-小田切徳美『にぎやかな過疎をつくる-農村再生の政策構想』(2024年8月、農山漁村文化協会)-
https://toretate.nbkbooks.com/9784540231841/
【ポイント】
農村は簡単には消滅しない強靭性を有しており、各地における「にぎやかな過疎」づくりの取組みは、人口減少下でも地域で幸せに住み続けるための日本全体のモデルとなるものです。
著者は明治大学農学部教授で、農村政策論、地域ガバナンス論の分野における第一人者です。
日本の農村は、いわゆる「限界集落論」にみられるように、しばしば消滅、撤退という議論の対象とされていますが、著者は、「関係人口」等のデータも引用しつつ、集落は消滅しそうにみえて、そう簡単に消滅しない強靭性を有しているとしています。
このことから、中山間地域等から「賢く撤退すべき」とする「農村たたみ論」については強く批判し、コンパクトシティという言葉自体が誤用であるとも指摘しています。
さらに、農村は、都市にはない持続的な内発的発展のモデルとなりうる地域であるとし、各地における特定地域組合制度等の活用による「にぎやかな過疎」づくりの事例が多数紹介されています。一方で、KPI(重要業績評価指標)を必要以上に重視する政策が「むら・むら格差」を顕在化させているという問題点も指摘しています。
なお、タイトルの「にぎやかな過疎」とは、2013年に放映されたテレビ金沢のドキュメンタリ番組から借用したとのこと。その舞台であり、著者もしばしばフィールドワークで訪れている能登半島が、本書執筆中の本年1月に大地震に見舞われました(さらにその後、9月には豪雨により大きな被害を蒙りました)。
そのようななか、国の財政制度等審議会で「能登半島の今後の復旧・復興にあたっては、将来の需要減少や維持管理コストも念頭に置きながら検討することが必要」といった議論が行われたことについて、著者は「被災地を対象に財政の論理を振り回す状況には驚きを禁じ得なかった。この国は大丈夫かという強い疑問が浮かんでいる」と、冷静な記述ながら、強い怒りを表明しています。
なお、本書の各章の末尾には非常に分かりやすい「農村再生キーワード」も掲載されているなど、農村再生や地域づくりに関心のある方にとっては必携の書と言えます。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.303、2024年11月1日(金)[和暦 神無月朔日]
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
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