◇フード・マイレージ資料室 通信 No.309◇
2025年1月29日(水)[和暦 元旦]
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◆ F.M.豆知識 いわゆる「時給10円」について
◆ O.カレント 令和の百姓一揆
◆ ほんのさわり 菅野芳秀『生きるための農業 地域をつくる農業』
◆ 情報ひろば ブログ更新、イベント情報等
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和暦でも元旦を迎えました。気持ちを新たに日々を過ごしていきたいと思います。今号は「令和の百姓一揆」の特集です。
本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。
◆ F.M.豆知識
食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/mame/
-いわゆる「時給10円」について-
【ポイント】
「時給10円」は統計的には問題のある数値ですが、いずれにしても農家の経済状態が厳しい状態にあることは事実であり、これに対する市民・消費者の理解が求められます。

「日本の農・漁家の時給は10円」という数値は、統計的には誤った使い方と言わざるを得ません。
これは農林水産省「営農類型別経営統計」の2022年の「水田作経営」について、農業所得を自営農業労働時間で除した数値であり、まず、日本の農家全体を表すものではありません。
また、労働時間には雇用者の労働時間を含んでいますが、雇用労賃は経費として農業粗収益から控除されており、収益と経費の差額である農業所得は含まれません。さらには、法人化している経営体(一戸一法人を含む。)の場合は、同様に労働時間には有給役員の労働時間を含み、農業所得には有給役員に対する給料、賞与、福利厚生費が含まれていません。
これらの問題があることを前提として、あえて「いわゆる時給」を示したグラフが添付先の図309です。
https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/02/309_jikyu.pdf
まず時系列にみると、2019、20年には1時間当たり約180円あったのが21年には10円へと大幅に減少し、22年も同額となりました。これは米価が低迷したことに加えて、原料等を輸入に依存している光熱動力費、肥料費等が高騰したためです。最新値である2023年は資材価格の落ち着きもあり97円へと回復しています。
これらは自家消費を主とする小規模農家等も含めた全ての経営体の平均値であり、主業経営体(農業所得が主で自営農業に60日以上従事している65歳未満の者がいる個人経営体。いわゆる「米でメシを食っている農家」)は892円となっています。
さらに水稲作付面積規模別にみると、5ha未満の農家は430円の赤字となっているのに対して、5~50haでは1000円前後の水準となっています。なお、50ha以上の大規模層では500円弱となっていますが、これは多くの雇用者がおり、法人化している経営体が多いためと考えられます。
以上のように「いわゆる時給10円」は、日本農業(特に担い手)の実態を代表しているものとは言えません。ショッキングで分かりやすい数値ばかり強調し、これが一人歩きすることは好ましくありません。
しかしながら、あえて「時給」などを無理に計算するまでもなく、日本の稲作農家の経済状態が厳しいことは間違いありません。主業経営体にしても、平均して3.5人の従事者により農業所得は270万円(2023年)にとどまっており、このような現状に対する市民・消費者の理解が求められます。
[データの出典]
農林水産省「営農類型別経営統計」から作成。
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukei/einou/index.html
◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/pr/
-令和の百姓一揆-
【ポイント】
本年2~3月に計画されている「令和の百姓一揆」の成否は、いかに多くの市民・消費者が賛同し参加するかにかかっています。

本年2月から3月、東京都心において「令和の百姓一揆」が挙行されます。農業生産の現場の窮状を広く都会の市民に訴えようと、全国の農業者たちが立ち上がろうとしているのです。
まず、2月18日(火)には衆議院議員会館(東京・千代田区永田町)で院内集会が開催され、各地の生産者からの状況報告、国会議員等との意見交換等が予定されています。
また、3月30日(日)には、青山公園南地区(港区六本木)をスタート地点とするトラクター行進が予定されています。これは昨年、欧州の多くの国で行われた農民デモを参考にしたもののようです。パリやベルリンでは道路が封鎖されるなど一般市民の社会生活にも大きな影響がありましたが、大きな批判等がなかったのは、一般市民の農業に対する理解(シンパシー)が高いためと考えられます。
これに比べると、今回の日本の「一揆」については、実行委員には一部の消費者団体は名を連ねているものの、大多数の市民・消費者(私もその一人ですが)は、あまりに農業の現場(産地、生産者)のことを知りません(知ろうとさえもしません)。
今回の「一揆」については、いかに多くの消費者が賛同し、参加するかが成否のカギになると個人的には考えています。主催者は「農業と食、次世代の子どもたちの健康を守るために、一緒に立ち上がりましょう」と訴えています。
子どもさん達には、でっかいトラクターを目近に見られる(触れられる?)楽しい機会になるかも知れません。多くの方の賛同と参加を期待します。
参考
令和の百姓一揆実行委員(FBページ)
https://www.facebook.com/people/%E4%BB%A4%E5%92%8C%E3%81%AE%E7%99%BE%E5%A7%93%E4%B8%80%E6%8F%86%E5%AE%9F%E8%A1%8C%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A/61571764336699/
◆ ほんのさわり
食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
(過去の記事はこちらに掲載)
https://food-mileage.jp/category/br/
-菅野芳秀『生きるための農業 地域をつくるための農業』(2024年11月、大正大学出版会)
https://www.tais.ac.jp/guide/research/publishing/chiikijin_list/002/
【ポイント】
「令和の百姓一揆」実行委員会代表による、悪戦苦闘する農業の現場からの「ホンネ」の報告であり、消費者・生活者に連携を呼び掛けています。

著者は1949年生まれ。山形・長井市で稲作5haと養鶏を中心に営み、全国的に見ても先進的なレインボープランや置賜自給圏構想など地域循環の取組みを立ち上げられた方で、今回の「令和の百姓一揆」実行委員会の代表も務められています。
本書は雑誌『地域人』(立正大学地域構想研究所)に2015年頃から連載されたエッセイを再構成したもので、悪戦苦闘する農業の現場からの「ホンネ」が記されています。
農がなければ誰も生きられないなのに、カロリーベース食料自給率が38%に過ぎない日本において、今まさに日本農業が崩れつつあるとのこと。これまで日本の農業と農村の地域社会を担ってきた農家の多くが、「農仕舞い」(離農)を始めているというのです。
その最大の原因は、農産物(特に米)の過酷過ぎるほどの安さ。効率性だけを追う無責任な農政が自国の農業を破壊していると、著者は怒りをストレートに表わします。
しかし著者は絶望しません。
「俺たち百姓の時代的役割は、いままで培ってきた農と暮らしの知恵を生かし、地域の足元から生活者と連携し、ともに生きるための農業をつくりだしていくこと」とし、「生産者も消費者もなく、同じ課題を分かち合う仲間として、もっと希望を伴った農の話をしよう」と訴えておられるのです。
[参考]
山形放送制作「時給10円という現実~消えゆく農民~」
菅野さんも出演するテレビ番組で、全国放映されます。ぜひご覧ください。
https://www.minkyo.or.jp/program/special/39/
◆ 情報ひろば
拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。
▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
○ いまあらためて「なぜ有機農業」?[1/21]
https://food-mileage.jp/2025/01/21/blog-555/
○ 『さとにきたらええやん』上映会と学習会[1/25]
https://food-mileage.jp/2025/01/25/blog-556/
▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します(敬称略)。
参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。
〇 内発的発展論と生命誌論を参照軸とした開発原論・農学原論」
講師:西川芳昭(龍谷大)
日時:2月1日(土)14:30~16:00
場所:オンライン
主催:縮小社会研究会
(詳細、問合せ等↓)
http://shukusho.org/data/85announcement.pdf
〇 第4回 稲の多年草化栽培 全国集会
日時:2月2日(日)10:00~16:45
場所:相模原市民会館(神奈川・相模原市)
主催:稲の多年草化栽培 全国集会 実行委員会
(詳細、問合せ等↓)
https://perennialrice2025.peatix.com/
〇 「風景をつくるごはん」のススメ
講師:真田純子(東京科学大)
日時:2月8日(日)10:30~12:30
場所:生活クラブ館(東京・世田谷区宮坂)
主催:NPO法人コミュニティスクール・まちデザイン
(詳細、問合せ等↓)
https://cs-machi.com/shimokouza3/
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*米令寺忽々のコツコツ小咄。世界ぜんたいの平和と幸福を祈りつつ。
「合成麻薬や不法入国者を送ってくる国には、制裁を加えるのだ!」
「本気ですか、大統領?」
「勧善(関税)懲悪なのだ!」
寛容性、多様性、包摂性を否定する超大国の新大統領って・・・
過去のアーカイブは以下に掲載しています。
https://food-mileage.jp/category/iki/
* 次号No.310は2月12日(水)[和暦 睦月十五旦]に配信予定です。
正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです。
https://food-mileage.jp/contact/
* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いよいよ2025年版を使い始めました。
https://www.lunaworks.jp/
* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】
発行者:中田哲也
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