【メルマガ】F.M.Letter No.310-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.310◇
  2025年2月12日(水)[和暦 睦月十五日]
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◆ F.M.豆知識  就業者一人当たり所得等の産業間比較
◆ O.カレント  「一揆」とは
◆ ほんのさわり 田中優子『一揆を通して社会運動を考える』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 北日本・日本海側が記録的な大雪に見舞われる中、東京地方は寒いものの申し訳ないほどの好天が続いています。今号は引き続き「一揆」についてです。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

-就業者一人当たり所得等の産業間比較-

【ポイント】
 マクロ統計により就業者一人当たり純生産をみると、第一次産業は他産業に比べて4分の1程度の低い水準で推移しています。

前号では、水田作経営の農業所得が全経営体平均で10万円、主業経営体でも270万円と低い水準にあることを紹介しましたが、今号では個別経営に着目したミクロの統計ではなく、マクロ統計から産業間の所得等の比較を試みます。
 ここでいう「所得等」とは「国内純生産」のことで、付加価値額である国内総生産(産出額-費用)から固定資本減耗を除いた数値であり、雇用者報酬、経営主の労働報酬、企業の営業余剰等から構成されます。つまり、就業者の所得だけではなく企業の利潤等が含まれています。
 リンク先の図310は、就業者一人当たりの国内純生産について、1994年以降の産業別の推移を示したものです。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/02/310_junseisan.pdf

これによると、2023年の就業者一人当たりの所得等は637万円となっており、第2次産業(製造業等)、第3次産業(サービス業)もほぼ同水準にあります。これらに対して、第一次産業(農林水産業)は157万円と約4分の1という低い水準にとどまっています。この格差は、1994年以降、ほとんど変わっていません。

なお、1994~2023年の間で就業者一人当たり所得等は全産業平均で6.4%増加しているなか、第一次産業については20.9%と相対的に大きく伸びています。しかしこれは、所得等が約42%減少している一方で、就業者数がそれを上回って減少(52%)しているためです。
 このようにマクロ統計からみても、一次産業の所得等は低位で推移していることが確認されます。

[データの出典]
内閣府「国民経済計算(GDP統計)」(フロー編付表(2)及び(3))から作成。
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2023/2023_kaku_top.html

◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

-「一揆」とはなにか-

【ポイント】
 一揆の本来の意味は「意識や行動をともにするグループ・組織」のことであり、武力による階級闘争や革命というイメージが付加されたのは近年(1960~70年代)のことです。

(画像は下記の「参考文献」より。)

「揆」という字にはもともと「はかる」という意味があり、派生して「教え」「方法」等の意味を含むようになりました。「一揆」という熟語は平安時代には単に「同一である」、鎌倉時代になると「心を一つにして」「一致団結して」という意味で使われるようになったそうです。つまり一揆とは、本来、意識や行動をともにするグループ・組織のことを意味していました。
 また、構成員の平等性主義が貫かれていることも特徴で、有名な傘連判状という署名形式も、首謀者が特定されないようにとの配慮だけではなく、参加者同士の対等性を表したものだそうです。

 江戸時代の百姓一揆も、初期は直訴や逃散といった非暴力的なものでしたが、中期から幕末にかけては大規模化し、強訴や打ちこわしといった実力行使も伴うようになりました。ただ、その場合でも刀や鉄砲など武器は使用されず、もっぱら鋤や鍬が用いられたとのこと。
 一揆の要求は、あくまで「お上」が「仁政」を取り戻すことにありました。一揆に武力による階級闘争や革命というイメージが付加されたのは1960~70年代以降で、これは現在は歴史学会でも否定されているようです。さらに一揆の象徴のようにイメージされている「竹槍蓆(むしろ)旗」についても、明治の自由民権運動者が前時代を否定するために作りだした虚像とのことです。
 なお、大規模な一揆が広がった時代は、天候不順による飢饉があったことも指摘されています。食糧不足は、いつの時代も(例えば2010年代の「アラブの春」も)政情不安につながるのです。

[参考文献]
呉座勇一『一揆の原理』(2015年12月、ちくま学芸文庫)
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480096975/
若尾政希『百姓一揆』(2018年11月、岩波新書)
 https://www.iwanami.co.jp/book/b378376.html

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

-田中優子『一揆を通して社会運動を考える』(田中編『そろそろ「社会運動」の話をしよう』(2019年4月、明石書店)所収)
 https://www.akashi.co.jp/book/b450429.html

【ポイント】
 江戸時代の百姓一揆と現代の社会運動とは様々な面で異なるものの、多様な人々がこの社会に生きるために何が必要かについて学ぶところは多いとしています。

著者は1952年横浜市生まれの法政大学名誉教授(江戸文学、江戸文化論)。
 本書は2011年から法政大学社会学部で実施している連続講義「社会を変える実践論」の記録です。
 このユニークな講義の狙いは、様々な問題に当事者として直面した時に、自分ゴトとして考え、行動し、その解決に向けて行動する方法を学ぶというもの。
 毎回、学生たちは講義を受けた後にグループで議論するのですが、学生たちの本音の多くは「自分の生活で精一杯」「自分が行動してもどうせ何も変わらない」「誰かが何とかしてくれる」「不満を言わないことが美徳」といったもの。デモについても迷惑行為、怖いものとして見下す傾向があるそうです。
 1960~70年代の学生運動が内部分裂して多くの人から見放されたことも、

そこで田中先生は、江戸時代の百姓一揆と比較しながら現代の社会運動を考えるという講義を担当しました(第3章)。
 江戸時代には権利や人権という概念はなく、一揆は必要に駆られて行われたものでした。打ち首覚悟で自分たちのコミュニティと農業生産を維持しようと立ち上がったもので、具体的な目的(起請文)や交渉相手(庄屋、商人、代官、藩主等)は明確でした。また、当時は農民が人口の8割を占めるなど生産と経済活動の主体であり、彼らなしでは藩も幕府も成り立たなかったのが実情でした。
 一方、現代の社会運動は、直接的な目的の実現というよりは多くの人々を巻き込むこと(世論の喚起)を目的とすることが多く、したがっていかに社会の賛同が得られるかがポイントとしています。

 社会運動の目的とは、選挙制度では拾いきれない少数の主張・意見を取り上げ、多様性のある社会を実現すること。そして社会運動は民主主義を補強し、多様性に価値観を置く社会を作る上で重要で、議論の場を作り続けることが必要ともしています。

 今回の「令和の百姓一揆」の成否も、いかに多くの都市住民、消費者の共感と参加が得られるかにかかっていると思われます。私も都会に住む一市民として、3月30日(日)のトラクター行進当日には手づくりのプラカードを持って参加したいと思っています。

[参考]令和の百姓一揆実行委員会(FBページ)
https://www.facebook.com/people/%E4%BB%A4%E5%92%8C%E3%81%AE%E7%99%BE%E5%A7%93%E4%B8%80%E6%8F%86%E5%AE%9F%E8%A1%8C%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A/61571764336699/

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 『想いはこうして紡がれる』読書会、2025年第1回 車座座談会[2/3]
 https://food-mileage.jp/2025/02/03/blog-557/

〇 第4回 稲の多年草化栽培全国集会[2/4]
 https://food-mileage.jp/2025/02/04/blog-558/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します(敬称略)。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

〇 今夜もご機嫌@銀座で農業 2月
 日時:2月13日(木)10:00~16:45
 場所:中央区立環境情報センター(東京・京橋)
 主催:今夜もご機嫌 銀座で農業
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/s/%E4%BB%8A%E5%A4%9C%E3%81%AF%E3%81%93%E6%A9%9F%E5%AB%8C%E9%8A%80%E5%BA%A7%E3%81%A6%E8%BE%B2%E6%A5%AD-2%E6%9C%88/1136022401500398/

〇 都市住民は“食べ手”にも”作り手“にもなれる!
 ~都市から考える「農的社会」~  
 講師:蔦谷栄一、榊田みどり
 日時:2月27日(木)10:30~12:30
 場所:生活クラブ館(東京・世田谷区宮坂)及びオンライン
 主催:CSまちデザイン
 (詳細、問合せ等↓)
 https://cs-machi.com/shimokouza4/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。世界ぜんたいの平和と幸福を祈りつつ。
 小麦畑での農業体験会にて。
「今日の作業の説明は以上です。皆さん、分かりましたか」
「ふむ、ふむ(踏む踏む)」

 過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.311は2月28日(金)[和暦 如月朔日]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(連絡先)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。いつも有難うございます。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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