【ほんのさわり】吉田恵美子『想いはこうして紡がれる』

-吉田恵美子『想いはこうして紡がれる-「古着を燃やさないまち」を実現した33年の市民活動を通して伝えたいこと』(2024年12月、英治出版)-
 https://eijipress.co.jp/products/2360

【ポイント】
 一人の人間としてもがき苦しみながら、市民運動に取り組み、実績を積み上げられてきた著者からの、後進たちへのメッセージです。

12月14日(土)に発売されたばかりの本書は、吉田さんご自身が執筆された最初のまとまった本であり、同時に、残念ながら最後の本となってしまいました。年内に計画されていた出版記念祝賀会への参加も楽しみにしていたのですが、これも叶わなくなりました。

本書は、30年以上にわたって市民活動を続けてきた著者の、これから一歩を踏み出そうとしている後進たちへのメッセージです。
 「高尚な思想は不要。小さな違和感・引っ掛かりを大事にして、一歩ずつ動き出せばいい」「伝えないと伝わらない。対話を積み重ねることが大事」「想いを紡ぎ織り上げることで、仲間は自然と現れる」「地域の課題は変わり続けるから、「私」も変わり続けることが必要」「あなたが積み上げてきた「私」が、何かを変えていく上での原動力になる」等の、力強く、優しい言葉が綴られています。

しかし著者の人生は、決して順風満帆なものではありませんでした。
 家庭内の軋轢、優秀な兄弟へのコンプレックス。大学卒業後は中学校教員となったもののわずか1年で挫折して帰郷し、結婚・子育てしながらも、居場所のないという孤独感にさいなまれていたそうです。
 市民活動を始めてからも、最初は行政からも煙たがられ、組織内の人間トラブルにも悩まされます。審議委員等の公職が増えたことで現場の事務局メンバーとの間にも亀裂が入ります。震災後、原発被災地からの避難者と市民との溝を埋めようと活動されていた時も「無力感と自己嫌悪でいっぱいだった」そうです。

 正直、いつも明るく、地域の課題に積極的に取り組んでこられたという吉田さんのイメージからは、想像もできない内容でした。
 吉田さんは決して「すごい人」ではなかったのです。一人の人間が、もがき苦しみながら市民活動を続け、大きな成果をもたらした等身大の記録が本書です。
 それだけに、「本書が、今モヤモヤを抱えている『あなた』の背中を押し、小さな一歩を踏み出すきっかけとなればそれに勝る喜びはない」との言葉が心に響きます。