自宅近くに一画を借りている市民農園。
手前は菌ちゃん農法の畝。始めたばかりの昨冬は大豊作でしたが夏は猛暑のせいか不作、今年の冬も今一つです。
昨年9月の講演会の際に、吉田俊道さんに猛暑の影響について伺った際は特にないとのことでしたので、まだまだ技術が足らないということなのでしょう。

ところで毎年、正月までに実が無くなってしまう庭の南天ですが、年末にネットを掛けておいたおかげで元旦には見事な赤い実を楽しめました。
ところが気が付くと、ヒヨドリさん達のお陰ですっかり丸坊主に。

2025年1月15日(水)は、終業後に東京・日比谷図書文化館へ。
19時から開催されたのは吉田太郎さんの講演会「『シン・オーガニック』から、いま改めて問う、「なぜ有機農業」なのか」。オンラインでは新潟や福島からの参加者もおられたようです。
主催は食生活ジャーナリストの会(JFJ)。
正しい食情報を分かりやすく伝える活動の一環としての公開シンポジウムで、私は2011年6月の久松達夫さん(茨城・土浦市)の会に参加して以来です。

事前に事務局からは136ページ(!)もの資料が送られてきました。データも情報も満載です。
最初のページには豪徳寺の招き猫。いつもながら吉田さんのサービス精神は旺盛です。

以下はご講演のごく一部です(私の理解不十分な部分もあるかも知れず、文責は全て中田にあります)。
吉田さん(以下、同様)
「長野県庁を退職する直前は、自治体の有機農業推進を応援する業務を担当していた。松川町の有機給食はNHKや映画でも取り上げられた」

「有機農業については、スピリチュアルな要素はできるだけ排して、科学(エビデンス)に基づいて語ることが重要と考えている。東洋医学についても科学的な解明も進んでいるように」
「無化学肥料・無農薬でも作物ができるのは、植物と土壌微生物との間で絶妙なバランスのネットワークが形成されているため。微生物は窒素を固定し、土中のミネラルを植物が利用できるように変換する一方、植物は光合成で固定した炭素(糖分)の多くを滲出液として根から放出し、これが土中の微生物のエサとなり、団粒構造が形成される」
「生物多様性が豊かな環境では、個体レベルにはない『創発特性』が発現し、環境攪乱に対する抵抗力や回復力(レジリアンス)が強くなる。害虫は健康な植物は食べることはできない。害虫は不健康な作物の清掃者とも言われる」
「農薬を使うほど病害虫が増えること、化学肥料を使わない肥沃な土壌で育てた食べ物は人を健康にすること等は、50年以上前の研究や実験で明らかにされていた。しかし当時は、これらは近代科学では証明できないスピリチュアル的なものとして否定され、普及しなかった。現に化学肥料の方が即効性もあった。
しかし現在、ようやく微生物と植物との相互作用やマイクロバイオファームの重要性等についての解明が進み始めた。先人たちの「予言」に科学が追いつくまでに、実に半世紀を要した」
「植物が菌と共生しながら陸上に進出したのが4億年前、マメ科植物と根粒菌の共生が始まったのは3900万年前。これらに比べると、化学肥料の製造が始まったのはわずか100年前のことに過ぎない」

「健康な土からは健康な作物ができ、それを食べることで人も健康になる。
人は腸内細菌と共生している。腸内細菌は人が分解できない繊維も分解し、ミネラルの吸収等を促す。抗生物質が投与されると腸内細菌は殺され、荒野となり、それで悪玉菌が増えることになる。農薬と害虫との関係と同じ」
「現代人は、善玉菌のエサになる食物繊維の摂取量も大きく減っている。雑穀や発酵食を多く摂る食生活の方が、人間は長寿、健康になる。伝統食は智恵の結晶であり、見直されるべき」
20時20分頃から質疑応答。
予定の20時30分にはいったん終了し、都合のつく人は残って延長戦に。
事前に参加者から出されていた質問については、吉田さんはあらかじめ回答を準備して下さっていました。

アグロエコロジーの考え方からは本来の有機ではそもそも施肥自体が不要になること、家畜排せつ物は液肥として活用することが望ましいこと。
また、剪定枝など地域の未利用資源を活用している農家、待機特産品を扱い始めたコンビニ、新入社員を農家に研修に行かせる卸会社等の幅広い事例も紹介しつつ、工夫次第でできるローカルな取組みはあると話されました。
また、農水省の「みどり戦略」は新技術頼みであり(ゼロ戦や戦艦大和を想起するとも)、気候風土等の地域特性を踏まえ、先人の知恵を借りることが必要であること。さらには技術だけではなく、社会システムを変えていくという視点が必要であるとも強調されました。
オンラインでも有機農業に取り組みたいという後継者の方(女性)の発言に対しては、
「有機が広がっていくかどうかは、川下の消費者の購買行動が決定的に重要。日本の消費者は健康食品やサプリメントには多くの金を使っているが、有機食品に対する支出額は欧米に比べても少ない。食は健康と直結しているということを、どのように情報発信していくかが重要と考えている。
ちなみに人の行動を変えるためには、同調圧力も重要と考えられる。その意味では(沈没する客船のジョークを交えつつ)日本は先進国と言えるかも知れない(笑)」等と話されました。
講演会は21時過ぎに終了。
日本で1970年代から始まった有機農業運動は、正に「シン・オーガニック」と呼ぶにふさわしい新しい段階に入りつつあることを実感しました。また、地方公務員という制約のある立場ながら、個人として様々な情報を積極的に発信し続けてきた吉田さんの執念も伝わってきました。
多くの学びを頂いた講演会でした。吉田さん、主催者の皆様、有難うございました。
(ご参考)
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」(月2回、無料)
https://www.mag2.com/m/0001579997