◇フード・マイレージ資料室 通信 No.304◇
2024年11月15日(金)[和暦 神無月十五日]
────────────────────
◆ F.M.豆知識 原子力被災12市町村の営農再開面積割合の推移
◆ O.カレント 図図倉庫(ずっとそうこ、福島・飯舘村)
◆ ほんのさわり 吉田千亜『孤塁』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
────────────────────
七十二候では第五十六候「地始凍(ちはじめてこおる)」ながら、東京地方は最高気温が20℃を超える日が続いています。富士山の初冠雪も、統計開始以来最も遅い11月7日でした。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
-原子力被災12市町村の営農再開面積割合の推移-
【ポイント】
原子力被災12市町村における営農再開面積の割合は全体で49.7%。市町村別にみると、避難指示解除の時期や帰還状況(居住率)による差が大きくなっています。
2011年3月、東京電力福島第一原子力発電所では3基の原子炉が同時に炉心溶融(メルトダウン)をするという、世界最悪レベルの事故となりました。これにより大量の放射性物質が拡散され、福島・双葉郡を中心とする12市町村に避難指示が発出されました。
リンク先の図303は、原子力被災12市町村の2011年12月末時点の営農休止面積に対する、営農を再開した面積の割合の推移を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/11/304_saikai.pdf
これによると、2011年12月末における営農休止面積17,298 haのうち2023年度末時点で営農が再開されている面積は8,599haで、その割合は49.7%となっています。事故から約13年が経過した時点でも、営農が再開された面積は半分以下にとどまっているのです。
市町村別にみると、避難指示解除の時期が早かった広野町(町の判断による自主避難)、楢葉町(2015年9月解除)等では7~8割以上の農地で営農が再開されている一方、解除の時期が遅く、今も帰還困難区域が多く残っている大熊町(2019年4月解除)、双葉町(2020年3月解除)では、それぞれ4.2%、0.1%と極めて低い水準にとどまっています。
人工知能の推進などによる電力需要増加を背景に、主要政党の多くが「原発回帰」に舵を切っています。リスクとは発生確率と影響度の組合せですが、仮に原発事故が起こる確率が低いとしても、万一、起こった時の被害は甚大なものとなることは、被災12市町村の現状が示しています。
また、燃料デブリの試験的取り出しはパイプの取り付けミスにより、女川原発の再稼働はナットの緩みにより中断されるなど、ヒューマンエラーを根絶することも現実には不可能です。
[データの出典]
資料:福島県「令和5年度末時点での営農再開面積」から作成。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/643536.pdf
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
-図図倉庫(ずっとそうこ、福島・飯舘村)-
【ポイント】
原発事故により全村避難を余儀なくされた飯舘村では、閉鎖されたホームセンターの建物が「つながりを再生する秘密基地」に生まれ変わっています。
2011年3月の東電福島第一原発の事故により、飯舘村は全村避難を強いられ、村内で営業していた多くの商業施設も閉鎖を余儀なくされました。
幹線道路沿いあったホームセンターもしばらく廃墟のような姿でしたが、2022年11月、移住された若い方たちが中心となって「図図倉庫(ずっとそうこ)」としてオープンしました。
10年以上も廃屋となっていた建物を、まずはみんなで掃除から始め、天井にはもみ殻で作った断熱材を葺き、廃校になった小学校の机や備品も活用するなど、手作りで改修したそうです。
ここは分野・地域・世代の垣根を越えて多様な人が集まり、これからの飯舘村や世界の環境づくりを探求する場で、実験・研究室、アートの展示、シェアオフィス、イベントスペース、カフェ、ショップ等からなる「つながりを再生する秘密基地」です。
「ふくしま再生の会」の方たちが発災直後から収集・検査してきた土壌サンプル、クルックス管など放射線に関する実験器具なども展示され、ワサビの水耕栽培実験も行われています。映画の上映会や環境づくりを体験するスタディツアーも実施しています。
「図」という文字には「工夫して努力する」「目的のために工夫する」といった意味合いがあるとのこと。ユニークな名称には、次の世代に自信をもって受け渡せるような、世界に誇れるような「ずっと」つづく地域環境づくりを目指したいという思いが込められているそうです。
[参考]
「図図倉庫」
https://www.zuttosoko.com/
「ふくしま」再生の会
http://www.fukushima-saisei.jp/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
-吉田千亜『孤塁-双葉郡消防士たちの3・11』(2023年1月、岩波現代文庫)-
https://www.iwanami.co.jp/book/b618320.html
【ポイント】
原発事故のために他県消防の応援も得られないなか、生まれ育った地域を守り続けた福島県双葉消防本部の125名の消防士の活躍と葛藤の様子が描かれています。
著者は1977年生まれのフリーライター。福島第一原発事故後、被害者・避難者の取材とサポートを続けられている方。本書は2020年に本田靖春ノンフィクション賞を受賞、2023年には文庫化されています
本書は、2011年の地震・津波被害者の救助や原発事故による避難誘導等に当たった福島県双葉消防本部の125名の消防士の約半数を対象に、一人ひとりに対する綿密なインタビュー取材を行った記録です。
原発事故により避難指示が出されたため他県消防の応援も得られず、家族との連絡も取れず、ポケット線量計が鳴り続けるなか、不眠不休で生まれ育った地域の「孤塁」を守り続けた地元消防士のぎりぎりの苦闘と葛藤の様子は、今、読んでも胸が震えます。「原発事故で撤退しなければ助けられた命があったかも知れない」と悔やむ声も。
著者は、彼らの「忘れないでほしい」「教訓にしなくてはならないようなことは二度と起きてほしくない」といった話を伺うたび、恐怖で鳥肌が立ち自分の無力さを思いつつも、「バトンを渡す」という思いで書き続けてきたそうです。そして「どうか、このバトンをあなたも受け取って下さることを願う」と記しています。
さらに「文庫本によせて」の中では、「原発回帰を打ち出す日本は、まるで2011年、多くの人々の人生を根こそぎ奪った出来事を忘れてしまったかのようだ」と嘆いています。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 CSまちデザインツアー2024(1日目、福島・二本松から飯舘へ)[11/5]
https://food-mileage.jp/2024/11/05/blog-545/
〇 CSまちデザインツアー2024(2日目、5年ぶりの飯舘村)[11/8]
https://food-mileage.jp/2024/11/08/blog-546/
〇 あきあげ2024(新潟・上越市みなもと地区)[11/12]
https://food-mileage.jp/2024/11/12/blog-547/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
〇【第207回霞ヶ関ばたけ】
おいしいとは何か? 「味なニッポン戦後史」から食のリテラシーについて考える。
ゲスト:澁川祐子さん
日時:11月16日(土)9:30~11:15
場所:官民共創HUB(東京・港区虎ノ門1)
主催:霞ヶ関ばたけ
(詳細、問合せ等↓)
https://kasumigasekibatake-207.peatix.com/
〇 福島を丸ごと食べるPart2~「復興」を超えて進む地域農業のいま~
日時:11月26日(火)17:30~19:30
場所:結ぶ食房「しまゆし」(千代田区神田錦町3)
主催:CSまちデザイン
(詳細、問合せ等↓)
https://cs-machi.com/shimokouza1/
────────────────────
*米令寺忽々のコツコツ小咄。世界ぜんたいの平和と幸福を祈りつつ。
「避難指示が解除されてすぐ、地域の方たちとエゴマの栽培実験を始められたそうです」
「復興に向けての執念(じゅうねん)さえ感じますね」(福島・飯舘村にて)
過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.305は12月1日(日)[和暦 霜月朔日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
────────────────────
◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
(購読(無料)登録はこちらから)
https://www.mag2.com/m/0001579997.html
発行システム:『まぐまぐ!』
https://www.mag2.com/
バックナンバー
https://food-mileage.jp/category/mm/
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
ブログ「新・伏臥慢録~フード・マイレージ資料室から~」
https://food-mileage.jp/category/blog/