2025年2月27日(木)は休暇を頂き、東京・世田谷へ。小田急経堂駅の改札脇には「駅ナカ絵本交換スペース」があります。
不要になった本を持って行くと、代わりに1冊を持ち帰れるとのこと。ちなみに向かい側にはなかなか充実した図書館もあります。
この日10時30分から開催されたのは、NPO法人コミュニティスクール(CS)まちデザイン主催の「食と農の未来を考える連続講座」の2回目、「都市住民は“食べ手”にも”作り手“にもなれる!~都市から考える『農的社会』~」。
会場、オンラインそれぞれ10名ほどが参加されています。

この日の講師は榊田みどりさん(農業ジャーナリスト、明治大学客員教授)と蔦谷栄一先生(農的社会デザイン研究所)。お二人のスライドを印刷した資料のほか、詳しい補足資料も配って下さっています。
まず榊田さんから「改正『食料・農業・農村基本法』の基礎知識」と題して説明がありました(以下、文責・中田)。
「昨年、基本法が改正され、3月末には新しい基本計画が公表される予定だが、都市住民が考えるべきことが多いのではないか。国に任せきりでいいのかと思っている」
「現場を回っている記者としては、今回の基本法・基本計画(骨子)については、本当に現実性があるのか、現場を見ているのか疑問。日本の農業、担い手の減少はすでに危機的状況にある。生産性向上どころか、使い切れなくなる農地をどうするかが最大の課題になりつつある」
「慢性的な労働力不足、生産コストの急上昇と所得の急減も深刻。世界最大の人口集積地・東京のカロリー自給率は0%。食品値上げで消費者も大変だが農家も大変で『令和の百姓一揆』も予定されている」
「これまでの生協のような『食べ支える』運動だけでは、農業が維持できなくなるかもしれない時代が来ている。提携は相手(生産者)がいるのが前提。首都圏に住む私たちにできることは、まず身近な都市農家とつながり、『食べ手』も自ら耕す(プロシューマ―になる)。さらに首都圏外との農家・農村とも『関係人口』としてつながることが、等身大の食と暮らしの安全保障になる」等の内容でした。

続いて蔦谷先生から、「 都市住民は“食べ手”にも”作り手“にもなれる!~都市から考える『農的社会』~」と題して講演。
「食べ方は生き方に通じる。理屈よりも実践が重要と考えており、ざっくぱらんな意見交換ができれば」との前置きの後、以下のようなお話がありました。
「純農村地帯(母親の実家があった愛知・豊橋)で育てられたのがよかった。就職の時も農業以外の選択肢は考えられず、農林中央金庫に就職し、農業基本法の見直しの議論が行われている頃(1996年)に研究所に転じた。これまで飼料用米・稲、環境保全型農業、都市農業等のテーマに取り組んできた」
「山梨・牧丘町(現・山梨市)で週末農業・二地域居住を実践しつつ、子どもたちの田舎体験教室も実施。子ども達に未来を、将来世代に健康な地球を残したいとの思いで、2013年に『農的社会デザイン研究所』を設立した」
「『農』は生命優先。現代社会が生きにくくなっているのは、近代化により個人が分断され地域コミュニティが喪失したため。このまま自然と離反していくと本質的な危機を迎えることになる。これに対抗していくために『農的社会』が重要」
「コミュニティがあって初めて農業という産業は継続可能。キーワードは持続性、その本質は自然循環。自然の有難さを人間は忘れてしまっている」
「世界ではアグロエコロジーの概念が広がりつつあるが、その最終的な目標は循環型社会、食の公正さ・民主主義等で、有機農業はひとつのステップに過ぎない」
「農業の危機を回避するためには、消費者・国民の理解が不可欠。『令和の百姓一揆』では消費者も一緒に行動し、所得補償などの政策転換を訴えてもらいたい。昨年のEUの大規模トラクターデモ等の背景には消費者・国民の理解がベースにある」
「豊かで多様な自然環境のなかで日本の農業は形作られてきた。これは“日本の宝”に他ならない。反農耕、あえて耕さなかった縄文時代に学ぶことも多いのではないか」
「現在は大農(大規模農家、担い手)と消費者が二極分化している。その間をつなぐための小農(生業としての農)、生産消費者(若干の自給)が必要。
近代化以前は農(生業)と農業(産業)は一体だった。それが近代化以降現在まで農業の範囲が拡大してきた。未来は再び農業を縮小し、農の範囲を広げていくことが必要」
「日本の都市には、世界でもまれなほど農地が残されている。消費者の近くにある都市農業・農地は日本農業のモデルでもある。身近に農地・農業があることで、消費者の農業や自然の大切さに対する理解が進む。私の地元近くでも都市住民との交流活動に取り組んでいる農家の方がいる。都市農業・農地という“宝”を、みんなで知恵を総動員して何とか残していかなければならない」

12時10分過ぎから質疑応答、意見交換。
この日は白石好孝さん(東京・練馬区、大泉 風のがっこう)も参加されていました。蔦谷先生から感想と意見を求められた白石さんは
「都市農業に対する施策も徐々にではあるが充実してきており、追い風が吹いていると感じている。わが家は農業生産の担い手として規模拡大を目指すと同時に、体験農園など地域住民との交流も行っている。理解・共感して下さる地域住民の方も増えてきた」
「以前は農業をやろうという子弟はほとんどいなかったが、現在は農大等で学んできて就農する後継者も多く、周りを見ても意欲のある農家が増えてきている。3年前の生産緑地制度見直しの時も92%が継続した。7年後も地域の180haの農地のうち150haは残るように取り組んでいきたい」等と、現場の実情についてお話して下さいました。
オンラインでの参加者の方(東京・府中市)からは、納屋などの相続についても特例がないと農業が続けられない現状にあるのではと質問。
蔦谷先生からは「生産緑地については行政による買い取り、物納といった制度もあるのだがほとんど実例がない。いったん地域の農家に買ってもらってコミュニティーファームを開設するなど、現在の制度の下でどのような対応が可能か、みんなで知恵を出し合いながら共有していきたい」等の回答がありました。

予定を10分延長して、講座は終了です。
せっかく蔦谷先生が準備して下さった充実した資料は、時間の関係で説明を飛ばしてしまったページが多かったのが残念でした。榊田さんの話も含めて、ぜひ改めて泊まり込み等でじっくりと講演と意見交換を行ってもらいたいと、参加者アンケートに記入して提出しました。
終了後は蔦谷先生、榊田さん、白石さん達と生活クラブ館内にあるカフェ&ダイニングでランチ。平牧三元豚のハンバーグランチを頂きながら、引き続き様々なお話をさせて頂きました。オンラインではなく、直接、対面した方が何倍も楽しく充実します。
皆さま、有難うございました。
蔦谷先生始めご多忙な皆さまとは異なり、私は午後は特段の予定もなく、先日、講演会(「彦根藩世田谷領の人々と桜田門外の変」)を聞いたばかりだったので、徒歩で豪徳寺を訪ねてみることに。春が本格化したような陽気です。
境内の広い世田谷八幡宮に参拝し、東急世田谷線の踏切を渡ります。

平日にもかかわらず、豪徳寺は外国人を始めとする観光客で大賑わい。奉納所の棚には、おびただしい数の招き猫。それをバックに記念撮影する多くの観光客。
しかし奥まったところにある井伊家の墓所には、ほとんど人はいませんでした。
直弼公の墓所に参拝。早くもミツマタの花が満開になっていました。

2025年も気が付くと間もなく3月、年度末を迎えつつあります。
(ご参考)
ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」
https://food-mileage.jp/
メルマガ「F.M.Letter-フード・マイレージ資料室通信」
https://www.mag2.com/m/0001579997