【ブログ】第4回 稲の多年草化栽培全国集会

2025年2月2日(日)の節分の日は、冷たい雨になりました。前夜までの雪の予報が外れたのは幸いでしたが。
 この日午前10時から神奈川・相模原市民会館ホールで開催されたのは、第4回 稲の多年草化栽培全国集会

 稲は毎年、苗を作って田植えして収穫するものと思い込んでいましたが、実は稲は、一度田植えすれば複数年にわたって収穫できる多年草とのこと。以前に提唱者である小川 誠さんの著書を拝読し、多年草栽培が実践されていることを知り驚いたことがあります。
 その小川さんによる報告と講演会が開催されると知人から教えてもらったので、参加することとしたのです。

ホールに入ると、1000人以上も入れそうな大きさに驚きました。
 悪天候にもかかわらず、会場には熱心な200名ほどが参加。ほぼ同じくらいの人数がオンラインで視聴しているそうです。

開会あいさつに続き、小川 誠さん((資)大家族)から『開かれた未知の自然の扉-稲の多年草化栽培』と題して報告。
 詳しいスライドの資料を配布して下っています(以下、文責・中田)。
 冒頭、「コロナ禍のなかで始まった全国集会も今年で4回目。2回目からこのホールで開催しているが、いい場所。いつか満員にしたい」と感慨深そうな様子です。

 「10年ほど稲の多年草化栽培に取り組んできたが、技術的にはほぼ完成。いもち病が発生しても分げつが旺盛でたくましい稲になる。耐病性ではなく、いもち病共生品種になったと言うべき」
 多年草化した稲株の写真も見せて下さいました。背丈は高く根は太く、何と茎数は178本もあるとのこと。 

「17年間、不耕起栽培を続けてきたため、土の中の根と菌糸類による栄養と情報のネットワークが発達している。多年草化栽培は省力化できるうえに収量も多く、従来の米づくりの常識を覆す農法」
 「『和み農』を実践。研修生たちも稲に優しい眼差し、言葉をかけている。目指しているのは自然との調和、全ての生きものとの共生。神様に感謝している」等と、やや体調を崩されているとのことですが、熱意のこもった力強いご報告でした。

続いて全国各地の実践者からの報告。
 熊本市、熊本・宇土市、徳島・神山町、静岡・伊東市、岡山市から来られた方が順番に壇上へ。
 いずれの方も、いわゆる「農家」ではなく、自然農や循環型のライフスタイルを目指して実践されている方のようです。都会から移住された方も2名ほど。

12時前に昼休み休憩。
 ロビーでの物販には長い列ができていました。小川さん、午後の講演者の高田宏臣さんの書籍のほか、多年草稲のお米や種もみなども。私も(勢いで?)イセヒカリの種もみを求めさせて頂きました。田んぼはないので、プランターかバケツで挑戦してみようと思います。

 注文してあったお弁当を会議室に移動して頂きました。食材には地元産の豚肉や卵、小川さんのお野菜が使われているそうです。
 近くにおられた実践報告者の何人かの方と名刺交換させて頂き、さらに話を伺うことができました。都内から静岡に移住されたご夫妻は電気まで自給されているとのこと。(米粉ではない)生米パンの普及活動もされているそうです。

13時に午後の部が再開。
 まず、小川さんと実践報告者全員が壇上に上がられ、昼休み前に提出された質問用紙をもとにして質疑応答と意見交換です。
 参加者は多年草栽培に関心のある方ばかりのようで、多くは実践的・技術的な質問です。

 私からは、一般農家による多年草栽培の実践状況についての質問を提出していたのですが、これについて小川さんは、
 「機械や資材使用が当たり前となっている一般農家に説明しても、関心を持たれることはない。むしろ経験のない、頭がまっさらな一般市民に広げていきたい。自分も収穫量を増やしてJA等に販売するようなことは考えていない」等の回答でした。

続いて、高田宏臣さん(NPO地球守 代表)による基調講演です。
 『ポスト・サピエンスの時代に向けて~土中環境の視点から』とのタイトル通りスケールが大きく、かつ、ご自身の実践や調査に基づく講演内容でした。

 「小川さんとは3回お会いし、田んぼも見せて頂いた。用水路にバイカモが生息しているのは、湧水など環境が良好に守られている証拠。生きものに向ける小川さんの優しい眼差しに感銘を受けた」
「土中環境とは、土壌(表層)のことだけではない。現在、土中環境の健康(水と空気と有機物の循環が健全であること)が崩れつつある。現代の土木は生物由来の有機物を排除している」
 「7年万年前の認知革命以降、人類は自然から大きく離れていった。農業革命により人類が自然を操作しようとするようになった。いま、生きものの集合体が命であることを認知する、第二の認知革命が止められている」等の内容でした。

視力・聴力の衰えもあってスライドの字は読みにくく、早口のため聴き取りにくい部分もあり、貴重な講演内容を十分に理解できなかったのは残念でした。

最後のプログラムは、高田さんと小川さんとの対談。

小川さん
 「10年間取り組んできても、まだ分からないことも多い。しかし実践から、多年草栽培は常識からは考えられない革新的な技術であると確信している。稲の様子も変化する。多年草化とは野生化かも知れない。生物多様性も。関心を持ってくれる人も増え、ますますワクワクしている」

高田さん
 「小川さんも5人の実践報告の皆さんも、楽しんでやっておられることが伝わってきた。自分が楽しまないと広がらない」

会場からは、高田さんにも、冬期たん水、田んぼの水が赤くなっている原因、大規模公共工事の是非等についての技術的・専門的な質問が多数出されました。
 高田さんは「本当は環境のためには大規模工事などやってほしくないが、やると決まったなら悪影響が出ないような施工方法はある。そのことに行政を含めて多くの人が気づいてきたことは希望」等と丁寧に回答されました。

予定の16時30分近くになり、小川さんから閉会の挨拶がありました。
 「長丁場の会に最後まで参加いただき感謝。今日、心に残った言葉を励みにして、これからも皆さんとともに稲の多年草化に取り組んでいきたい」との言葉に、会場からは大きな拍手。
 最後に会場の参加者を含めて全員で記念写真を撮影し、全てのプログラムが終了です。
 外に出ると、雨は上がっていました。

興味深いイベントでした。
 稲の多年草化とは単なる栽培技術にとどまらず、「和み農」という言葉に象徴されるように自然との調和、命への向き合い方の大切さを表していることを知りました。
 一方、食料安全保障の重要さが叫ばれる中で農家の減少・高齢化が進み荒廃農地が増える一方、政策面も含め有機農業等など循環型の農業に対する関心が高まっているなか、稲の多年草化栽培からは重要なヒントを得られるものと思って参加したのですが、この部分についてはやや期待外れでした。
 有機農業研究家の吉田太郎さんは、有機農業を語る時には極力スピリチュアル的な要素は排すことが必要としつつ、同時に過去は神秘的とされていた現象(化学肥料・農薬を使わない方がいい作物ができる等)のメカニズムが科学の進歩とともに解明されてきたことをご著書の中で指摘されています。
 稲の多年草化栽培のメカニズムについても、いつか科学的にも解明されることになり、一般の農家の間にも普及していく日が来るのかも知れません。

(ご参考)
 ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
 https://food-mileage.jp/
 メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」
 https://www.mag2.com/m/0001579997