【ブログ】『想いはこうして紡がれる』読書会、2025年第1回 車座座談会

2025年1月25日(土)の午後は、東京・恵比寿の英治出版の会議室をお借りして、吉田恵美子さんの遺作『想いはこうして紡がれる』の読書会が開催されました。
 私もオーガニック・コットンのボラバスツアー等で何度もお世話になった吉田さんは、昨年11月、がんのため逝去されました。67歳の若さでした。

 吉田さんの取組みを引き継がれた鈴木純子さん(主催者、進行役)をはじめ、大学時代の同級生の方、本の出版に伴走された方なども参加され、生前の吉田さんとの思い出などを交換し合うことができました。
 今でもすぐ近くから吉田さんが見守っていてくれるような感覚は、多くの方が共有していたようです。

市民活動に関心があってもなかなか踏み出せない方への吉田さんのメッセージを、多くの方に読んで頂きたいと思います。このような読書会も継続されるそうです。

さて、翌週1月29日(水)の終業後は、中央区の京橋区民館で開催された本年最初の「車座座談会」に参加。私は2023年9月以来と久しぶりの参加となりました。
 この日の参加者は20名ほど。
 いつものように膝を突き合わせるように車座になり、所属先や立場を離れて本音で語り合うざっくばらんな会です。

冒頭、高橋博之さんが「二地域居住と関係人口」等について想いを語られました(文責・中田)。
 高橋さんは「東北食べる通信」「ポケットマルシェ」等を立ち上げられ、現在は上場企業「雨風太陽」の代表であり、内閣府の有識者会議の委員など多くの公職も務められています。

「4月から有事法制(食料供給困難事態対策法)が施行される。食料供給が大幅に不足する時には農業生産者に増産等を要請できるようにするもの。ネットで盛り上がっていると聞いたので覗いてみると、投稿しているのは消費者ばかり。
 それで知り合いの農業生産者に意見を聞いてみると、今の生活を維持するので手いっぱいで増産どころではないと。平時においては十分な支援がないなか、いざという時だけ協力しろと言われても生産者は納得できないだろう」

 「都市住民は農業問題を自分ゴトとして捉えるだけではなく、行動に移していく必要がある。一方で都市住民の農村に対する期待は大きくなっており、二地域居住や関係人口という言葉も10年前には聞かれなかった」

以下、写真の一部は「車座座談会」事務局の方が撮影されたものです。

続いて高橋さんから一人ずつ順番に指名して、自己紹介など。能登の支援等を通じて高橋さんと顔見知りの方も多いようです(以下、発言順不同)。

 二地域居住のために富山・氷見に買った家が地震で半壊したという女性からは、住民票がないので罹災証明をもらうのも不便との発言。高橋さんも住民票の制度の弾力化が必要と応じられました。

 大学で高橋さんの講義をオンライン受講したという徳島出身の若い男性。
 高橋さんと同郷(岩手・花巻)の自衛官の男性は「国を守るためにも食べ物は重要」と発言。
 県議の経験もある高校教員の男性は、退職して4月から故郷の長崎で大学教員をされるそうです。
 出身地の福井で築40年の料亭を引き継いでリノベーションし、旅館として営業を始めたという建築士の男性。

仙台出身で、勤務したことのある鳥取も大好きという消防庁職員の女性。
 ネットのプラットフォームで災害情報の発信等を担当し、復興庁への出向経験もあるという初参加の男性。

 福岡出身で、福島等に支援に入っておられるデザイナー/ライターの女性は、大切なものを物々交換するイベントが楽しかったと紹介して下さいました。

 東北での支援活動の経験を踏まえて、ボランティアとのつながりが作れなかった地域は訪問者が減っていると話された方も。

 高橋さんからは
 「外部の人との交流が盛んな地域は元気。
 ただ、移住者に比べると、通っている人(関係人口)に対する地元の人の評価は低い。報われない。移住者と関係人口には上下はい」等のコメント。

左は(株)雨風太陽HP。右は(衆)農水委における法案審議の際の参考人質疑の様子(2024.5/9)。

故郷(輪島)が嫌で都会に出てきたという男性は、昨年の正月休みで帰省していた時に地震に遭い、朝市の街が燃えているのを目撃。後ろ髪を引かれる思いで東京に戻ってきた時の心情を吐露されました。
 輪島にボランティアで通っておられる女性は、いつも帰りの便は予約せずぎりぎりまで手伝っておられるようにしているとのこと。避難所のお母さんたちに声を掛けて作った染物のハンカチを見せて下さいました。桜の花びらで染めた、きれいな薄ピンク色のハンカチです。

能登の支援に通っておられる男性は、珠洲で作業員やボランティアのために続けていた旅館が9月の大雨で再び被災し、ご主人が犠牲になったという話を紹介して下さいました。
 これには高橋さんは沈痛な表情で
 「いい人から逝ってしまう。自分も、なぜまた能登が、と思ったが、これは神様が(酷な神様だが)もう一回、能登に目を向けろと言っているのだと納得するようにした」とコメント。
 さらに「能登には、お会いすると心が洗われるような心持ちがする人が多い。能登に通っているのは、自分自身のためでもある」とも。

農水省HPより。

私(中田)からは、対策法に関連して
 「ネットでは、配給制度が始まる、農家は強制的に増産を命じられ従わない農家は罰せられるといった不正確な情報が拡散されている。このような無責任な言説は日本の食料や農業のために有害でしかない。情報発信する人は、思い込みや反響狙いではなく、きちんと調べた上で正確な情報を発信してもらいたいと切実に思う」と発言。
 これに対して高橋さんからは
 「一律にSNSが悪い訳ではない。真偽不確かな情報を発信している人の動機が理解できない。おそらく満たされていないのだろうが、どうすればこのような人たちが満たされるのかと考えてしまう」との回答。

本年2~3月に予定されている「令和の百姓一揆」について話題提供された方も。
 これに対して高橋さんは
 「どれだけ消費者に響くかがポイント。従来とは異なるやり方が必要ではないか。ヨーロッパと異なり日本の消費者は農業や農村に対する理解が乏しい。農村に住んだことがない都市住民は、なかなか共感できないのではないか」等とコメント。

畜産関係の法人職員の男性は、ヨーロッパに勤務していた時、多くの農家から日本の産消提携のことを聞かれたというエピソードを紹介しつつ、
 「日本発祥の取組みが、なぜ現在の日本では廃れてしまっているのか。『食べる通信』やポケマルも新しいスタイルの産消提携だが、自分も新しい産消提携を盛り上げるために取り組んでいきたい」と決意を述べられました。

高橋さんからは
 「人には故郷が必要。現代の日本人の多くには故郷がなく、迷子のようになっているのではないか。移住しなくても移動するだけでも、故郷を作ることはできる。多くの友達ができる。友達が作った食べ物はありがたく、安くは買えなくなる」等の発言。

予定の20時30分を回り、すぐ近くにある中華料理屋さんでの懇親会(延長戦)へ。
 世の中にはネットの情報等が溢れていますが、玉石混交で、有用なものが多い一方で有害なものもあります。
 また、事務局の方も言っていた通り、少人数の会でないと伝わらないものもあります。特にデジタル化できない「想い」等は、空間を共有して直接顔を合わせてコミュニケーションすることによって初めて伝わるとも言われています(「暗黙知」の概念を提唱された野中郁二郎先生は、1月25日に89歳で逝去されました)。

 車座座談会は、このような情報交換と交流のための貴重な場です。今年も継続して開催される予定とのこと。ちなみに事務局のメンバーも募集中だそうです。

(2月4日追記)
 「農山漁村」経済・生活環境創生プラットフォーム設立記念シンポジウム(農林水産省主催)に、高橋さんが基調講演者・パネリストとして参加されました。
 「農産物を供給してくれている農山村は、都市住民にとっては正に命綱。農山村は、今やそこに住んでいる人だけでは維持していけない風前の灯火になっている。昨年改正された食料・農業・農村基本法でも『消費者の役割』が明記された。都会の消費者も観客席から降りて、プレーヤーとして農山村に関わり続けていくことが不可欠」等と熱く語られました。

(ご参考)
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
 https://food-mileage.jp/
 メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」
 https://www.mag2.com/m/0001579997