-吉田太郎『シン・オーガニック-土壌・微生物・タネのつながりを取り戻す』(2024年7月、農山漁村文化協会)
https://toretate.nbkbooks.com/9784540231674/
【ポイント】
著者はいわゆる「スマート農業」的な有機農法ではなく、「自然への畏敬」を基底とする「ローカル、風土立脚型」の有機こそが重要と主張しています。

著者は1961年東京都生まれ。筑波大学大学院で地質学を専攻した後、埼玉県、東京都、長野県に農業関係の行政職員として勤務。この間、業務とは別に自ら有機農家で研修を受けたり、キューバの事例を調査・紹介したりするなど、有機農業の啓発普及に熱心に取り組んで来られた方です。定年退職後は晴耕雨読の生活を送りつつ、「フリーランサーとして好き勝手なことを言える人間にしか書けない」ものとして発表されたのが、この力作です。
本書の根幹をなしているのがp.16の図表です。これはSDGsへの寄与を横軸に、自然への畏敬の度合いを縦軸に取り、4つの各象限に様々な農法をプロットしたもので、右上に位置するのが農林水産省「みどりの食料システム戦略」(2021年5月)等が主張するAIやゲノム編集など新技術を活用することによる「グローバル、汎用型」有機農法です。著者はこれが現在の主流と認めつつ、右下に位置するマニュアル化・言語化が困難な「百姓の暗黙知」によってのみ体得しうる「ローカル、風土立脚型」の有機こそが重要と主張します。
そして著者は、膨大な先行研究等を引用しつつ、38億年に及ぶ「地球史・生命史」において有機農業の基盤である生態系(生きもの同士の関係性)がいかに形成されてきたかについて説き起こしていきます。「コモン菌根菌ネットワーク」「ワンヘルス」「大地再生農業」など最新の概念も解説しています。
しかしこれらは、著者によると、有機農業に取り組んできた多くの先人たちが「とっくに気づいて実践してきたこと」。著者が交流のあった篤農家たちの共通する姿勢は「自然に対して謙虚」で、生命、自然に対する「畏敬の念」があったそうです。
そして著者は、スピリチュアル的な要素は排するとしつつも、研修先だった故 金子美登師(埼玉・小川町、2022年9月に急逝)が、本書の執筆を「天国から叱咤激励して手助けしてくれたと信じたい」と記しています。
出典:
F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
No.308、2025年1月14日(火)[和暦 師走十五日]
https://food-mileage.jp/2025/01/26/letter-308/
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