◇フード・マイレージ資料室 通信 No.305◇
2024年12月1日(日)[和暦 霜月朔日]
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◆ F.M.豆知識 営農型太陽光発電設備の許可件数等の推移
◆ O.カレント 二本松営農ソーラー(福島・二本松市)
◆ ほんのさわり 小原浩靖監督『原発をとめた裁判長』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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カレンダーでは12月に入り、冷え込む日も多くなってきました。私も一時体調を崩しましたが、どうぞ皆様ご自愛ください。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
-営農型太陽光発電設備の許可件数等の推移-
【ポイント】
営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)設備は増加傾向で推移しており、適切な営農と発電を両立させる取組みとしてさらなる普及が期待されます。
営農型太陽発電とは、農地に支柱を立てて上部に太陽光パネルを設置し、営農を適切に継続しながら発電を行う事業のことです。太陽光を農業と発電で分け合うことから、ソーラーシェアリングとも呼ばれます。
リンク先の図305の棒グラフは、営農型太陽光発電設備のための農地の一時転用許可件数の推移を示したものです(支柱の基礎部分について農地法上の許可が必要)。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/12/305_solar.pdf
これによると、農地制度上の取扱いが明確化された2013年度以降、許可件数は年々増加しており、2022年度の新規許可件数は975件、累計では5,351件(設備下部の農地面積は1,209ha)となっています。
一方、営農型以外(営農を廃止)の太陽光発電設備のための農地転用許可件数は2022年度で5,422件とピークの2019年度の4割程度に減少しており、さらに住宅以外の太陽光発電設備のFIT/FIP(固定価格買取制度)認定件数は同6,330件とピークの2014年度の4%へと大幅に減少しています。これらに比べると、営農型太陽光発電の設備は、まだ数は少ないものの、着実に増加していることが分かります。
また、営農型太陽光発電設備については、設置者(発電事業者等)と営農者が異なるケースが65%を占めており、また、22%の施設では下部農地での営農に支障(単収減少や生育不良)があったと報告されています。
さらに、下部の農地における営農が適切に行われていないなどの不適切案件もみられることから、2024年には制度の趣旨等を明確化したガイドラインが発出されているところです。
営農型太陽光発電は、発電電力の自家利用等による農業経営の改善が期待される制度であると同時に、食料とエネルギー両方の自給率向上に資する取組みとして、さらなる普及が期待されます。
[データの出典]
農林水産省「営農型太陽光発電について」(2024年11月)、
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-50.pdf
同「太陽光発電設備を設置するための農地転用許可(平成23年度以降の実績)」、
https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/attach/pdf/einogata-54.pdf
資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの導入状況」(2024年6月)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/063_s01_00.pdf
から作成。
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
-二本松営農ソーラー(福島・二本松市)-
【ポイント】
原発事故で一時は農業をあきらめた近藤 恵さんは「怒りではなく感謝と喜びの汗をかきたい。私たちの新しいスタイルの農場を見て、未来の地図を想像してほしい」と語っておられます。
二本松営農ソーラー株式会社は、2019年、市民電力(ゴチカン)、生協(みやぎ生活協同組合・コープふくしま)、NPO環境エネルギー政策研究所(ISEP)の3者により設立され、2021年3月に竣工しました。現在、約6500枚のモジュールにより約600世帯分の発電を行っている日本最大級の営農型発電(ソーラーシェアリング)施設です。
農業生産を担当しているのが農地所有適格法人(株)Sunshineです。耕作放棄されていた6haの農地(元水田)を再生し、ブドウ、エゴマ、小麦、大豆等の生産を行っています。食用油やビールへの加工、牛(ジャージー種)の放牧も行っています。
現地を見学させて頂いたのは本年11月2日(土)のこと。
生憎の強い雨でしたが、近藤 恵(こんどう・けい)代表が丁寧に案内して下さいました。
代表によると、農業者自らがエネルギーを生み出す営農型発電は世界的に注目されているものの、日本では電力サイド主導によるものが多く、なかには農業生産はアリバイに過ぎないような事例もあり、行政も推進ではなく規制強化に注力している状況は残念とのこと。
なお、ブドウについては、今年は全国的に高温のために色づきが悪かったそうですがここでは適度に遮光されたため高温障害は回避されたそうです。
1979年、東京・あきる野市のサラリーマン家庭に生まれた近藤代表は、2006年に二本松市で就農し有機農業を営んでいましたが、東電福島第一原発事故により廃業を余儀なくされました。その後、発電と融合した新しい「二毛作」の農業の展開により、日本の食料とエネルギー自給率の向上に挑戦しておられるのです。
この日、配って下さった冊子『Sunshineの地図』には、「怒りではなく感謝と喜びの汗をかきたい。私たちの新しいスタイルの農場を見て、未来の地図を想像してみてください」との近藤代表の言葉が記されています。
[参考]
二本松営農ソーラー & Sunshine
https://re100sunshine.jp/
見学させて頂いた際の様子(拙ブログ)
https://food-mileage.jp/2024/11/05/blog-545/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
-小原浩靖監督『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』(2022年9月公開)-
https://saibancho-movie.com/
【ポイント】
大飯原発の運転停止命令を下した元裁判長や、福島で太陽光発電農業を始めた農業者らによる脱原発に向けた活動を追ったドキュメンタリーです。
今回は本ではなく映画の紹介です。本作品は、相互に関連した2つのパートから構成されています。
「原発をとめる農家たち」のパートでは、原発被災地である福島で取り組まれている営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)が紹介されます。「オーシャン・カレント」欄で紹介した近藤恵氏や仲間の若い農業者の皆さんの姿には、現地を見学させて頂いたこともあり、確実に明るい希望を感じることができました。
一方、「原発をとめた裁判長」のパートで描かれているのは、関西電力大飯原発の運転停止命令を出し、現在は脱原発の危険性を啓発する活動に取り組んでいる樋口英明・福井地裁元裁判長と、現在進行中の脱原発裁判に取り組む弁護士たちの姿です。
しかし本映画ではあまり強調されていませんが、東日本大震災後、初めての原告勝訴となった2014年5月の「樋口判決」(映画の中で河合弘之弁護士は「脱原発のバイブル」と評価)は、2018年7月の控訴審(名古屋高裁金沢支部)でくつがえされています。
さらに今年(2024年)に入ってからも、3月7日(木)には大分地裁が伊方原発3号機について、11月27日(水)には仙台高裁が女川原発2号機についての運転差し止め請求の訴えを棄却するなど、住民側の敗訴が続いています。
3.11後は裁判官の意識も変りつつあるとの評価もありましたが、現実には、日本で司法が原発を止めたという実績は皆無です。1992年の伊方原発訴訟最高裁判決の「国の審査指針は専門家による高度な専門技術的判断に基づいて作成されたものであることから、司法としては、見逃すことのできない誤りがない限り、司法は介入すべきではない」といった基本的な姿勢は、現在も堅持されているかのようです。
映画の中で河合弁護士は、伊方原発の広島地裁判決の見通しについて力強く語っておられました。明年3月に予定されている判決が注目されます。
(参考)
磯村健太郎、山口栄治『原発に挑んだ裁判官』 (2019/6、朝日文庫)
https://publications.asahi.com/product/21028.html
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 吉田恵美子さんからお預かりしたもの[11/29]
https://food-mileage.jp/2024/11/29/blog-548/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
〇 新月の夜のすばるオンライントーク vol.42
「人生を賭ける夢は、能登半島に地球が喜ぶ農業の一大生産拠点を作ること」
ゲスト:洲崎邦郎さん(オーガニックベース石川)
日時:12月1日(日)21:00~23:00目途
場所:オンライン
主催:災害救援集団すばる
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/939287221393700
〇 第110回奥沢ブッククラブ:原田マハ『たゆたえども沈まず』
日時:12月9日(月)19:00~21:00
場所:オンライン
主催:奥沢ブッククラブ
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/events/867280095277898
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。世界ぜんたいの平和と幸福を祈りつつ。
「SNSって、何の略?」
「真偽が(S)なんにも(N)証明されていない(S)という意味よ」
過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.306は12月15日(日)[和暦 霜月十五日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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