【メルマガ】F.M.Letter No.311-pray for peace.

◇フード・マイレージ資料室 通信 No.311◇
 2025年2月28日(水)[和暦 如月朔日]
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◆ F.M.豆知識  原発事故等による避難者数の現状
◆ O.カレント  原子力被災自治体における住民意向調査
◆ ほんのさわり 赤坂憲雄『東北学/忘れられた東北』
◆ 情報ひろば  ブログ更新、イベント情報等
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 2011年3月11日の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故から、間もなく丸14年を迎えます。特定の時期だけの「年中行事」にはしたくありませんが、今号は福島、東北にこだわります。全くの偶然ながら、今号の本メルマガはNo.311です。
 本メルマガは、時の流れを体感するため、和暦の朔日(新月)と十五日(ほぼ満月の日)にコツコツと配信しています。

◆ F.M.豆知識
 食や農に関連して、私たち消費者にちょっと役に立つ、あるいは考えるヒントになるデータ等をコツコツと紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/mame/

-原発事故等による避難者数の現状-

【ポイント】
 現在も福島県から少なくとも約2万6千人が県内外に避難しており、1年半前からほとんど減少していません。

一昨年11月に配信したNo.280では2023年5月時点の数値を紹介しましたが、今号ではそれから1年半後(2024年11月)の状況を紹介します。
 まず、避難指示が出された区域の面積については、2011年4月時点では福島県の面積の12%を占めていたのが現在は2.2%(約300平方km)にまで縮小していますが、1年半前から変化はなく、現在も東京都23区の面積の半分に相当する国土が喪われたままになっています(ちなみに尖閣諸島と竹島を合計した面積と比べると約50倍になります)。

次に、避難者数の推移を示したものがリンク先の図311です。
 https://food-mileage.jp/wp-content/uploads/2025/02/311_hinan.pdf

これによると、2012年には約16万5千人(うち県外避難者が約6万2千人、県内避難者が約10万3千人)いた避難者は、2024年には約2万6千人(同約2万人、6千人)へと減少していますが、1年半前と比べると1401人の減少(同1019人、391人)にとどまっています。なお、少数ですが避難先不明者もいます(2024年11月で5人)。なお、県内避難者の方が大きく減少していますが、自ら自宅を取得または復興公営住宅等に入居した人数は避難者数には計上されていません。
 また、福島県の人口に占める避難者数の割合は、2012年の8.3%から2024年の1.5%へと低下しているものの、近年はほぼ横ばいとなっています。

既に避難先に生活基盤ができている人も多いものの(次の「オーシャン・カレント欄」参照)、いずれにしても原発事故により不本意な避難を強いられている方が、現在も約2万6千人もおられることは忘れてはなりません。
 ちなみに先日(2月18日)閣議決定された第7次「エネルギー基本計画」では、従来あった「可能な限り原発依存度を低減する」との表現は削除され、「原子力を最大限活用」するとされています。

[データの出典]
福島県「復興・再生のあゆみ」(各年版)からから作成。
 https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-fukkoukeikaku1151.html
[参考]
資源エネルギー庁HP「エネルギー基本計画」について
 https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/

◆ オーシャン・カレント-潮目を変える-
 食や農の分野で先進的かつユニークな活動に取り組んでおられる方や、食や農に関わるトピックスを紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/pr/

-原子力被災自治体における住民意向調査-

【ポイント】
 復興庁による住民意向調査によると、避難者の半数は「戻らないと決めている」と回答しています。

図の出典:復興庁HP「原子力被災自治体における住民意向調査」から双葉町、浪江町の結果の一部。

復興庁では、原子力災害による避難住民の早期帰還・定住に向けて、東電福島第一原発周辺の自治体に住民登録している世帯の代表者を対象に意向調査を行っています。2024年度に行われた調査結果については、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町について速報版が公表されています。
 これによると「すでに戻って生活している」者は2.6%(双葉町)~11.5%(富岡町)と避難指示解除の時期による差が大きく、「戻りたい」と回答した者はおおむね10%前半に、「まだ判断がつかない」とする者が20%前後となっています。

これらに対して、4町いずれにおいても「戻らないと決めている」と回答した者がほぼ50%を超えています。
 「戻らないと決めている」理由(複数回答)を聞いたところ、「すでに生活基盤ができているから」が約59%、「避難先の方が生活利便性が高いから」が約40%あり、一方、「元の住家を解体しており戻る家がないから」が約37%(特に帰還が進んでいない浪江町では51%、双葉町では45%)となっています。
 この意向調査結果からは、今後、避難者の帰還が順調に進むとは必ずしも見込まれないこと、非自発的なやむを得ない理由から「戻らないと決めている」方も多いという事情が伺えます。

[データの出典]
復興庁HP「原子力被災自治体における住民意向調査」
 https://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/ikoucyousa/

◆ ほんのさわり
 食や農の分野を中心に、考えるヒントとなる本を紹介します。
 (過去の記事はこちらに掲載)
 https://food-mileage.jp/category/br/

-赤坂憲雄『東北学/忘れられた東北』(2023年6月、岩波現代文庫)
 https://www.iwanami.co.jp/book/b626374.html

【ポイント】
 著者は濃密な東北の「野辺歩き」を通じて、「単一の瑞穂の国」ではない「いくつもの日本」を発見しました。

著者は1953年東京生まれの民俗学者で、東日本大震災と東電福島第一原発の事故が起こった当時は福島県立博物館長を務められていました。
 著者は約30年前に東北に拠点の半ばを移し、ひたすら歩く・見る・聞く「野辺歩き」の旅を通じて、東北の風景の濃密さに息苦しいほどの興奮を覚えたそうです。この経験が、後に「東北学」を提唱するエネルギーとなりました。
 本書では一貫して、日本の民俗学の開拓・確立者である柳田国男に対して批判的な考察が加えられています。すなわち、柳田の民俗学を「瑞穂の国の民俗学」と断じ、旅を通じて「東北は瑞穂の国であるという柳田の呪文が詐術めいたものに変じた」としているのです。
 著者によると、稲(米)は古代律令制の成立以来、常に国家の租税体系の中心に置かれ、東北でも稗(ひえ)などの雑穀栽培から、風土が適しているとは言えない稲作に転換されられました。それが大規模な飢餓(ケガチ)と百姓一揆を招いた原因であると考察しています。
 1993年の大冷害の様子については、著者は実際に体験したものとして本書に描かれています。
 ちなみに著者は雑穀という言葉を、穀物のヒエラルキーの頂点に米を位置付けた蔑称であるとしています。著者は東北の旅を通じて、「単一の瑞穂の国」ではない「いくつもの日本」を発見したのです。

東日本大震災と原発事故の後は、著者は被災地をひたすら歩き続ける旅を続けています。2011年9月のインタビューでは、「福島からの脱原発の流れははイデオロギーではなく、生存の危機にさらされている無数の命の叫び声のようなもの」と答えられています。
 また、2020年には甚大な津波被害を受けた岩手・田野畑村を訪ね、原発誘致への反対運動の先頭に立った女性(震災から4年後に97歳で逝去)を偲びつつ、民俗資料館で三閉伊一揆の資料を見学されたそうです。

[参考]
奥会津ミュージアムHP「館長のつぶやき」
 https://okuaizu.design/director-tweets/3114/

◆ 情報ひろば
 拙ウェブサイトやブログの更新情報、食や農に関わる各種イベントの開催情報等をお届けします。

▼ 拙ブログ「新・伏臥慢録」更新情報
〇 風景をつくるごはん、「今夜はご機嫌」2月の会[2/16]
 https://food-mileage.jp/2025/02/16/blog-559/

〇 「坂の上の雲」スタンプラリー[2/17]
 https://food-mileage.jp/2025/02/17/blog-560/

〇 食べものの「合理的な価格」について[2/25]
 https://food-mileage.jp/2025/02/25/blog-561/

▼ 筆者が関心のあるイベント等を勝手に紹介します(敬称略)。
 参加等を希望される際には、必ず事前に主催者にお問い合せ下さい。

〇 研究会「お米と稲作の歴史を振り返り、未来を考える」
 講師:長谷川 浩 理事
 日時:3月1日(土)15:00~17:30
 場所:同志社大学烏丸キャンパス(京都市上京区)及びオンライン
 主催:縮小社会研究会
 (詳細、問合せ等↓)
 http://shukusho.org/data/86announcement.pdf

〇 第113回奥沢ブッククラブ-パトリシア・ハイスミス『11の物語』
 日時:3月10日(月)19:00~21:00
 場所:オンライン
 主催:奥沢ブッククラブ
 (詳細、問合せ等↓)
 https://www.facebook.com/events/985894286796033/

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*米令寺忽々のコツコツ小咄。世界ぜんたいの平和と幸福を祈りつつ。
「柳川鍋って、自然農法と同じだね」
「えっ、どういうこと?」
「どちらも、ドジョウ(泥鰌、土壌)が主役ですから」

 過去のアーカイブは以下に掲載しています。
 https://food-mileage.jp/category/iki/

* 次号No.312は3月14日(金)[和暦 如月十五旦]に配信予定です。
 正確でより役に立つ情報発信に努めていきますので、読者の皆さまのご意見、ご要望をお聞かせ頂ければ幸いです(このメールに返信頂ければ筆者に届きます)。

* 和暦については、高月美樹さん『和暦日々是好日』を参考にさせて頂いています。如月の扉ページは北斎による鳥や蜂の絵です。
 https://www.lunaworks.jp/

* 本メルマガは個人の立場で配信しており、意見や考え方は筆者の個人的なもので、全ての文責は中田個人にあります。
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◆ F.M.Letter -フード・マイレージ資料室 通信-【ID;0001579997】 
 発行者:中田哲也
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