかない、といった辛らつな言葉もあります。
改めて再読し、40年近く前に提起されている論点の多くが、そのまま現在にも通じる(解決されていない)ことに驚かされました。
あいにく本書は絶版となっているようですが、図書館等で手に取って頂くことをお勧めします。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.300、2024年9月17日(火)[和暦 葉月十五日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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