【メルマガ】F.M.Letter No.308-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.308◇
  2025年1月14日(火)[和暦 師走十五日]
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◆ F.M.豆知識  転機となった(?)2024年の日本の米
◆ O.カレント  「令和の米騒動」
◆ ほんのさわり 吉田太郎『シン・オーガニック』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 2025年最初のメルマガを配信させて頂きます。本年もどうぞよろしくお願いします。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

-転機となった(?)2024年の日本の米-

【ポイント】
 昨年(2024年)は、長期的に減少してきた米の作付面積や生産量が増加し、同時に低下傾向で推移してきた米の価格は大きく上昇するという、転機となったかも知れない年でした。

 昨年(2024)年は、日本の米の生産と価格において転機となった年だったと記憶されるかも知れません。リンク先の図308は、米の作付面積と生産量、さらに消費者物価指数の長期的な推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/01/308_kome.pdf

下の棒グラフにあるとおり、水稲の作付面積(子実用)は、1976年の274万haをピークに1990年代半ばまでは変動しつつ減少を続け、それ以降もほぼ一貫してゆるやかな減少傾向で推移してきました。ところが2024年には136万haと、一転、1.1%増加したのです。
 収穫量も作付面積と同様、1975年の1,309万トンをピークに大きく減少してきましたが、2024年には735万トンと、これも増加(2.5%)に転じています。
 縮小の一途を続けてきた日本の米生産が、2024年にはわずかながら増加に転じたのです。同じく減少を続けてきた需要量も、2023/24年(7~6月)には増加しています。

一方、折れ線グラフは消費者物価指数の推移を示したものです(1993=100として換算)。
 「総合指数」(全品目)及び「食料」は1990年代半ばにかけ上昇を続け、その後も緩やかながら上昇基調で推移しています。一方、米については90年代半ば以降は一貫して低下していましたが、最近になって上昇に転じています。
 特に昨年は需給のひっ迫、生産コストの上昇を反映して米の価格は大きく上昇しました。しかし実は、「総合指数」の動きに追いついたに過ぎないことが、このグラフからは読み取れます。

このように昨年は、数字の上では、生産面、需要面、価格のいずれの面でも画期的な年だったと言えます。ただしこれが「転機」になるかどうかは、次の「オーシャン・カレント欄」で考えてみます。

[データの出典]
農林水産省「作物統計(長期累年)」及び総務省「消費者物価指数(時系列データ)」等から作成。
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_kome/index.html
 https://www.stat.go.jp/data/cpi/1.html 

◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

-「令和の米騒動」-

【ポイント】
 「令和の米騒動」は解消しましたが、産地や生産者に対する消費者の理解と実践がなければ、将来的に安定的な米の生産・供給基盤を維持していくことはできません。

食料・農業・農村政策審議会 食糧部会資料(2024年10月)より

昨年8月、大都市圏を中心に米がスーパー等の店頭から消えました。連日のようにテレビのワイドショーは空になった米の棚の映像を放映し、「令和の米騒動」という言葉がマスコミを賑わせました。

もともと端境期であるこの時期の米が例年以上に品薄になったのは、供給面では23年産米が高温障害などで精米歩留まりが低下したことに加えて、需要面では輸入食品等が値上がりする中で米には割安感があったこと、インバウンド(訪日外国人)消費が増加したこと、さらには8月8日の南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の発表等により消費者の買い込み需要が発生したことにあります。販売機会を逃さまいとする、流通業者による確保競争もありました。
 その後、2025年産米の収穫期を迎え、いつしか「令和の米騒動」という言葉も聞かれなくなりましたが、多くの気づきや教訓を残しました。

ひとつは、米の消費量は大きく減少(ピーク時の4割程度)しているものの、消費者の多くは現在も米を「主食」と見なしているということです。主食が消えたからこそ、多くの消費者がパニック的な行動に走ったのです。
 一方、米の生産については、需要が長期的に減少を続ける中で綱渡りのように翌年の需要量を見通し、ギャップ分については他作物への転換するという政策を推進してきました。しかしこのような方法では、想定外のリスク(気候変動、地震等)に十分に対応できないことが明らかになったことです。

現在、量的な需給ひっ迫は解消したものの、価格は高い水準のままで推移しており、消費者の米離れに拍車をかけるのではという危惧する声も出ています。
 私たち消費者としては、せっかく米の重要さに気付いたのであれば、米の生産者や産地の現状(農家の減少・高齢化、厳しい経営状況、荒廃農地の増加等)に対する理解を進め、上昇している生産コストの一部を進んで負担していくことが必要と考えます。ちなみに常に新鮮なものを求めるという消費者ニーズに応えるため、店頭の米も精米後一定期間が経過すると廃棄されるという現状もあるそうです。
 消費者の理解と実践がなければ、将来的に安定的な米の生産・供給基盤を維持していくことはできません。その意味で、昨年が転機となった年として記憶されることを期待したいと思います。

[参考]
「令和6年端境期における需給状況に関する分析」(2024年10月、食料・農業・農村政策審議会 食糧部会資料)
 https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokuryo/2410/attach/pdf/241030-5.pdf

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

-吉田太郎『シン・オーガニック-土壌・微生物・タネのつながりを取り戻す』(2024年7月、農山漁村文化協会)
 https://toretate.nbkbooks.com/9784540231674/

【ポイント】
 著者はいわゆる「スマート農業」的な有機農法ではなく、「自然への畏敬」を基底とする「ローカル、風土立脚型」の有機こそが重要と主張しています。

著者は1961年東京都生まれ。筑波大学大学院で地質学を専攻した後、埼玉県、東京都、長野県に農業関係の行政職員として勤務。この間、業務とは別に自ら有機農家で研修を受けたり、キューバの事例を調査・紹介したりするなど、有機農業の啓発普及に熱心に取り組んで来られた方です。定年退職後は晴耕雨読の生活を送りつつ、「フリーランサーとして好き勝手なことを言える人間にしか書けない」ものとして発表されたのが、この力作です。

本書の根幹をなしているのがp.16の図表です。これはSDGsへの寄与を横軸に、自然への畏敬の度合いを縦軸に取り、4つの各象限に様々な農法をプロットしたもので、右上に位置するのが農林水産省「みどりの食料システム戦略」(2021年5月)等が主張するAIやゲノム編集など新技術を活用することによる「グローバル、汎用型」有機農法です。著者はこれが現在の主流と認めつつ、右下に位置するマニュアル化・言語化が困難な「百姓の暗黙知」によってのみ体得しうる「ローカル、風土立脚型」の有機こそが重要と主張します。

そして著者は、膨大な先行研究等を引用しつつ、38億年に及ぶ「地球史・生命史」において有機農業の基盤である生態系(生きもの同士の関係性)がいかに形成されてきたかについて説き起こしていきます。「コモン菌根菌ネットワーク」「ワンヘルス」「大地再生農業」など最新の概念も解説しています。

しかしこれらは、著者によると、有機農業に取り組んできた多くの先人たちが「とっくに気づいて実践してきたこと」。著者が交流のあった篤農家たちの共通する姿勢は「自然に対して謙虚」で、生命、自然に対する「畏敬の念」があったそうです。
 そして著者は、スピリチュアル的な要素は排するとしつつも、研修先だった故 金子美登師(埼玉・小川町、2022年9月に急逝)が、本書の執筆を「天国から叱咤激励して手助けしてくれたと信じたい」と記しています。

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
 ○ 2025年が明けました。[1/1]
  https://food-mileage.jp/2025/01/01/blog-553/

○ PERFECT DAYS、一楽思想、ベリカフェ[1/13]
  https://food-mileage.jp/2025/01/13/blog-554/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

○ さとにきたらええやんSDGsいたばし連続講座
 日時:[映画会]1月19日(日)14:00~、[学習会]20日(月)19:00~21:00
 場所:板橋区蓮根地域センター(板橋区坂下2)
 主催:NPO SDGsいたばしネットワーク
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/ryo.mori.589/posts/pfbid0MMcq8NZoKGpUTSBuSYgP4UUxKoLJ3gAKSKbcx3SsPrTfhPMq3GsiC6EoLyBgwinQl

○ 吉田恵美子さんをしのぶ読書会
 日時:1月24日(金)19:00~21:00、25日(土)13:30~15:30
 場所:英治出版(東京・渋谷区恵比寿南1)
 主催:(一社)ふくしまオーガニックコットンプロジェクト
 (詳細、問合せ等↓)
 https://readyfor.jp/projects/148057/announcements/356707

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。今年も世界ぜんたいの平和と幸福を祈りつつ。
「無事に新年を迎えられたことに、感謝しなきゃね」
「重々、承知」
 同じ地平の先には、お節料理どころか新年を喜べない多くの方達がいることを忘れてはなりません。
 過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.309は1月29日(水)[和暦 元旦]に配信予定です。いよいよ和暦でも新しい年を迎えます。
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。先日、2025年版(今年も「北斎手帳」)を求めさせて頂きました。いつもありがとうございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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