【豆知識】いわゆる「時給10円」について

【ポイント】
 「時給10円」は統計的には問題のある数値ですが、いずれにしても農家の経済状態が厳しい状態にあることは事実であり、これに対する市民・消費者の理解が求められます。

「日本の農・漁家の時給は10円」という数値は、統計的には誤った使い方と言わざるを得ません。
 これは農林水産省「営農類型別経営統計」の2022年の「水田作経営」について、農業所得を自営農業労働時間で除した数値であり、まず、日本の農家全体を表すものではありません。
 また、労働時間には雇用者の労働時間を含んでいますが、雇用労賃は経費として農業粗収益から控除されており、収益と経費の差額である農業所得は含まれません。さらには、法人化している経営体(一戸一法人を含む。)の場合は、同様に労働時間には有給役員の労働時間を含み、農業所得には有給役員に対する給料、賞与、福利厚生費が含まれていません。

これらの問題があることを前提として、あえて「いわゆる時給」を示したグラフが添付先の図309です。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/02/309_jikyu.pdf

まず時系列にみると、2019、20年には1時間当たり約180円あったのが21年には10円へと大幅に減少し、22年も同額となりました。これは米価が低迷したことに加えて、原料等を輸入に依存している光熱動力費、肥料費等が高騰したためです。最新値である2023年は資材価格の落ち着きもあり97円へと回復しています。
 これらは自家消費を主とする小規模農家等も含めた全ての経営体の平均値であり、主業経営体(農業所得が主で自営農業に60日以上従事している65歳未満の者がいる個人経営体。いわゆる「米でメシを食っている農家」)は892円となっています。

さらに水稲作付面積規模別にみると、5ha未満の農家は430円の赤字となっているのに対して、5~50haでは1000円前後の水準となっています。なお、50ha以上の大規模層では500円弱となっていますが、これは多くの雇用者がおり、法人化している経営体が多いためと考えられます。

以上のように「いわゆる時給10円」は、日本農業(特に担い手)の実態を代表しているものとは言えません。ショッキングで分かりやすい数値ばかり強調し、これが一人歩きすることは好ましくありません。

しかしながら、あえて「時給」などを無理に計算するまでもなく、日本の稲作農家の経済状態が厳しいことは間違いありません。主業経営体にしても、平均して3.5人の従事者により農業所得は270万円(2023年)にとどまっており、このような現状に対する市民・消費者の理解が求められます。

[データの出典]
 農林水産省「営農類型別経営統計」から作成。
 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noukei/einou/index.html

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出典:
 F.M.Letter-フード・マイレージ資料室 通信-pray for peace.
  No.309、2025年1月29日(水)[和暦 元旦]
  https://food-mileage.jp/2025/02/10/letter-309/

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