◇フード・マイレージ資料室 通信 No.306◇
2024年は12月15日(日)[和暦 霜月十五日]
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◆ F.M.豆知識 衣類のマテリアルフロー
◆ O.カレント 故・吉田恵美子さん(福島・いわき市)
◆ ほんのさわり 吉田恵美子『想いはこうして紡がれる』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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いよいよ2024年も残り少なくなってきました。本メルマガの配信も年内はあと2本、今号は「食」ではなく「衣」に着目します。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
-衣類のマテリアルフロー-
【ポイント】
日本では手放された衣服の65%がごみとして廃棄されており、リユース、リサイクルされる割合はそれぞれ17%、18%にとどまっています。家庭での取組みが重要です。
「衣食住」という言葉があるほど、食料と同様、衣類は人が生きていくための必需品ですが、近年、大量生産、大量消費、大量廃棄による環境負荷が国際的にも大きな課題となっています。
リンク先の図306は、日本における衣類の供給から消費・廃棄までの流れ(マテリアルフロー)を示したものです。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2024/12/306_SF.pdf
これによると、2022年における衣類の新規供給量は79.8万トンですが、うち78.2万トン(98%)が海外からの輸入品で、国産の割合(自給率)はわずか2%と、食料と比べても非常に低い水準となっています。
新規に供給された79.8万トンの仕向け先をみると、65.8万トン(82%)が家庭に販売され、事業所への販売量は3.5万トン(4%)、在庫に回るものが9.0万トン(11%)となっており、この時点で1.5万トン(2%)が廃棄されています。衣類のマテリアルフローにおいては、家庭が圧倒的な主役と言えます。
一方、同じ2022年において、家庭は新規購入量を上回る69,6万トンを手放しています。このうち古着等としてリユースされる量(輸出を含む)は13万トン(19%)、資源回収等を通じてリサイクルされる量は10.8万トン(15%)にとどまっており、残りの66%に相当する45万トンがごみとして廃棄(焼却・埋め立て)されています。
事業所分等を含む全体でみると、48.5万トン(65%)が廃棄されており、リユース、リサイクルはそれぞれ17%、18%にとどまっているのです。
衣類の生産、消費、廃棄のシステムを循環型で持続的なものとしていくためには、特に家庭において手放す衣類をリユース、リサイクルに回すように心掛けることが必要です。
[データの出典]
矢野経済研究所「令和4年度循環型ファッションの推進方策に関する調査業務」(2023.3、環境省委託事業)から作成。
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/goodpractice/case26.pdf
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
-故・吉田恵美子さん(福島・いわき市)-
【ポイント】
福島・いわき市で「古着を燃やさないまち」を実現するなど様々な市民活動に取り組んで来られた吉田恵美子さんは、本年11月、逝去されました。慎んで哀悼の意を表させて頂きます。
本欄で吉田恵美子さんを紹介させて頂くのは、No.27(2013年.9月5日配信)以来、2回目です。
吉田さんは1990年頃から、たった数名の市民ボランティアグループとして衣服のリユース・リサイクルに取り組んで来られました(2004年にはNPO「ザ・ピープル」を設立)。
市内13か所に回収(寄付)ボックスを設置し、年間約260トンもの古着を集め、その90%近くを資源として社会に還元(直営店舗でのリユース販売、ウェスやエコウールとしての再資源化等)しています。これは日本全体での衣服のリユース・リサイクル率(35%、「豆知識」欄参照)に比べて際立って高い数値で「古着を燃やさないまち」が実現しているのです。
また、2011年3月の東日本大震災と東電福島第一原発の事故は、福島・浜通り地方に深刻な被害を与えました。いわゆる「風評被害」もあって農業の先行きが見えず、耕作放棄される農地が増えるなか、吉田さんは仲間とともにオーガニックコットンの栽培を始められました。
長年にわたり衣服の再利用に取り組んできた吉田さんにとって、衣服の起点であるコットン栽培に関わるようになるのは自然の流れだったのかも知れません。同時に、原発被災地から避難されてきた方たちを含む地域のコミュニティづくりを目的としたものでもありました。
私も何度もボラバスツアー等で訪問させて頂き、毎回、明るく積極的に地域の様々な課題に取り組んでおられる様子に、大きな感銘を受けたものです。
その吉田さんは、1年以上にわたる闘病の末、2024年11月17日(日)にすい臓がんのために、満67歳で逝去されました。
葬場祭(告別式)が開催された同25日(月)のいわき市は、一点の曇りもない青空でした。ホールには故人の功績を表す数多くのパネル等が展示され、古着やコットンだけではなく、保護司や障がい者自立支援など幅広い社会貢献活動をされていたことを知りました。祀主の方(ご主人)の挨拶にあったように、明るい未来を見通しているかのようなご遺影の吉田さんの表情が印象的でした。
他の多くの方たちと同じく、私も吉田さんから多くのことを学ばせて頂きました。
そのお預かりした貴重な財産を糧に、これからは私自身も、吉田さんが目指された社会の実現に向けて尽力していきたいと決意しています。
参考
NPO法人ザ・ピープル
https://www.facebook.com/iwakithepeople
(一社)ふくしまオーガニックコットンプロジェクト
https://www.facebook.com/fukushimaorganic
「繊維の生まれる場と帰って来る場を整えるプロジェクトを前に進めたい」
(ご遺志を継がれた方々によりクラファン継続中です。支援は12/31まで)
https://readyfor.jp/projects/148057/announcements/350354
吉田恵美子さんからお預かりしたもの(拙ブログ)
https://food-mileage.jp/2024/11/29/blog-548/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
-吉田恵美子『想いはこうして紡がれる-「古着を燃やさないまち」を実現した33年の市民活動を通して伝えたいこと』(2024年12月、英治出版)-
https://eijipress.co.jp/products/2360
【ポイント】
一人の人間としてもがき苦しみながら、市民運動に取り組み、実績を積み上げられてきた著者からの、後進たちへのメッセージです。
12月14日(土)に発売されたばかりの本書は、吉田さんご自身が執筆された最初のまとまった本であり、同時に、残念ながら最後の本となってしまいました。年内に計画されていた出版記念祝賀会への参加も楽しみにしていたのですが、これも叶わなくなりました。
本書は、30年以上にわたって市民活動を続けてきた著者の、これから一歩を踏み出そうとしている後進たちへのメッセージです。
「高尚な思想は不要。小さな違和感・引っ掛かりを大事にして、一歩ずつ動き出せばいい」「伝えないと伝わらない。対話を積み重ねることが大事」「想いを紡ぎ織り上げることで、仲間は自然と現れる」「地域の課題は変わり続けるから、「私」も変わり続けることが必要」「あなたが積み上げてきた「私」が、何かを変えていく上での原動力になる」等の、力強く、優しい言葉が綴られています。
しかし著者の人生は、決して順風満帆なものではありませんでした。
家庭内の軋轢、優秀な兄弟へのコンプレックス。大学卒業後は中学校教員となったもののわずか1年で挫折して帰郷し、結婚・子育てしながらも、居場所のないという孤独感にさいなまれていたそうです。
市民活動を始めてからも、最初は行政からも煙たがられ、組織内の人間トラブルにも悩まされます。審議委員等の公職が増えたことで現場の事務局メンバーとの間にも亀裂が入ります。震災後、原発被災地からの避難者と市民との溝を埋めようと活動されていた時も「無力感と自己嫌悪でいっぱいだった」そうです。
正直、いつも明るく、地域の課題に積極的に取り組んでこられたという吉田さんのイメージからは、想像もできない内容でした。
吉田さんは決して「すごい人」ではなかったのです。一人の人間が、もがき苦しみながら市民活動を続け、大きな成果をもたらした等身大の記録が本書です。
それだけに、「本書が、今モヤモヤを抱えている『あなた』の背中を押し、小さな一歩を踏み出すきっかけとなればそれに勝る喜びはない」との言葉が心に響きます。
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ 福島を丸ごと食べる Part2(CSまちデザイン)[12/2]
https://food-mileage.jp/2024/12/02/blog-549/
○ 菌ちゃんプランターではじめる元気野菜作り[12/5]
https://food-mileage.jp/2024/12/05/blog-550/
○「歴史の結び目」としての第五福竜丸[12/8]
https://food-mileage.jp/2024/12/08/blog-551/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
〇 香月(カグツチ)村民会議
日時:12月23日(月)19:00~20:30目途
場所:オンライン
主催:香月
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/kagutsuchikanazawa/
〇 トクノスクール『「農基社会成立」と「ポスト農基社会」の憂鬱』
日時:12月26日(木)19:00~21:00
場所:オンライン
主催:トクノスクール in 福岡
(詳細、問合せ等↓)
https://www.facebook.com/TokunoSchoolInFukuoka
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。世界ぜんたいの平和と幸福を祈りつつ。
「僕は飛車だけでいいよ」
「えっ、どうして?」
「角(核)はいらないから」
ノーベル賞授賞式での日本被団協・田中熙巳代表のスピーチには感動しました。
過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.307は12月31日(火)[和暦 師走朔日]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつもありがとうございます。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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